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転生したら周りが強すぎた  作者: 小鳥遊遊
転生編
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第五話 説明される

「すまなかった!」


 少女の謝罪で、その応待は始まった。


 あの後、少女はソロモンの『嘘』を『神剣』で斬れなかった。『今現在』を斬ることのできる神剣で斬れなかったということは、そもそも存在していなかった、つまり、嘘などなかったということだ。


 ここで勘違いして欲しくないのが、確かに神剣を使えばソロモンの(特別に神剣対策をしていない)結界なんか容易く斬れる。斬れるが、あの犬っころの討伐において彼女が用いたのは普通の、あの両手持ちだか片手持ちだか分からない直剣であり、それはつまりこのようなことを意味する。


 彼女は『勇者』として、技量において劣っているわけではない、と。


 神剣の使い方こそ、知らないけれど。


「いや、いいんだ。ただ、説明は欲しい」


 まるでさっきの焼き直しだな、とソロモンは思った。ただし立場は真逆で、少女は過去のソロモンと違って、ソロモンが何の説明を望んでいるかを知っている。


「まずは自己紹介から始めようか」


 まだ名前も知らなかったことに気付いて、とりあえずソロモンはそう切り出した。少女も頷いて、これに応じる。


「私は、アストレアという。アストレア・ヴィ・レイブだ」


 この名乗りで、ソロモンは少女ーーアストレアが勇者であると確信した。勇者は継承と共に『神剣』と『名』を授かる。


「そうか。俺はソロモン・ディビルズ。とりあえず、何から……」

「ソロモン!? もしや、あのソロモンか!?」

「いや、『あの』がなにか分からないんだけど……」


 アストレアの反応は、ソロモンの予想の範疇ではあった。今は魔力があるとは言っても、恐らくそれなりの期間、人類は魔術を奪われたはずだ。また移動中に確信したのだが、赤子のソロモンが放り出されていたのは確かにソロモンが魔力を封じ込めた土地で、その場所の名が『ソロモンの大地』。悪名が轟いていた。


 今にも抜刀しそうに、というか、既に剣に片手を添えて、しかし葛藤とともにこちらを睨むアストレア。だから、ソロモンはその葛藤をくすぐることにした。


「まずは、話を聞いてほしい。聞かせてほしい。また同じ過ちを繰り返す気か?」

「ぐっ……」


 アストレアの過ち。それは、早とちりでソロモンを殺そうとしていたことである。

 アストレアの葛藤。それは恐らく、正義とは何か。勇者は『正義の呪縛』に取り憑かれるが、それに絶対的な正解があるわけではない。つまり、ここで『歴史的大戦犯ソロモン』を殺しても良いものか、と。


 ちなみに勇者であるアストレアがソロモンを殺そうとするのは、なにも間違っていない。未熟だなあ、とソロモンは思う。


「まず、なぜ俺を『バアル』だと思った? 『ソロモンの大地』とは? そもそも『バアル』、『獣の王』ってどういうことだ? バアルは大魔術師だろう。それにバアルが『最下位』? あいつは『三位』だ」


 だから、ソロモンはアストレアに思考を許さない。とにかく別のことを考えさせようと全力で試みる。アストレアの言う『バアル』がソロモンの知る『序列三位のバアル』ではないことなど知っているが、アストレアを混乱させるのが目的だ。


 この少女アストレアはソロモンよりも強い。ああ、これは、かつてのアストレアとバアル、イグシルに全力を尽くして負けたからこそ、認められることなのかな、とソロモンは思う。襲いかかられてはたまらない。


「……っ。そんなに、一気に、質問するな。一つずつ答える」

「よし。じゃあまず、なぜ俺を最下位バアルだと思った?」


 一番解せないこと。それは、アストレアが、ソロモンのことをバアルだと確信していたことだ。アストレアが毒殺を図るまでにソロモンと交わした会話は多くない。むしろ少ない。ソロモンは成長に急いでいたし、アストレアも特になにも問いかけずにそれに同行していたからだ。


