18.これからの事
昔の事を思い出していたアリストンは口を開いた。
「あれから、会いに来る事が出来ずすまなかった…あれから数年ほど各地を色々と回っていたのだ…国へ戻ってからも王宮から回ってくる任務が多くてな…言い訳しかならないが…」
「殿下!謝らないで下さい。殿下がお忙しい事は十分に理解していますので。会いに来て下さろうと思っておられた気持ちで十分嬉しく思いますので…」
「ありがとう…そう言ってもらえると救われるな…」
アリストンは、申し訳なさそうに自分が約束を守れなかった事をマイクへと謝った。
マイクは、そんなアリストンへ慌てて言った。
アリストンは、マイクの言葉を聞きホッとした表情で言った。
「ここ一年ほど、ペレの体調が思わしくなくてな…ペレを療養させる為に隣町まで行っていたのだ。その帰りに偶然襲われた馬車の直ぐ側で、怪我を負って倒れているエリーゼを見つけたのだ…最後にエリーゼを見たときよりも成長していたが幼い頃の面影があったのですぐにエリーゼだとわかったのだ…まさかエリーゼとの再会がこの様な形になるとは思ってもみなかったよ…」
「そうでしたか…ペレ様のご容体は大丈夫なのですか?本当にエリーゼを助けて頂きありがとうございます…」
「ペレは、歳も歳であるからな…疲労が溜まっていたのもあるそうだ…だが療養すれば回復するそうだ。あの時、私が伯爵に救ってもらった恩返しだと思ってくれるといい…」
アリストンが、エリーゼを発見した時の事をマイクへと説明した。
マイクは、改めてアリストンへ感謝の言葉を伝えた。
アリストンは、ようやく自分を救ってくれた者への恩返しが出来ると思っていたのだった。
「それで、今後の事なのだが…記憶をなくしているエリーゼにとって一番よい環境を作りたいと思っているのだが…エリーゼをこちらへ連れてここがエリーゼの家だと伝える手も良いと思うのだが…」
「……。いえ、今は記憶をなくしたばかりでエリーゼも不安を抱えていると思います。急にここがエリーゼの家だと言っても混乱してしまうかと思います。ですので、殿下にはご迷惑をおかけするのを承知で時期を見るまでエリーゼをお預かりして頂けないでしょうか?」
アリストンは、早速今後のエリーゼの動きの相談をマイクへ持ちかけた。
しかし、マイクはアリストンが思っていた事と反対の意見を言ったのだ。
「伯爵達はそれで良いのか?エリーゼに会いたくはないのか?!」
「エリーゼには会いたいです…ですが、今すぐに家族だと言われてもエリーゼは混乱すると思うのであくまで殿下の知り合いという形で私達をエリーゼへ紹介してくれませんか?殿下の知り合いという事にして頂き、メディス伯爵家の領地などに連れ出し一緒に牧場や畑仕事をするという形にしたいのです。そうして一緒に時間を共有する事でいつかエリーゼが自然に私達の事を家族だと思い出してくれるといいなと思っているのです。」
「その様に考えていたのか…伯爵がその様な考えなのであれば、エリーゼの父である伯爵の意思を尊重したいと思う。」
アリストンは、思わず声を張りマイクへと尋ねた。
マイクは、娘を思う父としての意見をアリストンへと伝えた。
アリストンは、真剣な表情で気持ちを伝えてくれたマイクの意思を尊重すると伝えたのだった。
「しかし…嫁入り前の娘をこんな男に預けて心配ではないのか?」
「何の心配もございません。殿下の事は信用していますし、エリーゼも殿下にあれほど懐いていたのです。一緒に過ごせば何か思い出すかもしれませんから。」
「はは…そこまでの信用を勝ち取っているのだな。エリーゼの事は私が責任を持って預かる事にする。皆で必ずエリーゼの記憶が戻る事を信じて力を合わせるとしよう。」
「はい。殿下ありがとうございます…」
アリストンは、ふと不思議に思ったことを尋ねた。
すると、マイクは少し微笑みながらアリストンへと言った。
マイクの言葉を聞いたアリストンは、笑いながら自信満々に言った。
マイクは、そんなアリストンへとお礼を言った。
「ところで…エリーゼが無事だった事は王宮へご報告されるのですよね?」
「え?あぁ…王宮の騎士団が捜索をしている以上報告をしない訳にはいかないな…私がガストンへ手紙を出すとしよう。エリーゼは私が保護しているから心配するなと。それと、伯爵達には伝えたと言っておく。今はガストンやカイゼルには会いたくはないのだろう?」
