15.アリの訪問
エリーゼが行方不明になってから一夜が明けた……
「アリさん…起きてください。朝ですよ。朝ごはんが出来ましたので食べましょう…」
そうアリに声をかけたのはエリーゼだった。
「んん…っん?エリーゼ!まだ起きて動いては危ないだろ?昨日怪我を負ったばかりなのだぞ?」
「お医者様は、少しならば動いても良いと言っておられました。それに朝日が差し込んだら身体が勝手に動いたのです。寝たきりの方が身体が痛くなってしまったのです…」
エリーゼに、声をかけられて目を覚ましたアリは目の前にエリーゼがいる事に驚きエリーゼに注意をした。
すると、エリーゼは困った表情を浮かべながらアリへと言った。
「本当に動いても大丈夫か?体調が悪くなどなったりしていないか?」
「はい。大丈夫です。朝食を作る程度の動きでしたら問題ありませんでした。さぁ…冷めないうちに朝食を食べましょう。」
アリは、頭を掻きながら心配そうにエリーゼへと言った。
エリーゼは、にこりと微笑みながら応えた。
そして、二人は作りたての朝食を食べたのだった。
「うん。美味いな。こんなに美味いものが食べれるのなら逆にエリーゼにお駄賃をやらないといけないな。ははは…」
「ふふふ…アリさんたら…それよりも勝手に食材を使ってしまいごめんなさい…」
アリは、朝食を一口口にすると満足そうに頷きながらエリーゼに冗談を言った。
そんなアリの冗談にエリーゼはくすくすと笑みを溢した。
そして、ハッとなりキッチンの食材を許可なく使った事を謝った。
「構わないさ。むしろ、よくたったあれだけしかなかい食材でこんなに美味い朝食を作れたものだな…男の一人暮らしだと食材もほとんど買わないからな…」
「どうやら、私は料理の才能があるのかもしれませんね。記憶がなくてもさくさくと作ることができたので。」
アリは、感心した様に言った。
すると、エリーゼは笑顔で応えた。
(記憶がなくなってもエリーゼの良い所は変わらないままなのだな…)
笑顔のエリーゼを見ながらアリはそんな事を思っていた。
「私は、朝食を済ませたら少し出かけてくるので留守を頼んでもいいかな?」
「留守番は構いませんがどちらへ行かれるのですか?」
「小麦にミルク、チーズなどを買いに行ってくるんだよ。そこのミルクやチーズは絶品なんだよ。」
「そうなのですか?食べるのが楽しみになりますね。私はアリさんが留守の間に掃除などを済ませておきますね。」
「あぁ。頼んだ。私が帰宅したら、私の保持している畑へ案内するよ。少し外の空気を吸った方が体にも良いしな。」
「はい。ありがとうございます。楽しみにしています。」
朝食を食べ終わりそうになった時、アリがエリーゼへと言った。
エリーゼは、アリがどこへ行くのが不思議に思い行き先を尋ねた。
アリは、どうやら行きつけの場所へ行くようだった。
アリは、自分が帰宅したらエリーゼを外へ連れ出すと約束をすると支度をして家を出たのだった。
アリを見送ったエリーゼは、早速朝食の後片付けをした後に家の掃除を始めたのだった。
※
家を出たアリは、ある場所へと向かっていた。
向かった先はメディス伯爵邸だった。
アリは、邸の外で庭の手入れをしていた使用人へと声をかけた。
「すまないが…メディス伯爵に会いたいのだが…」
アリが、使用人へと声をかけた。
声をかけられた使用人はアリの方を振り向いた。
振り向いた使用人は、アリを見て驚いた。
「アリさんではありませんか!お久しぶりでございます。お元気でしたか?」
「あぁ…久しぶりだな。私は変わらず元気だ。ダニも変わらず元気そうで何よりだ。」
使用人の一人のダニは、アリを見て嬉しそうに尋ねた。
アリは、笑顔でダニに応えた。
「あっ…旦那様にお会いになられたいのでしたね。本日は旦那様はご在宅ですのでご案内致します。」
