19.予期せぬ訪問
アリストンは家へと向かっている際に、家の前にカイゼルとフェイが訪れている事に気づき慌てて急ぎエリーゼとカイゼル達の元へと走り戻ってきた。
エリーゼは、カイゼルに酷く怯えているのか体を震わせて体を強張らせていた。
そんなエリーゼを見たアリストンは表情を険しくした。
そして、エリーゼの前と自分が立ちはだかった。
(何故…ここへカイゼルが居るのだ…お忍びの格好をしていてもすぐにわかったぞ…エリーゼがここへいる事はメディス伯爵達にしか言っていないはずだが…)
「そなたが、エリーゼ嬢を匿っていたのか?何者だ?!」
カイゼルが、急に走り戻ってきてエリーゼへの前に立ちはだかったアリストンに向けて言った。
(カイゼルも一緒にいる者も、私が誰だか分からないのだな…無理もないな…王宮に家族の肖像画は飾ってあるが、あの肖像画は私が九歳の時だならな…それ以降は私は王宮から出たからそれ以降の肖像画などないからな…)
アリストンは、自分の正体に気づいていない二人を見て思っていた。
「人聞きの悪いことを言うのだな…それに、初対面の者…しかも年上の者に対してその様な物言いはいかがなものかと思うがな…」
アリストンは、圧のある言い方でカイゼルへと言った。
「くっ…私を誰だと…」
カイゼルが、アリストンを威嚇する様に言おうとすると…
「君が誰だろうと関係ない事だ。まずは、人に物を尋ねる時はそれなりの対応をするのが筋だと思うがな…」
アリストンは、淡々と変わらず圧をかけながらカイゼルへと言った。
そんなアリストンとカイゼルを見てフェイが口を挟んだ。
「急な訪問申し訳ありません…我々は人を探していまして…我々の探している方をこの辺りで見かけたという話を聞きましたので…」
フェイが、礼儀正しく丁寧にアリストンへと言った。
(この者は…カイゼルの側近か…恐らく、今朝私が家を出る際にエリーゼが玄関先まで見送ったところを捜索している騎士に見られたといったところか…)
アリストンは、フェイの話を聞いてそそんな事を考えていた。
「そうなのか…一先ず…ここでは人目もある。中へと入るといい。話はそれからだ…」
アリストンは、カイゼルとフェイへと言うと二人を家の中へと入れた。
「エリーゼ…すまないがこの者達と話があるから二階の私の部屋の片付けをお願いしてもいいかな?」
「え?あっ、はい。分かりました。何か触るとまずいものなどありますか?」
「いや、ないよ…それよりも汚さに驚かないでくれよ?」
「ふふ…はい。分かりました。」
家の中へ二人を入れたアリストンは、どこか不安そうな表情を浮かべているエリーゼに自分の部屋の片付けを頼んだ。
エリーゼは、慌てて応えた。
そんなエリーゼに、アリストンは冗談混じりに言った。
エリーゼは、くすっと笑いながら応えると二階へ行ったのだった。
「狭い所だがかけてくれ…」
アリストンが、笑顔でエリーゼが二階へあがったのを確認するとカイゼル達の方を見た瞬間真剣な表情になり二人へと行った。
アリストンに言われたカイゼルとフェイは、目の前にあるダイニングテーブルの椅子へと腰掛けた。
「何故、この様な所にエリーゼ嬢がいるのだ?」
椅子に座るなり、カイゼルは眉間にしわを寄せながらアリストンへと尋ねた。
(はぁ…ガストンめ…カイゼルに王太子として以前に人として人に接する態度すら教えていないのか…)
カイゼルの話し方に対して、アリストンは心の中でため息をつきながら思っていたのだった。
「まずは、目上の人に対する者への話し方を学んだ方がいいのじゃないのかな?」
アリストンは、何とも言えない圧と目つきでカイゼルへと言った。
アリストンのその圧に、カイゼルもフェイも一瞬うろたえる程であった。
「………。何故…ここに、エリーゼ嬢がいるのですか……?」
カイゼルは、グッと耐えるように言い方を変えてアリストンへと尋ねた。
「……。君達が何故、エリーゼを探しているのかは知らないが…私はエリーゼを助け、当分ここで私と共に生活をする事になったのだ。」
