表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら周りが強すぎた  作者: 小鳥遊遊
帝国編
25/78

第二十五話 サポートする

 轟音が響き渡った。


 アモンを中心に、ひび割れが広がる。アリ地獄のようなそのひび割れの真ん中に、レラージェが深く深く埋まった。頭から血をだくだくと流し、ピクリとも動かない。


 そんなレラージェを哀愁の目で見て、かつ、杖をついて歩き出すアモン。しかし、その歩みはすぐに止まった。


「おや、一足遅かったようですぞ」

「シッ!」


 悠長に話しかけるアモンに、アストレアが斬りかかる。これをアモンは背後に大きく跳躍して、余裕を持って避けた。その後ろで少し様子を見守っていたイグシルは、アストレアに睨まれて姉弟のサポートへ向かう。


「お一人でよろしいのですかな」

「うるさい」


 警戒しながら、アストレアはレラージェの真上で自分の左腕を斬り落とす。ぼたぼたとそこから血が滴り、レラージェを濡らす。とともに、不思議な光を放って、だんだんとレラージェの傷が癒えていく。


 さて、自分の左腕を斬り落とす。明らかな隙である。お返しとばかりにアモンが襲いかかった。翼を使って低空に滑空しながら、杖を振りかぶる。だが、当然予想していたのだろう、まだ左手も完治しないままに、アストレアは自ら間合いを詰めてアモンのタイミングを外す。結果二度目の打ち合いは、ガキィンとアストレアがアモンの杖を弾いて始まった。大きく身体をのけぞらせるアモンに、アストレアが追撃をかける。大きく横薙ぎに払ったその剣撃は避けられたが、そこから流れるように放たれた蹴りでアモンは背後の建物まで飛ばされて、叩きつけられた。


 その頃には、アストレアの左腕は完治していた。


「おっほあ」アモンが身体をゆっくりと起こしながら、くつくつと笑う。「こんなものが不死とは、たまらない」


「安心しろ。殺しはしない」

「殺される気など毛頭ありませんとも」


 瞬間、アモンはパッと飛び上がる。気付いたときには、そこはもうアストレアでは届かないほどの高度に達していた。


「ちぃっ、逃げるのか!」

「私の目的は、帝国への復讐ですので」


 主武器が弓矢であったレラージェとは違い、アストレアは遠距離攻撃の手段に乏しい。飛び去っていくアモンを、アストレアは追いかけることしかできなかった。


 ○


 帝都で一番高い、時計台の上。胡座をかくソロモンの前には、四つの四角い結界が並べられていた。そのそれぞれから流れてくる絶え間ない音声に、ソロモンは集中の全てを捧げる。


「シストとブラズは、宮殿にたどり着いたか。イグシルは……避難民の誘導? 助かるよ、本当」


 姉弟のサポートは必要ないと判断したのだろう。ソロモンもイグシルの判断を疑ったりはしなかった。


 呟きながら、ソロモンは自身から結界を広げる。その結界は帝都を覆うほどに広がり、覆い切った瞬間に消え去った。それによってまるでイルカがエコーの反響で周囲を確認するように、結界が通過した帝都の様子の全てをソロモンは把握する。


「アモンが飛び去った? アストレアもイグシルも手一杯。……仕方ない、やるか」


 もったいないと思いながら、もう一度探索結界を広げる。それがアモンに触れた瞬間、全神経を集中して、狙いを合わせる。


「そこだ!」


 ソロモンの生成した結界は、狙い違わずアモンの翼の片方を覆った。間髪入れずに「閉じろ!」と結界を収縮して、翼を捻り潰す。一番最初にソロモンがアモンに会ったとき、彼は人型だった。ということは翼は後から生えたもの。変態型の異形の弱点は、その出し入れ可能な部位の強度不足である。混乱と共に落ちていくアモンに追撃をかけるアストレアの声を聞いて、「よし」と静かに喝采をあげる。


 結界魔術は万能である。なればこそ、ソロモンは集団戦においてどのような立場に立つべきか? 決して戦闘員ではない。ただでさえ万能かつ劣化品なのだ。戦うだけの役目よりも、もっと『仕事の多い』役目につくべきだ。


 つまり、指揮官、または遊撃手。あらゆるを行えるがゆえに、あらゆる選択肢を模索し続けることのできる立場で暇を持て余すのが、ソロモンの天職である。


 アストレアがアモンに肉薄する。もう二度と飛び立たす隙など見せないと言うようなその動きに安心して、ソロモンは意識を別のところに向け直す。


「あーあ、シスト。状況を説明してくれ」

『特になにも。流石に宮殿の護衛まで逃げちゃいなかったけど、力尽くでどうにかなるわ』

「ああ、それならさっき皇帝が抜け道から逃げてるのを確認した。守るべき主人はもういないんだし、事情を説明すれば余計な血を流さなくていいかもしれないぞ」

『そう? ありがとう』


 別の結界に手をかざして、


「イグシル、そっちは?」

『避難民がどれだけいると思ってる。俺の仕事には、限界がある。手一杯だ』

「なら、そこから南東へいってみろ。そこに少なくない数の住人が集まってる」

「そうか」


 ソロモンは決して油断してはいなかった。イグシルや姉弟を良い意味で信用せず、例えば姉弟が仮に護衛兵に危険に晒されるようであればすぐに助けを入れられるように警戒していた。イグシルに関してはもっとだ。避難民の暴動など、やられることこそないだろうけれど、恐らく個人の手には負えない。


