1日目
よろしくお願いします。
初めてのウーバー、それは自分に覚悟をさせてくれるものだった。
自分の家はすみだ川という川の上流にある。すみだ川を下流に向かうと都心にぶつかり、さらに南下すると東京湾に出る。自分はそのすみだ川沿いにロードバイクをこいでいた。
「ひゃっほーう!」川沿いの風はすがすがしく、ビルの間の日差しがちょうどよかった。向こうの空にはスカイツリーが立っており、長い影を引き延ばす。影は、ツリーの裏に回れば回るほど濃くなり、東京中を飲み込もうとする。そして、自分がその口にいよいよ入り込んだ時、今までスカイブルーだったツリーが真っ黒になり、スラっとしたシルエットを現した。とても綺麗だった。
自分は、旅とか観光とかサイクリングが好きなのである。つまり、お金を稼ぐための配達とかコロナの感染防止にはあまり興味がなく、ウーバーを始めた理由もそういうことであると思う。ただ、遊び気分で仕事をするのはよくないことだ。そのことを気づかせ覚悟させてくれた出来事が今日おきたのでご紹介したい。
自分は、観光をしながらそこらへんで仕事を済ませてしまおうと考えていた。例えば「これが日本橋の麒麟像なのか」とか「皇居ってめっちゃ綺麗じゃん」とか思いながら、てきとーな気持ちで配達を受けていたのです。「うわー、すっげー数の人! コロナとか言うけど、色んな人がいて東京も悪くないな。」悠長なことを言って感心していた。
東京では驚くことに、一区画ごとにコンビニがある。「次はセブンかな? ローソンかな?」と遊んでいた。交差点を数個渡った結果は、「ローソン3 ファミマ3 セブン2 お、あと少しでビンゴ! セブン頑張れ!」自分は完全に観光客になっていた。
するとその時、ポケットのスマホが振動し始めた。「トゥルル、トゥルル、はい。」「あ、ウーバーさんですか? あとどれくらいで着きます?」「あ、えーと、あと15分ほどです・・・」「は!? うそだろ!? 本当なら5分前についてるんだぞ!」「ああ、そうです、すみません・・・ 急いで向かいます・・・」自分はすみませんを連呼して電話を切った。
はぁ~。コンビニに熱中するあまり、曲がるべき道を通り過ぎていたのだ。配達のためのグーグルマップも、呆れてアナウンスをやめている。あぶら汗と共に申し訳ない気持ちがあふれ出してきた。「こんなんじゃダメだ! 遊びで仕事をするな!」そう思った。そして、ペダルに足をかけた。
帰りもすみだ川を通る。もはやすみだ川は通学路である。これから何度となく通るであろう出勤ルートである。自分は観光客なんかではなく、金をもらって働く会社人なんだ。観光や遊びはあくまで、その稼いだ金でするものだ。そのことに気づけてよかった。そして、すみだ川に浮かぶ夕日を背に、覚悟を決めた。
読んでくれてありがとうございました!