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17.恩人家族

アリストンは、目をゆっくりと開けた……


「お気づきになられましたか?」


アリストンが目を覚ました事に気づいた男性が声をかけた。


アリストンは、声をかけてきた男性の方をゆっくりと見た。


「何者だ……?」


アリストンは、喉がとても乾いているせいで上手く声が出せないまま男性へと尋ねた。


「これは…申し遅れました。私はこの邸の当主であるメディス伯爵のマイク・メディスと申します。アリストン王兄殿下…」


男性の正体は、メディス伯爵のマイクだった。

マイクは、アリストンへ丁寧に挨拶をした。

そして、アリストンの名を呼んだ。


「?!何故…私が……王兄だと…?」


アリストンは、思わずマイクの言葉に驚き言った。


「アリストン殿下を救出し、邸へと運んで手当てをする際に王族の紋章の入った札が洋服から落ちたのです。それであなた様がどなたなのか知りました…さぁ…少し身体を起こしてもよろしいですか?お水を飲まれた方がよろしいですから。」


マイクは、丁寧にその際の状況をアリストンへと説明した。

そして、アリストンの体へと手を起きアリストンの体を起こそうとしたのだった。


「そう…だったのか…助けてくれた事感謝する…伯爵があの場へいなければ私はあの場で息絶えていただろう…」


「ちょうど、あの場所へ薬草を採りに行った帰りだったのですよ…毒と傷の処置はしっかりとさせて頂きました。さぁ…お水を。私が毒味致しますので。」


「本当に感謝する。ありがとう…毒味などは必要ない…王宮を出てからはその様な事はしてないないからな…」


「左様でございますか。では、このままで失礼します…」


アリストンは、体を起こしながらマイクへと言った。

マイクは、あの場所へ自分がいた理由を説明した。

そして、水をコップへ入れて毒味をしようとするとアリストンに不要だと言われそのまま水の入ったコップをアリストンへと渡した。


そして、アリストンは水を一気に飲み干したのだった。


「生き返った様だ…喉がカラカラだったのだ。それで、私の素性だが…」


「はい…アリストン殿下の素性は、私と妻のナディアしか知りません。息子と娘、使用人達には言いませんのでご安心下さいませ。」


「助かるよ。伯爵も皆がいる時は、私をアリと呼んでくれるとありがたい。」


「はい。畏まりました。では、皆の前ではその様に呼ばせて頂きます。」


水を飲み声が出るようになったアリストンは、マイクへ自分の素性は黙っておいて欲しそうに言った。

マイクは、すぐにそれを察して妻以外には黙っていると言ったのだった。


二人が話をしていると、部屋のドアがノックされた。


「はい。」


マイクが応えた。


「お父様、エリーゼでございます。入ってもよろしいでしょうか?」


そう言ったのは、エリーゼだった。


「あぁ…入っても大丈夫だよ。」


マイクは優しく応えた。


「失礼します…おじ様の具合はどうですか?」


部屋へと入ってきたエリーゼは、マイクへアリストンの様子を心配そうな表情で尋ねた。


「あぁ…目覚められよ。もう大丈夫だよ。」


マイクは、エリーゼへと応えた。

すると、それを聞いたエリーゼはパァっと笑顔になりマイクとアリストンの元へとやって来た。


「目が覚めて良かったです。私はエリーゼと申します。お見舞いのお花を摘んできたのです。」


エリーゼは、体を起こして座っているアリストンへと自己紹介をすると自分で摘んできた花をアリストンへと差し出した。


「エリーゼか。花をありがとう。きれいだな。私の名はアリだ…アリと呼んでくれ。」


アリストンは、花を受け取ると優しく微笑みながらエリーゼへと言った。


「アリおじ様ですか?今日から、私がアリおじ様のお世話をしますね。」


エリーゼは、にこにこと微笑みながら言った。


「エリーゼ、それは…」


マイクが、エリーゼへそれは無理だと言おうとすると…


「あぁ…では、エリーゼにお願いするとしよう。今日から頼んだぞ。」


「はい。」


アリストンが、マイクが言う前にエリーゼへと笑顔で言った。