「あぁ…ありがとう。助かるよ。」
ダニは、すぐにマイクが邸にいる事をアリへと伝えアリを邸の中へと案内したのだった。
邸に入ると丁度マイクが執務室へと向かうところでアリとダニとばったり遭遇した。
「これは…アリスト…アリさんではありませんか。お久しぶりでございます。とても急な訪問ですがいかがされましたか?」
「伯爵、久しぶりだな…今日は少々尋ねたい事があって伺わせて貰ったのだが時間はあるだろうか?」
「??尋ねたい事ですか…。時間は大丈夫ですのでこちらへどうぞ。」
マイクは、アリを見て驚いたがすぐにアリに丁寧に挨拶をした。
アリは、真剣な表情を浮かべながらマイクへと言った。
真剣な表情のアリを不思議に思いながらも、マイクはアリを執務室へと案内した。
執務室へ入り椅子に腰をかけた。
「アリストン様……ご無沙汰致しております。お元気そうで安心致したした。妻が少し寝込んでしまっているもので少々邸が慌ただしくなってますがお気になさらずにして下さい。」
マイクは、アリと二人きりになると先程よりも丁寧さを増して言った。
そして、疲れた表情でナディアの事も伝えた。
「あぁ…伯爵も変わりない様だな。伯爵夫人は体調を崩されているのか……。つかぬ事を聞くが、もしや夫人が体調を崩した原因はエリーゼではないか?」
アリは、少し微笑みながらマイクへと言うと微笑みから一転真剣な表情でマイクへと尋ねた。
「?!何故…それをご存知なのですか?!アリストン様の仰られた通りエリーゼの事で色々とありましてナディアは体調を崩してしまったのです…ですが、何故原因がエリーゼだとお分かりに?」
アリの言葉を聞いて驚きを隠せないマイクはアリへと尋ねた。
「やはりそうか…実は今、エリーゼはうちで保護しているのだ。」
「え?アリストン様の所でですか?エリーゼは無事なのですか?」
「あぁ。怪我は負っていたもののすぐに医者に診せたので問題はない。」
「あっ…ありがとうございます。アリストン様…何と感謝したらいいのやら…」
「いや、礼には及ばない。しかし…ちょっとした問題があってな…」
アリは、やはりナディアが体調不良なのはエリーゼが原因だと知った。
そして、アリはエリーゼは自分の所へいるとマイクへ伝えた。
マイクは、アリの言葉に驚き何度も頭を下げながら礼を言った。
しかし、アリの最後の一言にマイクは渋い表情を浮かべた…
そして、アリはエリーゼを助けた事・エリーゼが記憶を失っているという事・記憶喪失の原因は二つあるという事・記憶が戻るまでアリの家に住むことなど事細かくマイクへと説明したのだった。
また、マイクも昨日カイゼル達が来て聞いた話を事細かくアリへと説明した。
お互いの説明を聞き終わると…
「その様な事があったのか…それならば精神的なダメージが原因の一つと言われても納得出来るな…まさか、エリーゼが王太子妃候補に選ばれていたとは…それもカイゼルが探していた少女がエリーゼだったとは…」
「はい…殿下の心にもない言われ様はエリーゼにとって大きなダメージになったと思いますので…エリーゼは優しい子ですので余計に驚きショックを受けた事でしょう…」
アリは、顎を手で触りながら真剣な表情で言った。
マイクは、エリーゼの事を思うとやるせないのか心配そうな表情を浮かべながら言った。
「アリストン様に助けて頂けて本当に良かったです。本当にありがとうございます。感謝してもしきれません。あの子が無事だったのはアリストン様が助けて下さったお陰です。」
「本当に礼には及ばないさ…私も伯爵達には助けられた身なのだから…これであの時の恩返しが出来るというわけだ…」
マイクは、涙を浮かべながら何度もアリへとお礼言った。
アリは、優しく微笑みながら昔を思い出す様にマイクへ言ったのだった………