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転生したら周りが強すぎた  作者: 小鳥遊遊
転生編
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第八話 悪魔に会う(1)

 さて、惚れた腫れたのそれは、ひとまず置いておいて、なにはともあれ、ソロモンはバアル探索に参加せざるを得なくなった。そもそもソロモンは、アストレアに『考える時間を与えない』ことでその場を乗り切っていたので、この休息は悪手だったのだ。冷静になったアストレアに「未知を恐れていてはなにも始まらない」と言われてしまえば、なにも言い返せない。


 のだが、それはもう、過去の話である。


 バアル探索開始から、既に三日が経過していた。


「……なあ、もう、一回帰らない?」

「いや、まだ……もうちょっと……」


 ソロモンの怠惰な言葉に、アストレアの勤勉な返答。いやに頑なだな、とソロモンは思った。


「なんか理由でもあんの?」

「……勇者の行動に、理由なんかいらないよ」


 それもそうか、と納得。弱者の救済という責務を背負った勇者の、『未知のソロモンの悪魔(危険因子)』の生態調査。たしかに、そこに理由なんかいらない。


 だが、もう三日目なのだ。埒があかない。準備不足の弊害だ、と嘆くソロモンは、説得に移る。


「バアルが見つからない理由の可能性は、俺は、大きく分けて三つあると思う」

「……」

「一つは、俺らからバアルが逃げている可能性。でも、正直この可能性は薄いと思う。逃げる理由がない」

「……続けろ」

「一つは、バアルが何らかの方法で、既にこの場に存在してない可能性。どこか全く別の場所にいるかもしれないし、派生して、『パイモンのそば』に、いる可能性。パイモンはソロモンの大地の西、バアルは東にいる。アストレアがそう言ったから、俺たちは東しか探してないだろう?」

「……派生したそれは、否定する。ソロモンの悪魔全部がそうとは言わないが、とりわけパイモンは、同族も含めた全方位にヘイトを向けている。今は不干渉を貫いているが、それは、バアルがパイモンにとって神聖な意味を持つ『西』を侵害していないからだ、と考えられている」

「なるほど。で、最後の一つだが、既に遭遇している可能性」

「……ああ、なるほど」


 この三日間で、バアルの配下らしき獣とは、何度か遭遇しているのだ。


「つまり、今まで遭遇した獣の中にバアルがいて、まんまと『死んだふり』をされた、というわけか」

「そう。ただ、これも一つ目同様理由がないけどね。つまりは俺たちから逃げてるわけだから」


 ソロモンはため息をついた。


「不確定要素が多すぎるんだよ。この三つがパッと思いついたけど、うち二つはバアルがなぜか俺たちを避けてるって前提だし、残りの一つは、まあ配下がいるからそんなに遠くへは行ってないだろうけど、移動したと言ったってどこに行った可能性もあるんだから、実質見当もつかない、ってわけだ」

「……そんなこと、わかっている」

「だから、一回帰らないか? 俺も、『この時代の成長魔術』を受けて、早く前世の肉体との齟齬を無くしたいし、なんなら、帰りに神剣の使い方を少し教えてやろう。あ、もちろん安全な場所でな。そもそも依頼人は誰なんだよ?」


 ここぞとばかりに説得に移るソロモン。これに、ため息を吐いて、「……はあ。わかったよ」とアストレアが応じる。


「わかった、帰ろう。ちなみにだが、依頼人なんかいないよ。とあるお爺さんが、怖がっていたんだ。『街の近くに正体不明のソロモンの悪魔がいるなんて』って」

「へえ」


 適当に相槌を打ち、しかし、ソロモンは内心喝采をあげた。よし、これで、無益な探索から解放される、と。


 こうして、一日の邂逅と三日に渡る捜索の末、つまりアストレアとソロモンが出会ってから四日後に、ソロモンとアストレアは街へと帰還した。






 街、というのは、アストレアの借りていた簡素な仮宿のある簡易停泊地のような、まさに『ソロモンの大地攻略用』といったような小規模な集落ではなく、そこから一週間ほどかかる場所にある、大きなところだった。

