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転生したら周りが強すぎた  作者: 小鳥遊遊
帝国編
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第二十三話 指示する

 帝都が滅びる。姉弟が逃げ出すほどの力を持つ都が落とされそうである。息を切らせて夜通し駆けてきた様子のイグシルの姿は、決して嘘を言っているようではなかった。


「今は、レラージェが抑えている」


 帝都へと踵を返しながら、イグシルが事情を説明した。


「最悪だ。個人的に帝国に恨みを持つ悪魔が、復讐に来やがった」


 馬車を動かすブラズの隣で、ソロモンは定期的に馬の回復を行う。動物への施術は久しぶりなので、もしかすると後遺症が残るかもしれなかったが、背に腹はかえられなかった。中の三人は各々の方法で身体を休めている。


 ふと、ソロモンは気になることを見つけた。


「なあ。レラージェは序列十四位だったろ。その、襲ってきた悪魔が単体なら、あいつで対処できないのか?」

「レラージェ・フォーテは愚か者だよ」


 答えるイグシルの声には、どこか苛立ちが混ざっていた。


「奴は膨大な魔力こそ持つが、使える魔術は人間レベルのものだけらしい」


 つまり、一万の魔力を持っているのに、使える魔術に必要な魔力は五十だとか、そういうことだ。もっと大魔術を覚えたって損はないだろうに、とソロモンも苦虫を噛むような気持ちになった。


「技術と力を勘違いしやがって……。最善を尽くすことの出来るようにするのが、技術だというのに……」


 普段他人に関心を抱かないイグシルが、これには唇を噛んでいる。なにか彼のプライドを刺激するものがあったのだろう。


 レラージェ・フォーテは前世に後悔がある。イグシル・ツレウルドに一対一で負けたことだ。その後、ソロモンの結界内で膨大な魔力に当てられたことによりそれ相応の力を持っているのだが、しかし依然彼のこだわりは前世にあり、『前世でもイグシルに勝てた』ことの証明にある。故に俗人のレベルでの技術や魔術ーー『前世でも使えた魔術』ーーを磨いた、つまり、互いに化け物である対悪魔戦においてレラージェの使う魔術には決定打がない。


「……ただし、継戦能力は折り紙つきだ。人の信念にはどうこう言わん。今は、それに感謝しよう」

「ああ」


 そう言って締めくくったイグシルだったが、思い出したように言葉を続けた。


「言ってなかった。襲撃者だが、名をアモン・ヒープ。兎人族の少女に仕えていた執事だという」



 ○



 帝都は、炎に巻かれていた。悲鳴と怒号が飛び交い、絶望が可視化されたようで、そして、突き放すような曇天だった。そのうえ深夜の薄暗さも相まって、その炎の輝きはより一層存在感を放っていた。


 そんなまさしく戦火の中、二人の人影が向かい立つ。


 一人はレラージェ・フォーテ。二メートルを越す巨大な猿の化け物だ。その主武装である弓矢をまだ背負ったままに、微笑みとともに問いかける。


「久しいな、アモン」


 対するは、レラージェの親愛なるそれとはまた違った笑みを浮かべて、答える。


「笑うがいい。アガレスならばともかく、私がこんな姿をしているなんて、滑稽でしょう」


 アモン・ヒープ。執事用にあつらえられた燕尾服を見にまとい、白髪をオールバックに、穏やかに佇む。しかしそんな姿とは裏腹に、元来の彼は残忍な性質を持っていたはずだった。


「ああ、少し意外だよ。だがわからないでもない」


 アモン・ヒープは自分を残忍な、まさしく悪魔であると常日頃から自嘲していた。しかしレラージェの知る限り、それは自分の友人や配下を損なわれた際の、敵対者に対しての態度であった。