エリーゼは、アリストンに言われて満面の笑みを浮かべて嬉しそうに応えた。


マイクが、少し困った表情でアリストンを見るとアリストンは頷き"大丈夫だ"という表情でマイクへと合図をした。

それを見たマイクも"ありがとうございます"と言うように頷いたのだった。


それから、エリーゼは毎日の様にアリストンの元へと花を持ってやって来た。


そして、アリストンの傷の手当てもエリーゼがやってくれたのだ。

アリストンは、まだ子供であるエリーゼの手際の良さに感心していた。


アリストンは、ナディア伯爵家は貴族でありながら贅沢を好まず最低限の使用人のみしか雇わずにいる家系だということを思い出し納得したのだった。


それからも、エリーゼはアリストンの元へとやって来ては本を読んでくれたり話を聞かせてくれたりしていた。

時には本を読みながら、エリーゼが眠ってしまった事もあった。


アリストンが、少し外へと出れる様になるとエリーゼはアリストンを連れて牧場の牛の元へ行き乳搾りをしたり畑を見せたりもしたのだった。


そして、エリーゼは夜寝る際もアリストンのベッドで一緒に眠るほどアリストンへ懐いていたのだった。

エリーゼの兄であるブラットが少し焼き餅を焼くほどだった。


マイクやナディアは、ひやひやしながら見守っていたが当のアリストンはそんなエリーゼを娘の様に思い可愛がっていた。


アリストンの体調もすっかり良くなり、アリストンが伯爵邸から自宅へと戻る時がやって来た。


アリストンが毒に侵されてマイクが助けた際に、アリストンが王兄だと気づいてすぐにアリストンの側近であるペレへと内密に連絡をしていたのだった。


ペレが、伯爵邸へアリストンを迎えに来たのだった。


「アリおじ様…本当にもう…帰られるのですか?」


「あぁ…エリーゼ…私は体調も君たち家族のお陰で良くなったからね。」


エリーゼは、目に涙を浮かべて寂しそうな表情でアリストンへと尋ねた。

アリストン、そんなエリーゼを見てやるせない気持ちになりながらも応えた。


「また、会いに来てくれますか?」


「あぁ…時間を見つけて必ず会いに来るよ。その時はまた、エリーゼがおじさんに本を読んでくれるか?」


「はい。もちろんです。」


エリーゼは、寂しそうな不安そうな表情でアリストンへ尋ねた。

すると、そんなエリーゼにアリストンは笑顔で言った。

エリーゼは、アリストンの言葉を聞き一気に笑顔へと変わり嬉しそうに言ったのだった。


「あっ…そうだわ…アリおじ様これを…」


「ん?これな何かな?」


「焼き立てのパンです。朝からアリおじ様の為に焼いたのです。まだ、パン作りを始めたばかりなのでお店のパンの様に完璧ではありませんが一生懸命作ったので良ければ食べて下さい。」


「エリーゼが、一人で作ったのか?それは食べるのが楽しみだな。ありがとう。」


エリーゼが、ハッと思い出した様に手に持っていたバスケットをアリストンへと渡した。

アリストンは、何かと不思議に思いエリーゼへ尋ねた。

すると、エリーゼは自分が焼いたパンだと応えた。

エリーゼの気持ちが嬉しくてアリストンは、嬉しそうにバスケットを受け取ったのだった。


「では…メディス伯爵世話になった。感謝する。この恩は忘れない…いつか恩返しをさせてくれ…」


「いえ…その様な。お気遣いなく。私共は、その様な事をして欲しくてお助けしたのではないのですから…また、皆の為に会いに来て下さるだけで十分でございます…お気をつけてお帰り下さい。」


「あぁ…ありがとう。また、会いに来させて貰う。」


アリストンは、お改めて礼を言った。

そんなアリストンに、マイクは慌てて言葉を返した。

アリストンは、フッと笑みを浮かべながら言うとペレと共にメディス伯爵邸を後にしたのだった…


(本当に、メディス伯爵家の者達には感謝してもしきれないな…命の恩人だからな…それにとても温かい家族だったな。貴族にもあの様に見返りなど一切求めない者がいるのだな。この恩はいつか返せるとよいな…)


アリストンは、帰り際にエリーゼから貰ったパンを味わいながらそんな事を思っていたのだった………

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