 ちなみにソロモンは一週間もかかると思っていなかった──昔はもう少し近くにあったのだ──ので、アストレアがどうしてそんなに街に帰りたがらなかったのか、それでようやくわかった。


 検閲所なんかはなかった。あったとしても勇者と同行しているので問題なかったろうが、今は人間同士で争ってなどいられない、という意味だろうか。


 ソロモンがそんな風に冷めた目で街に入ると、アストレアがポツリと呟いた。


「……街が楽しみだったんじゃないのか」


 その言葉に、はてとソロモンは思案する。街に戻りたかったのは、バアルが怖くて、また三日以上もあてのない探索を続けたくなかっただけであり、別に街に来たかったわけではない。


「たしかに所々変わってるけど、ていうか大体変わってるけど、というより覚えてないけど、俺のいた時代にもこの辺りにこんな街はあったんだぜ」

「注釈が多いよ、わかりづらい」


 ソロモンの言葉に、アストレアは一応の納得を示した。ちなみにアストレアのこの言葉で、ソロモンは今後はできるだけ簡潔に話すことを意識し始めた。


「まずは、私の宿に──ああいや、君も……」

「その、君っていうの、やめないか? 二人だったらいいけれど、ここは他にも人がたくさんいるし」


 もちろん建前だが、しれっとソロモンは言う。


「……そうだな。ソロモンも──いや、だったら愛称を決めないか。この時代にソロモンなんて名前のやつはいない」


 悪魔の生みの親である。当然だった。

 

「それもそうだな。昔は……ソルモだとか、ソルだとか呼ばれていたよ」

「そうか、じゃあ、ソルモも一人で金を稼げるようになった方がいい。今の時代はそこいらに魔獣が溢れているから、それらの討伐を請け負う施設に案内しよう」


 ここでソルモという呼び方を選ぶあたり、やはりアストレアなのだなあ、とソロモンは思った。偶然だろうが旧アストレアからもソルモと呼ばれていた。ちなみにソロモンとしては、ソルという呼び方の方が少しだけ好きだ。ソルモってなんだか言いづらいし。ソロは嫌い。アストレアに選択肢として提示しなかったことからも、それはよくわかると思う。


「ここだ」


 そう言ってアストレアが指し示す施設はなかなかに整ったもので、表に『依頼なんでも、受け付けます』という看板があった。


 と、それを見て気付いたことを、ソロモンはアストレアに尋ねてみた。


「名前なんかはないのか?」

「んー……それぞれの場所で有志で始まった活動だからなあ……。『ギルド』だとか『師団』、『駆除人』だったり。……あとは、『何でも屋』なんかも言われたりもするな。まあ、困ったらここに来ればいい」

「依頼はどうやって受けたらいい?」

「受ける受けない、なんかはないよ。張り紙を見て、その魔獣の討伐証明部位を取ってきて、この施設の人間に見せる。すると報酬が払われる。もちろん早い者勝ちで」

「なるほど」

「何でも屋だからね、倉庫の清掃なんかも依頼されたりしてるけど、それは依頼人の元に一番早く行った人が受けられるんじゃないかなあ。受けたことないからわからないや、すまない」

「いや、ありがとう」


 本当に、案内だけだったようだ。アストレアはそれだけ言って、恐らく宿へと足を向けた。いや、別に登録手続きなんかも無かったし、ソロモンに不満はない。きちんとここの地理を記憶してから追いかける。