「えっと……、君は、転生者なのだったな。というより、ソロモン、か……」


 ソロモンの「ああ」という相槌を思案する表情で受け止め、アストレアは再度確認を取る。


「聞くが、君はあのソロモン……ああいや、未知の魔術で数百年人類から魔術を奪った、そのソロモンで間違いないか?」

「……あ、ああ。間違いない」


 アストレアの言葉に、咄嗟に冷静を装ったが、ソロモンは内心非常に驚いていた。アストレアがあまりにソロモンを責めないから大したことないと思っていたその被害は、思っていたそれよりも遥かに大きかった。


「……数百年、か……」

「そうだ。それならば、最初から説明せねばなるまい」


 そう言って説明を始めた少女は、あまりに饒舌に語り始めた。その様子はまるでその知識が現代において必須であるかのようで、つまり、ソロモンの残した爪痕は、相当に大きいのではないか、と危惧させ、そして事実、相当なんてレベルではないほど、大きかった。


 曰く、ソロモンの未知の魔術──恐らく結界魔術──によって封じられた魔力は数百年間奪われたままだった。その間、ソロモンの結界が破られることはなかった。


 曰く、それが破られたのはちょうど一千年と少し前、それも、『中から』破られたという。


「いや待て、それは、……ああ」


 それはおかしい、と反論しようとして、気付いた。

 ソロモンは魔力と、ついでに『知性なき魔獣』も隔離した。かつては『知性なき獣』だったとしても、それが数百年、世界中から集められた魔力を浴びて成長し、また広いとは言っても荒野一つに集められた世界中からの魔獣。生存競争も計り知れないものがあったのだろう。


 濃い魔力を浴び続ければどんな獣とて強くもなる。それが、強いモノのみ生き残る環境に閉じ込められる。


「つまり、『人類が破れなかった魔術を破った魔獣』が、解き放たれたわけだ」

「……そうだ」


 思えば、この結果は必然だったのかもしれない。ソロモンが、『神剣シュテルネンハオフェン』の能力を知るソロモンが、恐らく結界魔術師としては最高峰だったソロモンが、本気で世界最強を目指して、つまりあらゆる妨害を凌ぎうる結界として構築したそれが、魔力を失った人類にどうにかできるモノか。バアルならば、と思うが、恐らくバアルもあの戦いで持てる魔力の大半を失ったのだろう。


 と、それは、あの時を凌いでいれば、やはりソロモンが最強だったことを意味する。バトルロワイヤルでの強さがどうとか言っておいて、あの時『逃げる』という選択肢を取らなかった自分はやっぱりバカなのだなあ、とソロモンは思う。後悔はしていない。


「なあ、アストレア」


 ソロモンの問いかけに、アストレアは「なんだ」と説明を中断して、答える。


「これ、知らないのか?」


 言って、ソロモンは頭上に可視化した結界を作った。普段は見えないのだが、それは見えないようにしているわけではなく、むしろ色を付ける方が魔力を使うというだけの話だ。魔力を感じられるやつには不可視にしたところで意味はないし。


 アストレアはしばらく観察してから、言った。


「……知らない」

「……よし。ありがとう。続けてくれ」


 勇者であるアストレアが、恐らく世界最強の人物が知らない。この理由は容易に想像できた。『もう二度と魔力の封印なんて起こさせないように』と、結界魔術の伝承を絶やしたのだろう。もしくは、かの数百年で自然に失ったか。


 続くアストレアの説明では、曰く、その時に解き放たれた強力な魔獣は全部で七十二体で、その出自から、『ソロモンの悪魔』と呼ばれていること。魔力が封じられていた場所はかつて以上の魔境となり、『ソロモンの大地』と呼ばれていること。

 そして、今も『ソロモンの悪魔』の脅威は人類を脅かしており、そのため、人類の魔術もだいぶ発展したこと。その背景にはもちろん太刀打ちできなかった時代もあり、『魔界』と呼ばれる人間のいない、魔獣に支配された土地があること。このことから分かる通り、『ソロモンの悪魔』の大部分は、深い知性を持つこと。


