親子丼
叶美と園絵と智花。3人はいつも一緒に遊びに行く仲だ。今日も3人は街へショッピングに出かけ、帰りに寄った喫茶店で、いつも通りおしゃべりをしていた。そのうちなぜか『丼』の話になり、『丼』の話で盛り上がっていった。
叶美はカツ丼が好きと言う。
園絵は天丼が好きと言った。
「智花は? 智花はなにが好きなの?」
叶美と園絵が聞いた。すると智花はこう答えた。
「親子丼。私は親子丼が一番好きなんだ」
叶美は驚いて尋ねた。
「えっ!? 丼ものっていうと、結構豪華な具がのっている丼が他にもあるよ。それなのに、親子丼がいいの?」
「うん」
「親子丼は地味すぎない?」
園絵が言うと、智花はにっこり笑った。
「うん、でもね、ちゃんと訳があるんだよ」
そして智花は、自分と『親子丼』にまつわる話を、2人に話しはじめた・・・
智花の家は、母子家庭だった。小学生の頃、両親は離婚をし、智花のお母さんは働きにでていた。
だが、お母さんは智花の為に夕食だけは欠かさず作った。その中で特によく作っていたのが『親子丼』。
お母さんは親子丼をつくるたびに言っていた。
「親子丼は、親子で食べるとおいしいから、親子丼って言うんだよ」
智花はお母さんのつくる親子丼が大好きだった。
ある日、智花のお母さんは病に倒れ、寝込んでしまった。
これまで台所に立ったことはなかった智花だったが、病気で寝ているお母さんの為に料理を作ってあげようと思い立ち、はじめて料理に挑戦することにした。
そして真っ先に思いついた料理が『親子丼』だった。
智花は図書館や本屋を巡って料理の本を探した。そしてお母さんが作るような、おいしい親子丼をつくろうとがんばった。
だが、智花は鶏が親で卵が子だから『親子丼』だということを知らなかった。そしてスペシャルな親子丼を作ろうとしてお母さんの為に奮発し、牛肉を買って鶏の代わりに使うことにした。智花は、牛肉の親子丼をお母さんに食べさせたのだ。
お母さんは智花が料理を作ってくれたことに、大変喜んだ。しかし一口食べたお母さんは、突然ヘンな顔をした。
「おいしい、おいしい」
と言って食べていたが、食べた後、お母さんは布団の中でなぜか泣いていた。
どうしたんだろう? と智花は思ったが、その時はあまり気にせず忘れてしまった。
翌日学校で、智花は親子丼の話を友達にした。
すると友達は、智花が「親子丼は牛肉で作った方がおいしいのに」と言ったことに笑った。
「それじゃあ、親子丼じゃなくて他人丼だよ」
智花は驚いて聞いた。
「えっ!? なんで?」
「だって、親子丼は鶏が親で卵が子だから親子丼なんだよ」
智花は唖然としてしまう。
だが、家に帰った智花はお母さんにそのことは触れなかった。お母さんも何も言わなかった。それで智花は、親子丼のことなどすっかり忘れてしまった。そしてさらに時が経ったのだった。
大学生になった智花に、ある日突然、お母さんが言った。
「あなたに会いたい人と言っている人がいるの」
「誰?」
「あなたの本当のお母さんよ」
「本当のお母さんって?」
「あなたを生んでくれたお母さん。本当のお母さんが、あなたと会って話がしたいと言っているの」
智花はお母さんの言っていることを、理解できなかった。智花にとっては、育ての親である『お母さん』こそが本当のお母さんだった。正直なところ、「いきなり言われても・・・」と思い、やや戸惑っていた。
そして生みの親と名乗るお母さんとは会って話もしたが、何かピンとこなかった。
それからさらに年月が経った。
智花はお母さんと離れ、一人暮らしをはじめた。
ある日ふとお母さんに会いに実家に戻った時、お母さんは智花に聞いた。
「何か食べたいものはある? 久しぶりにお母さんが料理を作ってあげるわ」
智花は言った。
「親子丼。親子丼がいいな」
お母さんはちょっと驚いた顔をしていた。だがそれに対し、智花はすかさず言った。
「親子丼は、親子で食べるからおいしいんだよね」
話を聞いていた叶美が言った。
「ああ、私もなんだか親子丼が食べたくなって来た」
するとそれに同意するかのように、叶美が言った。
「そうだ、これからおいしい親子丼でも食べにいこうか。私、おいしい鶏料理の店を知っているんだ」
叶美は最後にこう付け足した。
「親子じゃないけど、きっと友達同士で食べても美味しいと思うよ」
3人は喫茶店をでて、揃って鶏専門店へと向かった。おいしい『親子丼』を食べに行くために・・・。