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東京行脚  作者: 小野 大地
4/21

4日目

ウーバー楽しいです。

「ぜんぜん来ない。」

ウーバーの配達を終え、とあるとんかつ屋にいた。カツカレーを注文したのに一向に来ない。かれこれ30分は立つ。ファストフード店なら10分20分で完成するだろう。時計の針は40分を示そうとしている。

店員の数は十分にいるように思われる。店長らしき年配の男に、ひたすらカツを切りまくる男が2人、主に接客をする女が一人だ。座席も、カウンターの他にテーブルが2つだけだから、無理のない人員数だろう。

にもかかわらず俺のカツカレーはまだ来ない。長針は、いよいよ1周しようとしていた。一体どうなっているんだ!?


いらだちと共に感覚が鋭くなってくる。

店長らしき人物は50代くらいに見えた。ベテランだ。しかし、この人あまり部下の面倒見がよくない。カウンター越しにでも機嫌の悪いがみがみ声が聞こえてくる。もしかしたらこの人は店長なんかではなく、ただのおっさんなのかもしれない。店長が発熱かコロナにでもなって、このおっさんが代行しているという可能性だって無きにしも非ずだ。そう言われてみると、彼の名札は他の店員と同じく「スタッフ」と書かれている。自分の経験則では、店長の名札には名前の横に「店長」と書かれていた気がする。

ふーむ、怪しい。この線が濃厚か?

他3人の店員は、例の如く店長らしきおっさんにがみがみ文句を言われている。

「このボタン押せ! そしたらウーバーに注文が行く!」おっさんは激しい剣幕で男店員を指摘する。男店員はさえない感じだ。

「おいおい、そっちは出前館だ! ウーバーはこっちだっつってんだろ! 頼むぜ君、もう間違えるんじゃねえぞw」

ん? なんか違和感がする。一聞しておっさんの嫌味だけが耳に残るが、何か引っかかる。

「もう間違えるんじゃねえぞ・・・   ()()」あぁ、そういうことか! 「もう」ということは、この男店員はすでに間違えていたということか! だから必ずしも店長が悪いんじゃなくて、このさえない店員もミスをしていたということか。でもだとすると、おっさんの店長じゃない説が打ち消されることになる。

それを踏まえて記憶をたどると、女店員もどこかぎこちなかった。もともとこの店を晩飯に決めたのは、配達で訪れた時においしそうだったからだ。その時の受け渡しで、女店員はどうでもいいことでもたもたしておっさんに助けを求めていた。コロナの影響で古参の従業員がいなくなり、入れ替わったということは考えられる。

さらに、もう一人の先輩風吹かしてた男もおっさんに質問し始めた。2、3日前に入籍しただけで背伸びしてた見栄っ張りだったようである。

つまりおっさんは店長で残りの3人が新人ということになるのだが、それはそれでいけ好かない。あんなリーダーシップのないじじいが店長であるなど、俺が許さない。なんとしてでもボロを見つけ出してやる。

時計の針はもう3周目に突入しようとしている。腹はもはや背中だった。チクタクというベースに合わせてぐうぐうがビートボックスする。視界がぼやけてきた。そして、呪い殺されたように机に突っ伏した。


「お客さん、カツカレーでございます。」店員に言われて目覚める。辛抱の末、ようやくカツカレーが来た。だが食べる気にはならない。あの店長の作ったものだ。いけ好かない。

カツカレーを端に寄せて、ヤツのアラを探そうとした。しかし、目に飛び込んだのは思いも寄らないものだった。ヤツが笑顔を見せている。歯はマスクをしているから見えないけど、目じりに笑みが浮かんでいる。部下たちも、へつらう様子ではなく純粋に笑っている。どうやら繁忙期を過ぎたようだ。じゃあ認めたくないが、店長は店長だったようである。ウーバーのピークタイムの9時まではピリピリ働き、それを過ぎたら緊張を緩める。むしろ彼は、よいリーダーであった。コロナの影響かどうかはあくまで想像だが、従業員がみんな新入りでもめげない彼には、どこか力強さを感じた。


カツカレーはおいしくいただきました。

また読んでくださいー

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