 つまりは、


「いい主人を見つけたのだな」


 かつて、荒野では他者の上に立っていたアモン。『序列七位』を冠していた悪魔。レラージェが思う彼の性質は、博愛と信頼を重んずるもの。だから、心の底から慕いたいと思える人に出会ったならば、アモンはかつてリーダーであった自分のプライドに微塵も配慮することなく、喜んで執事にでも身をやつすだろうと思えた。だから、レラージェは笑わない。


 だが、アモンは叫び返す。


「お前になにがわかる!」

「わかるとも」

「ならば、そこをどけ! もしくは、笑え、笑ってくれよ、かつての私を否定してくれ! 兎人族などに仕えていたなんて馬鹿馬鹿しいと。お前は『序列七位』、地獄の大侯爵アモン様だろうと!」


「……」


「……でないと、……でないと私はどうにかなってしまう!」


 その声は、涙に潤んでいた。


 アモンの身体が蠢く。背中からは燕尾服を突き破って翼が生え、優しい目をたたえていた顔は梟のそれに変わる。服の上からでもわかるほど筋肉が隆起し、翼の下、尾骶骨のあたりから蛇の尾が伸びる。


 アモンは、博愛と信頼を重んずる。彼が恨むのは帝国であって、帝国民でない。博愛の上に平和を築く民を進んで損ないたくはない。だけれども、その怒りをどこかにぶつけねば気がすまない。


 つまり、アモンが止まるには、気がすむまで帝国が破壊されるか、アモンが『お嬢様』について、心の整理をつけるしかない。


「……ならば、なおさら退けないな」


 レラージェは弓矢を構える。その表情は、決して笑ってはいなかった。



 ○



 イグシルが一行を呼びにきたのは、日の出から間もない早朝だった。そこから、来るときは一日かけた道のりをソロモンが馬に無理をさせながら、およそ来たときの四分の一の時間で駆け戻る。それでも帝都に着いたのは、お昼をとうに過ぎた頃だった。


「うわあ」

「……」


 ソロモンが悲壮に声をあげ、その隣でアストレアも悼ましい表情となる。帝都は酷い有り様だった。


「こっちだ。急ぐぞ」


 言いながら、イグシルはほとんど機能を停止している門をくぐり抜ける。それに着いていきながら、ソロモンはシストに話しかけた。


「なあ。ヒープさんの個人的な恨みって、兎人族の少女の処刑だよな」

「恐らくね」

「どうにかできそうか?」

「……今代の皇帝は、処刑者の首を帝室に飾ってるっていう噂があるの。それが本当なら、あるいは」

「うへえ。悪趣味だな。だけど、それでこの国が助かるかもしれないんだから、皮肉なもんだ」


 ソロモンはしばらく考えて、四人を呼び止める。


「二手に別れよう。シストとブラズは帝室へ。場所はわかるな? イグシルは俺とアストレアを案内してくれ。案内が終わったら、姉弟のサポート。ヒープさんは俺たちで抑えているから、三人は兎人族の少女の回収。異論のあるやつはいるか?」


 簡潔に役割を振るソロモン。アストレアはともかく、ここで異論があがらないことが、そのままソロモンへの信頼度の高さを意味していた。それに驚いて、しかし、アストレアは戸惑いながら手をあげる。


「足止めは、私に任せてくれないか」


 少し考えこんで、ソロモン。


「それは、ありがたい。じゃあ俺は指示出しに徹するか。危なくなったらすぐに助けに入るからな。イグシル、見晴らしのいい場所を教えてくれ」


 それからいくつか詳細を確認したあと、ソロモンが全員に小さな結界を付着させる。ソロモンが自分の分のそれに「あーあ、聞こえるかー?」と声を発すると、他四人の結界からも同じ声が聞こえてくる。


「成功だな。よし、じゃあ、解散!」


 声とともに、四人が動き出す。一歩遅れて、まだ困惑を残しながら、アストレアも動き出した。


レラージェとアモンの邂逅を早朝→深夜に変更。時間軸がおかしかったので。

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