「そして、最後に、私が君を『最下位バアル』だと盲信していた理由だが……」


 アストレアは締めくくる。


「君から、『ソロモンの魔力』の匂いを感じたからだ」

「魔力の匂いを感じ取れるのか」

「ああ、特異体質でな」

「……あー、なるほど……」


 かの荒野は、長らくソロモンの結界に囲まれていた。内部の魔力がソロモンの色に染まるのはなんら不思議ではない。その魔力の質が中の魔獣の魔力に感応しても、おかしくはない。つまり、『ソロモンの魔力』と『ソロモンの悪魔の魔力』の質──アストレア風に言うのならば匂い──は似ているのだ。だからといって彼ら『ソロモンの悪魔』がソロモンに従順である、とかではないだろうが。


「バアルは、変幻自在と言われているんだ。それで、君を慎重に観察していたんだが、『成長魔術』も随分程度の低いモノを使っているし、油断を誘っているのかな、と、そういう目で見ると、君の行動全てが疑わしくてな……。いや、本当に済まない」


 慎重に観察。黙ってついてきていたのはこのためか、とソロモンは納得し、程度の低さを指摘されたことに憤る。


 が、いや、と自分の憤りを否定する。むしろ、何千年も未来の技術が昔より劣っているなんて、どんな陰謀がどう複雑に絡みあったらそうなるのか。もしもそんな状況ならば、さぞかし緻密な経緯があるに違いない。


「まあ、事情はわかった。というよりこれは俺が一方的に悪いことも分かった。むしろ許してくれ」

「……ああ。わかってくれて何よりだよ」


 さて、ここで、自分の失態を許してもらったことに安堵しているアストレアは気づいていない。


 ソロモンを殺さない理由がなくなったことに。


 勇者は世界の味方で、ソロモンは世界の敵だ。これは揺るがしようのない事実で、そして、アストレアが思うほど彼女の失態は大きくない。むしろ失態ではないまである。張本人を殺そうとしたのだから。


 今は彼女自身の義理堅さもあるのだろう、ソロモンへの申し訳なさでこんな対応だが、しばらくすれば、ぽろっと気付いてぽろっと殺されてしまう、なんて、普通にありうるオチだ。


 だから、ソロモンは、自分に付加価値を付けることにした。


「これは提案なんだが……」

「ん?」

「今の現状の責任の大部分は俺にある。だから、禊の機会をくれないか」

「……はあ」


 アストレアはなぜ自分にこんなことを言ってくるのか、よくわかっていない様子だった。お前が世界の正義の執行者だからだよ、とソロモンは内心で呟いた。


「だから、俺はとりあえず、『ソロモンの七十二の悪魔』を滅ぼすことを誓う、ってことだ」

「ああ、そうか。頑張ってくれ」


 アストレアは、一応の納得を示したようだった。

 付加価値。罪を自分で清算することを誓うことで、ソロモンを暫定的な『世界の味方』とする。一応の納得。その程度では、恐らくまだ足りない。


「なに他人事みたいにしてんだよ。お前も一緒に来るんだよ」

「……え」

「え、じゃない。お前は『勇者』だろうが。『世界の味方』だろうが。その義理を果たす責務があるだろうが。こんな口約束を信じるつもりか? 俺は数百年間魔術を『世界から』奪ったんだぞ? とりあえず見張っとくのが『世界のため』なんじゃないのか?」

「……いや、それは、そうだが……」

「で、どうするんだ?」

「……はあ。わかったよ」


 勇者は『世界』という単語に弱い。かつてのアストレアにもこうして頼みを聞いてもらったことが何度かある。


 アストレアのそばで、世界のために働く。これをもって償いとし、勇者の制裁を免れる。完璧な計画だ。


 ソロモンは思う。かつてのアストレアと違って、この少女アストレアはまだ覚悟が、勇者としての自覚が足りないな、と。かつてのアストレアはソロモンが罪を犯した途端に、なんの葛藤もなく殺しにきたというのに。もちろん恨んでなんかはいないが。


 だから、理想は、この未熟勇者アストレアに人として気に入られること。彼女の『殺したくない存在』になること。そこまでやって初めてソロモンは『世界の味方』になれる。


「よし、よろしくな」と、突き出した手を、

「ああ、よろしく」と、アストレアが握った。


はい、というわけで、この物語はソロモンが結界魔術を唯一の武器として、それ以外の水準がはるかに上の時代で懸命に生き抜く話となります。


結界魔術が万能になりすぎないよう、また、この時代の人が基本ソロモンの二、三枚上手となるよう書くつもりです。

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