10.記憶を失ったエリーゼ
王宮から追放されて後、馬車が襲われ頭を強く打ち意識を失っていたエリーゼはゆっくりと目を開いた。
ゆっくりと目を開けたエリーゼの目には見知らぬ天井が見えた。
「ここは…どこかしら…?」
エリーゼは、小さな声で呟いた。
「おっ!気づいたか?!」
男性が、エリーゼが目を覚ました事に気づき声をかけた。
「え?誰ですか……?痛っ……」
「おいおい、急に起き上がったらだめだ。頭を強く打ち付けた様だからな…」
男性の声に驚いたエリーゼは、バッと体を起き上がらせた。
しかし、頭痛を感じで思わず声が漏れた。
そんな、エリーゼを見え男性はエリーゼに近づき心配そうな表情で言った。
「驚かせてしまってすまなかったな…家までの帰り道で君が頭から血を流しているのを見つけたんだよ。意識がなかったから急いで家まで連れて帰り医者に診てもらったんだよ…」
「私を助けて下さったのですか……?助けてくださりありがとうございます…ご迷惑をおかけしました…つい知らない場所にいたので驚いてしまって…」
男性は、驚いたエリーゼに自分の家に連れ帰った理由をゆっくりと説明した。
男性の説明を聞き、エリーゼは少し落ち着き男性へとお礼を言った。
「いや…こちらこそ驚かせてしまったね。だが、目を覚まして良かったよ。医者がもしかすると頭をかなり強く打っているから目を覚ますまで時間がかかるかもしれないと言っていたからな…頭は痛む様だが、他に痛いところやしんどいところなどはないか?」
「私、そんなに強く頭を打ったのですね…お医者様にも診せてもらいありがとうございました。頭の痛みはありますが、他に痛いところや気分が悪いなどはありません…」
男性は、ホッとした表情を浮かべながらエリーゼへと説明した。
そして、エリーゼの体調を気遣う様に尋ねた。
男性の話を聞いてエリーゼは、お礼を言うと自分の体調を男性へと伝えた。
「そうか…では、もう一度医者を呼ぶから診てもらうとしよう。しかし、あの様な場所で盗賊に襲われるとはな…災難だったな…家に帰る途中だったのか?」
男性は、エリーゼが目を覚ましたのでもう一度医者を呼ぼうとした。
そして、何故あんな場所に居たのかをエリーゼへ尋ねた。
「それが…先程から思い出そうと思っても何も思い出せないのです…どうしてそんな場所にいて盗賊に襲われたのかはおろか…自分の名前すら思い出せないのです…先程目を覚ますまでの事を一切思い出せないのです…」
「何だって?!思い出せない?何も思い出せないのか…?……。一先ず医者を急いで呼ぶとしよう…」
男性に尋ねられたエリーゼは、表情を曇らせながら応えた。
自分でも、自分の名前すら思い出せない事に動揺していたのだ。
男性は、エリーゼが何も思い出せないと聞くと急ぎ医者を呼び寄せたのだった。
すぐに、医者が駆けつけて来た。
そして、エリーゼは医者の診察を受けた。
「それで、彼女の容態はどうなんだ?」
「はい。恐らく彼女は記憶喪失だと思われます……」
「やはりそうか…頭を打った事が原因なのか?」
「それも原因だと考えられますが、それにしては記憶喪失の具合が酷いように思われます。頭を打ち付けた事が原因なのでしたら断片的な記憶喪失程度で済んでいたと思われます…」
「では、他にも原因があると?」
「はい…恐らく…頭を打つ以前に何か精神的な面でダメージを受けていたと考えられます…」
「精神的な?」
「はい。それが何かはわかりませんが恐ろくその二つの原因が重なってこの様な状態になったと考えられます…」
「そうか…では、記憶を戻す方法は分からないということか?」
「そうですね…とにかく無理に思い出そうとするのは控えた方が良いかと思います。脳への負担がかかりますので…せめて、どこに住んでいるのか、名前は何なのかが分かればよいのですが…」
「分かった…無理に思い出させ様とするのはしない様に気をつけよう……何度も足を運んで貰いすまなかったな…ありがとう。」
「いえ…問題ありませんのでいつでも御用の際はお呼び下さい…」
「あぁ…ありがとう。助かるよ。」
男性は、別室でエリーゼを診察してくれた医者の話を聞いていた。
男性の予想していた通り、エリーゼは記憶喪失になっていた。
男性は、渋い表情を浮かべながら医者と話をしていた。
(精神的な事か…一体彼女の身に何が起こったのだ…一先ず彼女の素性には心当たりがあるから時間を作って心当たりの場所へ行ってみるとするか…)
医者との話を終え、医者を見送った男性はそんな事を考えながらエリーゼの元へと向かった。
「具合はどうかな?」
「はい…お医者様に見て頂いたので大丈夫です。それに…記憶喪失の事も聞きました…私は一体何者なのでしょうか…自分の名前も分からず…正直…不安で仕方ありません…」
「……。思い出せないのは不安で仕方なくて怖くて当然だ。誰だって君のような状況に陥れば同じ様に思うだろう…医者は無理に思い出そうとするのは良くないと言っていた。そこで、一つ提案なんだが…君の記憶が戻るまでこの家に住まないか?」
「え?ここにです……か……?」
「あぁ…帰る場所も分からずのままだと困るだろう?それならばここに住みながらゆっくりと記憶を思い出せばいいんじゃないか?」
「……。ですが…」
「やはり、こんなおじさんと二人で暮らすのは嫌かな?」
「そっ…そんな事はありません…ただ…助けて貰った上に素性の知れない私をここに住まわせて頂くなど…これ以上ご迷惑はかけれません…」
「……。では、こうしよう!俺は、なんでも屋の様な仕事をしているのだが何せ男の一人暮らしだから掃除も料理も適当になってしまったな…だから、ここに住む代わりに君が掃除や料理をしてくれないか?掃除や料理は出来るか?」
「お掃除とお料理ですか?……。多分…出来ると思います…」
「そうか?では、それで決まりだな。今日からよろしく頼むよ。えっと…エリーゼ…」
「え?あっ…はい…本当によろしいのですか?それに、エリーゼって……」
「遠慮するな。俺が君を助けた縁だと思ってくれ。君が名前を思い出せるまでエリーゼと呼ぼうと思ってな…咄嗟に思いついたのだが…嫌かな?」
「はい…ありがとうございます。よろしくお願いします…えっと…名前はエリーゼで…構いません…何だか呼ばれていても不思議と違和感がありませんので…」
「そうか!では、エリーゼと呼ぼう。よろしくなエリーゼ。俺の事はアリと呼んでくれ。」
「はい…よろしくお願いします…アリさん。」
アリと名乗る男性は、行き場のないエリーゼに自分と一緒に暮しながら記憶を取り戻せばいいと提案した。
エリーゼは、アリの提案に驚き慌てた。
エリーゼは、これ以上の迷惑はかけたくないと思っていたのだ。
記憶をなくしても尚、心優しいところは健在だったのだ…
エリーゼが、躊躇しているとアリはエリーゼが了承しやすい様な言い回しをしたのだ。
すると、エリーゼはアリの提案を飲むことにしたのだった。
二人は、いつの間にか笑顔を浮かべながら話していたのだった…
こうして、エリーゼは記憶を取り戻すまでアリと暮らす事になったのだった………