22.カイゼルの不器用な第一歩
急に自分がエリーゼの代わりに草取りをすると言ったカイゼルは、昨日気持ちを切り替えて自分はこれからエリーゼの為に何ができるかを考えていたのだった。
昨日の王太子執務室では………
「エリーゼ嬢をあんな目に遭わせておいておこがましいかもしれないが、私はこのままではいられないと思っている…」
「はい…」
「私は、今も何も思い出せずに苦しんでいる彼女の為に何がしてやれるのだろうか…彼女の本能が私を拒絶している手前どうしたら良いのか…」
カイゼルが、フェイに自分が思っている事を話し始めた。
フェイは、相槌をうってカイゼルの話には耳を傾けた。
カイゼルは、切なそうな表情を浮かべながら悩んでいた…
「まずは…エリーゼ様に自分は怖い存在ではないという事を理解して貰うというのはどうですか?エリーゼ様の本能が殿下を拒絶しているのであればまずはそこの部分を変えていくのが良いかと…」
「でも…どうやって変えていくというのだ?」
「まずは、エリーゼ様との距離を縮めていくというのはいかがですか?」
「距離を?しかし…あの謎の男がいるからそう簡単にはエリーゼ嬢には会わせて貰えそうにはいが…」
「そこは、折れずしつこくあの者にお願いするしかありませんね…」
フェイが、考えながら何かを思いついた様にカイゼルに提案した。
カイゼルは、首を傾げながらフェイへと尋ねた。
フェイは、まずはカイゼルがエリーゼとの距離を縮める事から始めるのがいいのではないかと言うとカイゼルはアリストンの存在を挙げた。
カイゼルに言われたフェイは、少し困った表情を浮かべながら言った。
「王太子の私が正体も分からない者に頭を下げろと?!」
「何者かは分かりませんが、エリーゼ様を救った方なのは事実です。それに…王都に足を運ばれる際は御自分が、王太子である事は隠しておくのが最善だと思います。エリーゼ様も、現在記憶をなくされていますので御自分が伯爵令嬢だという事もわからないままのご様子ですしね…」
「身分を隠すのか…それは、まぁ…隠しておく方が良いかもしれないな…」
「その方がよろしいですね。」
カイゼルは、フェイの言葉に反応した。
王太子である自分が王都に住む自分よりも身分が下の者に頭をなど考えられないカイゼルは思わず声を張った。
だが、フェイは冷静にカイゼルへと提案を続けた。
カイゼルは、フェイの提案に考えながら応えた。
「一先ず、明日エリーゼ様の所へもう一度訪ねてみましょう。」
「あぁ…分かった。」
「殿下…エリーゼ様にはきちんと自分の気持ちを偽る事なく接してあげて下さいね。」
「あぁ…分かっているさ…」
フェイが、カイゼルへと言うとカイゼルはどこか不安そうな表情を浮かべながら応えたのだった…
そして、カイゼルとフェイはもう一度エリーゼの元へと訪れたのだった……
※
「何故、立っているのだ?君は座って休んでいろと言っただろう?」
「えっと…あの…私は疲れてなどいないのでこの様な事して頂かなくても大丈夫です。」
カイゼルは、エリーゼが椅子の近くに立って自分の方を見ているので声をかけた。
すると、エリーゼは困った表情を浮かべながらカイゼルへと言った。
「まぁ…彼があぁ言ってますので、草取りは彼に任せてあなたは座って休憩して下さい。」
「ですが…見知らぬ方にその様な事をされましても困ります…」
「……。実は…彼、今度草取りのお仕事を引き受ける事になってまして。草取りなどあまりした事がないものですから…彼に草取りの練習をさせてやってはくれませんか?」
「草取りのお仕事ですか?」
「はい…」
二人の様子を見ていたフェイが、居ても立っても居られなくなりエリーゼへと声をかけた。
しかし、エリーゼは困った表情のまま応えた。
エリーゼの言葉に困ったフェイは、咄嗟に考えた理由をエリーゼへと節目した。
すると、エリーゼは不思議そうな表情をして言った。
「なんでも屋さんというのは、その様なお仕事までされるのですね…」
「なんでも屋さん?!」
「??ええ…だって、アリさんと同業者の方ならなんでも屋さんをされているのですよね?」
「えっ…?あぁ…そうだ。私…俺はなんでも屋の仕事をしているんだ…」
エリーゼは、へぇ〜という様な表情を浮かべて言った。
すると、カイゼルはエリーゼの言葉につい反応してしまい言った。
すると、エリーゼはキョトンとしてカイゼルへと言うとカイゼルはエリーゼの言葉に乗っかる様に応えたのだった。