 と、その時、頭上を影が覆った、気がした、次の瞬間。


「ダンタリオォォォン!!」


 空から、頭に響くようなそんな大声が、ソロモンを震わせた。もちろんソロモンだけに聞こえた、とかではなく、街全体に響き渡る怒声だ。大気が悲鳴をあげていた。


 頭上を仰ぎ見てみると、そこには燃え盛る戦車の上に立つ、端整な、しかし野性味溢れる顔立ちの、男が見えた。


「いるんだろう!? 出てこいよォ、話がある!」


 そんな悠長なソロモンなどおいて、その貴人は好き勝手に喚き散らす。


「おい、誰だ、あいつは」

「知らん。だが、ダンタリオンならば、『穏健派』の悪魔として有名だ」

「穏健派ぁ?」

「そう。もともとは『ソロモンの魔獣』と呼ばれていたのも、彼の計らいで『悪魔』との呼び方になった」

「そんな、呼び方なんかに何の意味が……」


 と、空をずっと見ていたはずのソロモンはそこに人が一人増えているのに気付いて、声を止めた。

 白髪でいっぱいで顔も確認できない、老紳士。ぴしっとした礼服を着こなし、使用人のような出で立ち。

 空中で支えもないのに杖を体の前に両手で体重を預け、「ほっほ」と、こちらは静かなのに、ソロモンたちのいる場所までよく響く声で、その貴人に応えた。


「どうした、『ベリアル』。ワシに何か用かの?」


 チラッ、と。その、恐らくダンタリオンが、ソロモンたちの方を向いたような気がした。

 まるで、『聞かせてやっているんだぞ』と、言っているように。


「おい、アストレア」


ソロモンの呼びかけに、その光景に狼狽しながらも、アストレアが答える。


「……ああ。ベリアルは、『序列六十位』の悪魔だ。私も見たことはなかった」


 冷や汗を垂らしながら、「それも、極度の『好戦派』だ」と付け加える。


「ああ、やっとか! なんで呼ばれたかはわかってんだろォなあ!?」

「はてさて、皆目見当もつかぬ」

「ああ!? なにとぼけてんだよ!? 『バアルの賭けについては直接手出し禁止』! 取り決めたろう!?」

「バアルの賭け、とは、あの『奴がいつ移動するか、より近い日付に賭けた方が勝ち』という、あれのことかのう?」


 ゾクっ、とした。今、ダンタリオンは、明らかにソロモンの方を向いた。恐らく先ほどの直感は間違っていない。確実にダンタリオンは()()()()()()()()()。その真意はわからないが。


 と、そこで、アストレアが「あっ」と声をあげた。「どうした?」と聞くと、「あの御仁だよ……!」と言う。


「私に、『近くにソロモンの悪魔がいるなんて、怖いよのう』って、世間話をした、あの道具屋のお爺さん! あの白髪の人だ!」

「なあ!?」


 驚くソロモンとアストレアをおいて、またがなり散らすような、しかしどこか格好のいい声が響く。


「そうだよ、その賭け! お前が賭けたのは今日! それで、()()()()()()()()()()って、おかしいだろう!?」

「ほぉ! それは朗報じゃ。すまんのう、()()()()()()()()!」


 嬉しそうに、「お主はあと二百年後じゃったかのう?」と悪びれる様子もなく、ダンタリオンはそう言った。いや、不正があると決まったわけではないが。それに、ベリアルが「お前ェ……!」と静かに怒りをあらわにしたところで、今度は彼ら二人の会話とは違う、拡声器なんかで機械的に、あるいは魔術的に増幅された声が街に響き渡った。


『現在、街上に()()が出現しています、直ちに避難を行なってください! 繰り返します、現在……』


 と、その放送を聞いて、ソロモンはまずい、と思った。ダンタリオンが呼び方にこだわった、それについて、なにか気付きそうになったからだ。でも、それがなぜまずいのか、それが気付けず、思考に沈もうとして、気付いた、それとほぼ同時、ベリアルが『答え』を言ってくれた。


 それは、すなわち──


()()……!? わざわざ人間の言葉を覚えてやって、知的交友も行える俺たちが、()()だと……!?」


 ──彼らは、知的生命体である、と。


「ダンタリオン! 賭けはお前の勝ちだが、俺の罰ゲームの『人間とできる限り友好にすること』。これ、()()()()()、だよなあ!?」


 この言葉に、しばらくの沈黙を返すダンタリオン。これを律儀に待つあたり、二人の仲は悪くないように見えた。

 そして、ついに、絞り出すような声が発せられた。


「……ワシはなんにも言わんよ。ワシ一人で『好戦派』と争う気もない。勝てる気もせん。ただ、覚えておけよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「おう、できたらなァ!!」


