11.ずっと探し続けていた少女
エリーゼが、アリと一緒に生活すると決まったその頃………
王宮内の執務室では、珍しくいつも冷静なフェイの大きな声が響いていた。
「殿下!!エリーゼ様を王宮から追い出したと言うのは本当なのですか?!何故その様な事をされたのですか?!私の報告を聞かぬうちに何故その様な事を……」
フェイは、庭でエリーゼと別れた後王太子の執務室へと向かったがカイゼルの姿が見えなかったので探しに出たのだ。
カイゼルを探していた時に、エリーゼの侍女をしていたマリアが一人泣いているのを見つけたのだ。
フェイは、マリアに泣いている理由を聞いて驚いた。
フェイの知らない間に、カイゼルがエリーゼを王宮から追い出したというのだ。
マリアの話を聞いたフェイは、急いで執務室へと戻った。
執務室へ戻る途中に、料理長のユーリに声をかけられた。
「フェイ様…エリーゼ様がこちらをフェイ様にお渡しして欲しいと言われ預かったのです…」
「エリーゼ様が私に?」
「はい…短い間ですが王宮でお世話になったからと…私やロイ、マリアも頂きました…」
「分かった…渡してくれてありがとう。」
「はい…」
ユーリは、エリーゼからフェイにと預かっていた紙袋をフェイに手渡した。
フェイは、驚きながらもユーリから受け取り礼を言った。
そして、紙袋を手にしたまま急ぎ執務室へと向かったのだった。
フェイが、執務室へ戻るとそこにはカイゼルの姿があった。
つい先程、執務室へと戻って来た様だった。
フェイは、カイゼルに挨拶する前に冒頭の言葉を口にした。
「フェイ…部屋に入ってくるなり挨拶もなしに言いたい放題だな…私の居ない間にエリーゼ嬢などにまんまと骨抜きにされていたくせに…あの様な見境のない令嬢など王宮にも王太子妃にもふさわしくない…だから王宮から出ていってもらったのだ。」
カイゼルは、フェイへ冷たい視線を向けながら淡々と言い放った。
「はい……?私が骨抜きに?何の事を言っているのかわかりませんが…」
「ふんっ…白々しい…先程、二人で庭で楽しそうに話をしていたではないか…花まで貰っていたな…その様な事をしておいて何を言っているのだ…私が居ない間の事をお前に任せたのが失敗だったな…」
フェイは、本当にカイゼルの言っている意味がわからないという表情でカイゼルへと言った。
そんなフェイに余計に苛立ちを覚えたカイゼルは、更に冷たく言い放った。
「殿下見ておられたのですか?……。私が受け取った花はエリーゼ嬢が殿下のお部屋にと自分で摘まれたものでございます。」
「花を私の部屋にだと?見え透いた媚の売り方だな…」
「殿下!!エリーゼ様は、その様な方ではありません。花も自分からだと言わずに私が気分を変えるために飾ったという事にしてくれと言われました…それに…エリーゼ様は……殿下が長年お探しになられている例の少女で間違いありません!!」
フェイは、自分達の事を見ていたのに声をかけてこなかったカイゼルを不思議に思い言った。
そして、カイゼルが何かを勘違いしていると思ったフェイはエリーゼとの会話を説明した。
しかし、カイゼルは聞く耳を持たず言葉を吐き捨てた。
あまりの言い草にフェイは、痺れを切らせてカイゼルへと強い口調で言ったのだった。
「は?エリーゼ嬢が私の探していた少女だと……?ばかな……」
「はい…まず間違いなと思います。殿下がお戻りになられたら一番にご報告しようと思っていました…」
フェイの言葉に、カイゼルは思わず目を点にして呟いた。
しかし、フェイは真剣な表情でカイゼルに応えた。
「私の探している少女が、エリーゼ嬢だという根拠はなんだ?」
「はい。エリーゼ様は、殿下より五つ歳が下でございます。それに加えて…テオがエリーゼ様に一瞬で気を許し懐いております。それは王妃様も御自分の目で見られたと仰ってました。そして、王妃様はエリーゼ様から幼い頃に王都で野良猫の世話をしていて、その猫の名前がテオだったとお聞きになられた様です。その時のテオが殿下が飼っておられるテオだとは気づいておられない様ですが…そして、もうひとつはこちらです…」
カイゼルが、渋い表情を浮かべながらフェイに尋ねた。
すると、フェイは確信を持っているといわんばかりの表情を浮かべてカイゼルへと根拠を説明した。