 だけれども、そんな集中力が、逆に予期せぬ結界からの悲鳴への対応を遅らせるのだった。


 ○


「くっ……!」


 怯むアストレアに、アモンが追撃を加える。大きく後ろに飛んでそれを避けるアストレアには、右足のふとももから下がなかった。


「おや、そんなに下がられてよろしいのですかな」


 すかさずアモンは翼を生やす。右足はまだ再生しない。顔を歪めながら、アストレアは神剣を横薙ぎに振るう。


「おっと」


 空へ飛び立とうとしたアモンは、何かに弾かれるように地上へと舞い戻る。見れば恐らくある地点を越えようとした部分が、ばっさりと斬り取られていた。頭上を仰げば、なにかキラキラとした膜のようなものが見える。


「斬撃を置く。神剣はそんなこともできるのですか」


 技術だ、とアストレアは唾を吐く。既に右足の再生は終わっていた。にもかかわらず、アモンの表情から余裕は消えない。


「今代の勇者は経験不足というのは、あながち嘘ではなさそうだ」

「随分とおしゃべりになったな」


 言葉少なに剣を構えるアストレアに、アモンは笑う。


「なにをそんなに焦っているのですかな」

「うるさい!」


 アストレアの上段からの振り下ろしを、杖を横にアモンが防いで至近距離での睨み合いとなる。神剣は『今現在』を斬りとるが、その対象の選択権はアストレアにある。アストレアは今『杖を斬ろう』と思って戦闘に臨んでいるが、斬れない。つまりはアモンのその杖も、所縁あるなにか別のものだという話だった。それを必死に探そうと神剣を両手に力任せなアストレアに、アモンは涼しい顔で自分の得物を支える。


「ちぃっ!」


 アストレアが神剣を右横にずらす。得物の両端を握りしめているアモンの手に少しでも擦れば、という魂胆の切り返しだった。それはアモンも警戒していたのか、すっと得物を左肩に下ろしてこれをいなす。態勢を崩したアストレアに、今度はアモンが追撃を加えた。


「なっ!?」


 その隙に、どこからか一本の矢が飛来する。心臓を狙って放たれたそれに直前で気付いたアモンは、左腕を犠牲にして防いだ。とともに、すぐさま二の腕から左腕を斬り落とすアモン。


 地面に落ちた途端、斬り落とされた左腕は音を立てて腐敗した。腐敗の魔術。ぐじゅう、と肉から骨と微塵も原型を感じさせることのない液体が出来上がる。


「助けは……」


 アモンの残った右腕も、斬り落とされた。


「助けはいらんと言っただろうがァ!!」


 怯むアモンはそのまま斬り捨てられるかに思われたが、寸前で意識を切り替えて大きく離脱することに成功した。魔力を高めて再生を試みようとするが、右腕は元に戻る気配はない。神剣の恐ろしさを改めて感じながら、アモンは小さく舌打ちをする。


『大丈夫か!?』


 声は、アストレアがソロモンに着けられた結界から。それで、全てを察した。恐らくアストレアの苦境を知ったソロモンがレラージェを叩き起こしたのだ。自分が助けに来ないのは力不足を知っているからか、これが最善だと判断したか。遠目に疲れ果てた顔のレラージェが、最後の力を振り絞ったかのように崩れ落ちるのが見えた。


 つまりは、また失敗したのだ。


 一度目は、アモンがレラージェに最後の一撃を放った後。二度目は、ソロモンがアモンの翼を捻り潰した後。そしてこれが、三度目。


 はは、と、散々威張り散らしておいてこれか、と空虚に笑うアストレアは、ソロモンへの返事さえ忘れていた。無意識に斬り落としたアモンの右腕に握られている杖を精査しようとするところに、アストレアは自分の勇者を感じた。


『お嬢様を確保したわ』


 結界からは、続いてそんな言葉が聞こえた。アストレアの空虚は更に強くなる。これで、アストレアの任務はアモンの捕獲から、足止めへと完全に切り替わった。またも、仲間に迷惑をかけてしまった。そう意気消沈するアストレアは、蠢くその杖に気付かない。


「!?」


 気付けば、アストレアは炎に巻かれていた。大地に横たわっていたはずの杖が、いつのまにか炎に変わってアストレアに抱きついたのだ。神剣で斬れなかったのはこのためか、と遅ればせながらアストレアは理解する。


 不死性。焼けても焼けても、アストレアが死ぬことはない。肌が焼け肉が焦げ、骨が爛れ肺が潰れるのを感じながら、アストレアは神剣を振るう。斬りとる対象は杖ではなく『炎』。呆気なく消え去る炎に悪態をつきながら、数秒を費やし体を元に戻す。


「ああ……」


 回復した視界に、アモンの姿はなかった。


 アストレアは両膝から地面に崩れ落ちて、虚ろな目で空を仰いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