 と、その、ベリアルの言葉と、共に。


 轟音が鳴り響いた。そして。


 頭上から、無数の隕石が、落ちてきて。

 ふっ、と。ダンタリオンが、消えた。


「まずいぞ、アストレア!」

「わかっている!」


 アストレアは、恐らく街の主要な施設が多いのだろう、真っ先に門とは反対、東の方に走っていった。昔もそんな作りだった気がする。だから、そちらは任せて、ソロモンは反対側に向かった。


 走りながら、唱える。


「起句!」


 集いの句。魔力が集まる。


「承句!」


 始まりの句。魔術が始まる。


「転句!」


 変調の句。ただ、今回の魔術にはただ強化にのみ、その転変の力が使われる。


「結句!」


 終わりの句。術式がまとまり、魔力はもう街の頭上でただソロモンの命令を待つだけとなる。


「仕上げだ、閉魔結界!」


 かつて世界魔力を閉じ込めた、あの結界の簡易版。かの結界は『ソロモンの大地』に放出されていた魔力の強大さと、それに見合う時間をかけて作られたそれであり、『未来』と『現在』と『過去』を同期して、作られた結界。今回は簡易版であるため、『未来』以外を、同期した。『過去に存在した』という事実を確定させるのは、未来のそれに比べて簡単なのだ。未来はえてして、不確定なものだから。


 ばっ、と、透明の、しかしよく見ると蠢いているような結界が、街の西側を覆った。魔力は生き物であり、魔力を閉じ込める用途のこの結界は、『受け流す』ということに重点をおいているのだ。


 ぽす、という音すらせず、数多の隕石が結界に触れ、そして、ぽん、とまるでトランポリンに跳ね返されたように、街の外に向けて軌道を変えて飛んでいった。しばらくして、ドガァン! という爆音が聞こえた。恐らく荒野に落下したのだ。


 しかし、ふう、と息つく間もなく、ソロモンの耳に嫌にうるさい、猛々しい声が届く。


「おっほあ!? もしかして、ソロモン!? いや、そんなわけない、そんなわけないけど、いや、ソロモンじゃん!? やーいやーい。この間抜けー!」


 妙にハイテンションになってソロモンを煽り始めるベリアル。その真意がわからず戸惑っていると、街の西側に向けて、先ほどとは比べものにならないくらいの隕石が、落ちてきた。


(まずい!)

「なにが間抜けって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 過去と同期。無限の過去と同期し、強度を無限倍に増幅している──()()()()()()。毎秒形を変えるその結界は、物体がぶつかった瞬間に『跳ね返せた場合の結界』を過去から持ってくる。だが、この結界で跳ね返すためにはそもそもの攻撃が受け流せる程度の力である必要があり、未来も同期していればまた違ったのだが、つまりは、()()()()()()()()()()()()()


 そして、ベリアルの言った、攻略という言葉。未来とも同期していたあの結界にのみ対処していれば、こんな的確な一手は打てない。つまり、さすがは自らを知的生命体と名乗っていると言うべきか、恐らく()()()()()()()()()()()()()


「いやでもだからって、昔はコレを力押しできるやつなんて数えられるくらいだったってーー!!!!」


 やはり、この時代は、おかしい。


 ソロモンのそんな慟哭は、やはり虚しく響き。


 巨大な隕石が、凄まじい音と共に、ソロモンの結界と衝突した。


序列について、本来のものと違いますがこれはミスではなく、序列が本来より高ければ本来の能力に比べて出された被害が大きい、つまり『好戦派』。本来より低い序列の悪魔は高い能力があるのに被害を出していない、つまり『穏健派』となります。ちなみにダンタリオンは『序列七十二位』の超穏健派で、何度か国に魔術大使として召されたりもしています。


過去や未来と同期する魔術結界について、転生の時は『未来の方が簡単』と転生して、今回は『過去の方が簡単』と過去と同期させていますが、転生は『もう決まった過去に割り込むか』か、『未来の可能性は無限大の時に、未来の人を媒体にそれに憑依するか』。結界は『あるかどうかもわからない未来の結界と同期するか』か、『存在したことが確定している過去の結界と同期する』か。転生は未来の方が簡単で、結界は過去の方が簡単、というわけです。わかりづらくて申し訳ない。

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