「失礼ですが…その様子だと草取りのお仕事は難しいかと…」
「何故だ?!」
「え?えっと……」
「何だ?!言いたい事があるのなら言ったらどうだ?」
エリーゼが、カイゼルの草取りの様子を見ながらボソリと呟いた。
すると、カイゼルはエリーゼの言っている意味がわからないと言わんばかりにエリーゼへ尋ねた。
すると、エリーゼは気まずそうな表情で言葉を吃らせた。
そんなエリーゼを見てカイゼルは、モヤモヤした様な表情でエリーゼへ言った。
エリーゼは、カイゼルが少し声を張ったのでビクッと体を強張らせた。
そんなエリーゼを見てカイゼルは、まずいと思い言い直した。
「その…声を張ってすまなかった…その…何故、今のままだと仕事をするのに難しいんだ?」
カイゼルは、今度は優しくエリーゼを怯えさせない様に尋ねた。
「あっ…それは………草取りがまったく出来ていないのです…というより草取りが下手すぎます…」
「ブハッ!!」
エリーゼは、言い方を変えてくれたカイゼルを見て体の強張りがおさまったと同時に小声ながらはっきりと言った。
すると、それを聞いたフェイが思わず吹き出したのだった。
「おい!笑うな!!」
「申し訳ありません…しかし…下手って…プフッ……フフ…」
「笑うなと言っているだろう!」
「すいません…ぷぷ…」
吹き出したフェイに、カイゼルは少しムスッとして言った。
フェイは、謝るも笑いが止まらずにいた。
カイゼルは、さらにムスッとしてフェイに言ったがフェイは笑いを堪えられずにいたのだった…
「俺のどこが下手というのだ?しっかり取っているぞ?」
「……。私が草取りした所と見比べてみたら分かるかと…」
カイゼルは、自分はしっかりと出来ている自信があったので不満気にエリーゼへと尋ねた。
エリーゼ、気まずそうに自分が草取りしたところを指差しながらカイゼルへと言った。
そして、カイゼルとフェイはエリーゼとカイゼルの草取りした場所を見比べた。
「ブハッ……!」
フェイは、見比べた瞬間思わず吹き出した。
カイゼルは、あ然としていた。
エリーゼが草取りした所と、カイゼルが草取りした所を見比べると一目瞭然は程の違いがあったのだ。
エリーゼが草取りした所は、きちんと草が取り除かれ土も丁寧にならされていた。
しかし…カイゼルが草取りした所は草はほとんど取れておらず土はバラバラのままだった。
「そんな…たかが草取りだと言うのに…」
「たかがではありませんよ…草取りは畑の野菜をきちんと育てるのにとても重要な作業なのですよ…」
「そうなのか…?!」
「はい…」
カイゼルが、愕然としながら言った。
そんなカイゼルにエリーゼは困った表情で言った。
カイゼルは、エリーゼ、の言葉に思わず驚き言った。
エリーゼは返事をすると、カイゼルの元まで歩いてきた。
そして、恐る恐るカイゼルの横へとしゃがみ込んだ。
「いいですか?草取りというのは、こうして根本が力を入れすぎず根っこがなるべく千切れない様に抜くのです。そして抜いた場所の土を手でならしてあげるのです…やってみて下さい。」
「え?あっ…あぁ…」
エリーゼは、カイゼルに丁寧に優しく草取りのやり方を自分がやって見せながら説明した。
そして、カイゼルにやってみる様にといった。
カイゼルは、エリーゼが自分の元へ来た事と自分に丁寧にやり方を教えてくれている事に驚きのあまり慌てて応えてエリーゼに言われた通りにやってみた。
そして、カイゼルはエリーゼにやり方を教えて貰いながら残り半分の範囲の草取りをエリーゼと共に済ませたのだった。
フェイは、そんな二人の姿をホッとした表情で見ていた…
「終わったな…」
「はい…あの…お手伝い頂きありがとうございました…」
「いや…結局君に教えてもらった上に手伝って貰ったからな…」
「ですが…これで草取りのお仕事は上手くいきますね。」
「えっ?あぁ…ありがとう。」
「いえ…」
カイゼルが、草取りが終わった所を見て言った。
エリーゼは、カイゼルへお礼を言った。
カイゼルは、苦笑いしながら言うとエリーゼが応えた。
(エリーゼ嬢が、私を拒絶する事なく近くにいるのだな…記憶がないにも関わらず心優しいのは変わらないのだな…だが、逆に記憶が戻れば私は完全に拒絶されるのだろうな…)
カイゼルは、エリーゼと会話を交わしながら心の中ではそんな事を考え複雑な気持ちになっていた…
「おい!お前たち!!そこで何をしているんだ?!」
カイゼルがそんな事を思っていると、急に大声で言われたのだった…