「承知しました。………。殿下の言う通り今はエリーゼがこの様な事になった原因を作った…特に王太子殿下には正直なところお会いしたくはありません…」
「娘がこの様な目に遭ったのだ…そう思うのは当たり前のことだ。では、ガストンには上手く言っておく。カイゼルがエリーゼに会いに来ないようにも十分伝えておく事にする。」
「ありがとうございます…」
マイクが、アリストンへ気にしていた事を尋ねた。
すると、アリストンは困った表情を浮かべながら応えた。
すると、マイクはグっと唇を噛みながら言った。
アリストンは、マイクの気持ちに寄り添いながら応えると自分がどうにかすると言ってマイクを安心させたのだった。
そんなアリストンにマイクはお礼を言った。
その後、アリストンとマイクはアリストンの正体を知っているナディアが休んでいる部屋へと行きエリーゼの事を伝えた。
ナディアは、泣いて喜んだ。
そして、アリストンに何度も何度もお礼を言ったのだった。
そして、アリストンとマイクが決めた今後の方向性にも笑顔で賛成したのだった。
その後、アリストンとマイクはアリストンの正体を知らないブラットや使用人達にもエリーゼの話をした。
皆は、エリーゼが記憶喪失になっている事には戸惑ったがそれよりもエリーゼが無事だという事実に涙を浮かべて喜んだ。
そして、アリストンへお礼を言った。
ブラットや使用人達も、エリーゼの為にアリストンとマイクの話には賛成したのだった。
こうして、アリストンとメディス伯爵邸の皆でエリーゼの為に力を合わせる事となったのだった。
アリストンは、マイクにメディス伯爵家のミルク、チーズ、小麦粉をエリーゼの為に持って帰りたいと言ってそれを受け取りエリーゼの元へと帰って行ったのだった。
※
その頃…王宮では………
「何だと?!エリーゼ嬢を見かけたと?!」
「はい。エリーゼ様の顔をご存知の騎士の一人が王都を捜索していたところ、王都に住む男性の見送りを玄関先でしていたとか…」
「王都に住む男性だと?!本当にエリーゼ嬢だったのか?!」
「エリーゼ様のお顔を知っている騎士が見たとなれば恐らくエリーゼ様で間違いないかと思われます。」
王宮内の王太子執務室に、カイゼルの声が大きく響いた。
カイゼルへ、報告を受けたフェイが説明をした。
カイゼルは、フェイの説明を聞き険しい表情をしていたがフェイはそのまま説明を続けたのだった。
「一先ず、そのエリーゼ嬢を見たという場所へ行く。すぐに出かける支度をする。」
「はい。承知いたしました。」
カイゼルは、考えていても仕方がないと思い一先ずその場所へ行ってみると言った。
フェイは、返事をするとすぐに出かける支度に取り掛かったのだった。
そして、カイゼルとフェイは馬車に乗り込み王都へと向かった。
エリーゼを見たと報告してきた騎士から聞いた場所へと辿り着いた。
「ここで合っているのだな?」
「はい。こちらが報告を受けた際に騎士から聞いた場所でございます。」
「そうか…」
辿り着いた一件の家の前に立ったカイゼルは、フェイへと尋ねた。
フェイは、頷きながら応えた。
そして、カイゼルはゴクリと唾を飲み込みながら緊張の面持ちで呟いた。
そして……
家の扉を叩いた。
コンコンッ!!
すると…
「はい…」
家の中から、女性の声が聞こえた。
そして、ゆっくりと扉が開かれた。
扉を開いた先に居たのはエリーゼだった。
「アリさん、お帰りな……えっ??えっと……どちら様ですか?」
エリーゼは、扉を叩いたのがアリストンだと思い扉を開けながら声を出した。
しかし、扉を開けた先に居たのはアリストンではない事にエリーゼは戸惑い尋ねた。
「本当に君だったんだな…」
カイゼルが、エリーゼの姿を見て何とも言えない様な切ない表情で呟いた。
「はい?えっと…どちら様ですか?アリさんのお知り合いの方でしょうか……?」
エリーゼは、カイゼルが言った事に戸惑いながら尋ねた。
「何を言っているのだ。私だ。」
カイゼルは、エリーゼが何故知らないフリをしているのか少し声を張って言った。
すると、エリーゼは体をビクリと震わせ強張らせたのだった。
その時!!
「エリーゼ!!」
遠くからエリーゼの名を呼びながらアリストンが走って来たのだった。