アリストンは、カイゼルの話し方を聞いてやれやれといった表情を浮かべながら言った。
「何だと?!あっ…いや、どういう事なのですか……?」
カイゼルは、勢いよく声を張ったがハッとなり声の音量を落として言い直し尋ねた。
「ふ〜……私がたまたま通りかかりエリーゼを見つけた時には、既に馬車とエリーゼが襲われた後だった。頭を打ち血を流しているエリーゼを見てすぐに連れ帰って医者に見せたのだ。」
「おまっ…あなたがですか?エリーゼ嬢を助けたという事は分かりますが、何故ここで共に生活するということになるのですか?」
アリストンは、カイゼルへと自分がとった行動の説明をした。
すると、カイゼルはまたも声を張りそうだったがすぐに抑えて疑問をアリストンへと尋ねた。
「医者に診せたところ…エリーゼは記憶喪失になってしまっている様なのだ…」
「「なっ…記憶喪失?!」」
「あぁ…そうだ。盗賊に襲われた際に頭を強く打ったことも原因の一つだが…更に大きな原因となったのは…襲われる以前に何らかの大きな精神的ダメージがあったからだというのが医者の見解であった…」
「精神的なダメージ……」
すると、アリストンはエリーゼの今の状況を説明した。
すると、アリストンの言葉に驚いたカイゼルとフェイが同時に声をあげた。
そして、アリストンはカイゼルの方をちらりと見ながらエリーゼが記憶喪失になった原因の説明した。
アリストンの説明を聞いたカイゼルは、俯きながら呟いた。
「という訳で、記憶が戻るまでエリーゼをここで生活させる事にしたのだ…無理に思い出させるのは良くないと医者に念を押されたからな…」
「しかし…先程から不思議に思っていたのですが、何故あなたはエリーゼ様をエリーゼとお呼びになっているのですか?エリーゼ様は記憶喪失という事は、御自分の名前も覚えてらっしゃらないのではないのですか?」
「君は…鋭いな。私が名前も覚えていはいエリーゼにエリーゼと呼んでいるのはエリーゼが幼い頃からエリーゼの事を知っていたからだ。私が出会った頃よりは成長していたが面影があるから助けた時にすぐにエリーゼだとわかったからな…」
「そういう事だったのですか…謎が解けました。」
アリストンが言うとフェイが、ずっと気になっていた事を尋ねた。
すると、アリストンは昔からエリーゼの事を知っていると応えた。
それを聞いたフェイは納得した様に言った。
「君達と、エリーゼがどの様な関係で何故エリーゼの事を探しているのかは知らないが…エリーゼは君を見て酷く怯えている様に見えたが…」
「私は、エリーゼ嬢とはその…」
アリストンは、何故カイゼル達がエリーゼを探しているのかを知った上であえてカイゼルを見て言った。
すると、カイゼルはアリストンからエリーゼが怯えていたと聞くと俯き気味で言葉をどもらせて言った。
「……。私からご説明致します…この方は…」
「フェイ…言わなくてもよい…」
「ですが…」
「よいのだ…」
カイゼルの様子を見たフェイが、察して口を開いた。
すると、カイゼルはフェイの腕を掴み首を振りながら言った。
フェイは戸惑ったが、カイゼルは自分の正体もエリーゼとの関係も言うなという目で訴えながらフェイへと言った。
「今日は…これで失礼します…突然訪問して申し訳ありませんでした…」
「………。いや…大丈夫だ。」
そして、カイゼルはアリストンへと丁寧に言った。
アリストンは、そんなカイゼルをじっと見つめながら応えた。
そして、カイゼルとフェイはアリストンへ一礼をしてアリストンの家を後にしだった。
(ふぅ〜あの様子だと、カイゼルはエリーゼに精神的ダメージを与えたのは自分で…更には記憶がないにも関わらず反射的にエリーゼが自分に怯えていた事がよほど堪えた様だな…)
アリストンは、帰っていく二人を見つめながらそんな事を考えていたのだった。
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※休日は、更新が疎らになってしまいますが出来るだけ更新出来たらなと思ってますので更新後引き続き読んで頂けたら光栄です✧◝(⁰▿⁰)◜✧