そして、先程ユーリから受け取った紙袋の中身を取り出してカイゼルへと見せた。
「これは……」
「こちらは、エリーゼ様が短い間ですが王宮でお世話になった者へと私と侍女のマリア、ユーリとロイに下さった物です…殿下が大切に保管されています毛糸のマフラーと同じ毛糸で編まれた物だと思われます…」
カイゼルは、フェイが紙袋から取り出して目の前の出された物を見て声が震えた。
フェイは、真剣な表情を浮かべながらカイゼルへと説明した。
「間違いない…私が大切に持っている毛糸のマフラーと同じ毛糸で編まれている…本当にエリーゼ嬢が私がずっと探していた少女なのか…」
「恐らく…エリーゼ様で間違いないと思われます…」
「しかし…サリー嬢はエリーゼ嬢は王太子妃の座を手に入れる為にフェイに近づいていると言っていた…」
「サリー様が、どの様に言われたのかは分かりませんが…むしろ王太子妃の座を手に入れる為にエリーゼ様とに悪意をぶつけていたのは、サリー様とビリー様の方でございます…それでも、エリーゼ様は言い返す事などありませんでした。エリーゼ様は、あの気難しいユーリとロイとも直ぐに打ち解けておられる程優しいお方です…」
カイゼルは、目の前にある毛糸の靴下を見て手と声を震わせながら呟いた。
そんな、カイゼルを見てフェイは確信を持ち応えた。
ある事件がきっかけで、人を信用する事を恐れているカイゼルはサリーの言った事を鵜呑みにしたのだった。
しかし、フェイはむしろ悪意をむき出しにしているのはサリーとビリーの方だと説明したのだった。
「そんな…エリーゼ嬢が私の探していた少女なのであれば、私は何て事をしてしまったのだ…エリーゼ嬢の言い分など一切聞かないまま王宮から追い出してしまった…」
「エリーゼ様は…随分驚かれたでしょう…今ならまだご実家の方に向かわれている途中でしょうから馬を走らせれば馬車に追いつけます。エリーゼ様へまずは話をして謝罪をされるのが良いかと思います。エリーゼ様でしたら話せばきっと分かって下さりますよ。」
カイゼルは、一気に顔色を悪くして自分の仕出かしてしまった事に後悔をしながら言った。
そんなカイゼルに、フェイは落ち着いて優しく声をかけた。
「そうだな…一先ずエリーゼ嬢を乗せた馬車まで急ごう。」
「承知致しました。」
カイゼルは、すぐに気持ちを立て直して言った。
フェイは、そんなカイゼルに優しく微笑みながら応えた。
二人が、部屋を出ようとした時だった。
部屋のドアがノックされた。
「殿下…レオンでございます。急ぎお伝えしたい事が…今よろしいでしょうか?」
ノックをしたのは、騎士団長であるレオンだった。
レオンは、焦った様な声でカイゼルへと尋ねた。
カイゼルとフェイは、焦っている様なレオンを不思議に思った。
「構わない…入れ。」
カイゼルが、レオンへと応えた。
「失礼致します。」
そう言うとレオンは、部屋の中へと入ってきた。
「レオン…どうした?何かあったのか?」
カイゼルがレオンへと尋ねた。
「はい…先程、連絡が入ったのですが王宮から60km先にある山を下った場所で王宮のものと思われる馬車が盗賊に襲われた様なのです…」
レオンが、焦った様な表情で事情を説明した。
「何だって?!王宮の馬車だと?!」
「殿下…本日、王宮から出た馬車はエリーゼ様が乗られている馬車しかございません…まさか…エリーゼ様の馬車が襲われたのでは?!」
カイゼルは、レオンの話を聞いた瞬間目を見開き驚いた表情で声を大きくして言った。
フェイも、驚きを隠せないまま言った。
「何という事だ…馬車の中にいた者は無事なのか?」
「それが…御者は怪我を負っているものの無事な様なのですが、馬車の中には誰も乗っておらず…馬車の直ぐ側にある岩に血痕が付着していたとの報告を受けています…」
「何だと?!」
「殿下、一先ず急ぎ私達も現場へ向かいましょう…」
カイゼルは、何がどうなっているのか訳がわからないままエリーゼの無事を確認した。
しかし、レオンの口から出た言葉はあまりにもカイゼルには残酷なものだった。
カイゼルは、レオンの話を聞き愕然とした。
そんなカイゼルを見たフェイが、真剣な表情でカイゼルへと言った。
カイゼルは、言葉を発さず頷くだけだったが三人は部屋を出て急ぎ厩舎へ行き馬に乗って馬車が襲われた現場へ急いだのだった……