第二十話 斥候と会話する
サブイベントが存在してこその、メインイベントである。サブのそれが存在しなければ、メインイベントとてただのイベントだ。
そんなわけで、宴も終わり、誰もが寝静まった夜。ソロモンはイグシルに呼び出されていた。
「……ひさしぶり」
どちらからともなく、話し始めた。
もともと、ソロモンはいつかイグシルを探そうと思っていた。ただ、現状把握がアストレアで間に合っていること、そもそもソロモンはイグシルと仲が良くなかったこと、いや、イグシルと親睦の深い者なんていなかったが、そこに、レラージェ・フォーテの夢。イグシルを見つけられればレラージェから褒美ももらえるという、なんとも美味しい話だった。
「……それで、どうして勇者と行動を共にしている?」
先に世間話を終わらせたのは、当然のようにイグシルだった。ソロモンもわかっていたので、早々に気分を切り替える。ワインを一杯煽って、答えた。
「……罪の清算。俺は、疑う余地なく世界の敵だろうよ。それを、アストレアの目の前で『悪魔討伐』する姿を見せ続けることで、清算しようとしてる」
「……なるほど」
「加えて、今代のアストレアはかなり私情家だ。……人間的にも、気に入られたい」
「……それはつまり、惚れたか」
「うるせえ」
頰を染めるソロモンにイグシルがカマをかけて、恥ずかしそうにソロモンは口を閉じる。否定はしなかった。それに笑って、今度はイグシルがワインを口に運んで、話し出す。
「お前が罪人という話だが、それはすこし違うかもしれんぞ」
「は?」
困惑をそのまま顔に出すソロモンに、イグシルが説明を続ける。
「確かに、お前は魔術を奪った。魔力を隔離した。悪魔どもを創造した。だがしかし、それで得たものもある」
言って、イグシルは部屋の隅へと指を向ける。その先には、イグシルがレラージェとの戦いで使用した拳銃があった。ソロモンには、それがなんだかわからなかった。
ソロモンが分かっていないのを悟ったのだろう、イグシルが苦笑して、今度は頭上に指を向けて、言う。
「この光灯だが、魔術は使われていない」
「……それは、まあ、わかるよ」
外部の魔力の操作はソロモンの十八番だ。気付いていた。と、そこでようやく、イグシルの言いたいことを理解できた。部屋の隅へと意識を傾けて、確信する。
「まさか……あのけんじゅうとやらも、そうか」
「そうだ。これらだけではない。お前のおかげで、魔術に頼らない文化は、間違いなく発展したんだよ」
それは、凄いことだとソロモンも思った。ここで、ソロモンはようやくアストレアの反応が鈍かった理由を悟る。ソロモンが「悪魔を倒す」「罪を償う」と言っても、どうして自分にそれを宣言するのかわかっていない様子だったアストレア。最初こそ殺しにかかったものの、アストレアの中でもソロモンの位置付けは葛藤ものだったのだろう。罪人だけれど、殺すほどでもない、という。
「……まあそれでも、あの悪魔どもを生み出したことは……酷い」
イグシルをして、酷いと言わしめる存在。それが、ソロモンの悪魔である。そう苦笑しながら、でも、イグシルは『序列十四位』に勝ったじゃないか、と思う。その旨を伝えると、はっ、とイグシルは嘲笑を漏らした。
「分かってないな。レラージェ・フォーテが本気を出したら、俺なんて手が出ない」
冗談を言っているような雰囲気でもなくて、ソロモンは思っていた以上の深刻さに戦慄した。
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「……負けたか」
ソロモンたちとはまた別の部屋。一人で眠っていたレラージェは、その声に薄っすらとまぶたを開けた。
「……ああ」
寝転がったまま答えるレラージェは、どこかうんざりした様子だった。まるで、次の相手の言葉を何度も聞いたことがあるように。
「その膨大な魔力を使えば、いかに『世界樹の申し子』イグシル・ツレウルドといえど敵ではなかろうに」
「……それは、ならんのだ。我は千余年前の自身の怠惰を、努力不足を、証明せねばならん」
それを聞いて、相手ーーダンタリオンは、ふむ、と頷く。つまり、千余年前、人間だったころまで、肉体レベルは落としている、と。
「まあ、お主がそれでいいならよかろ。それで、武術大会なんかも制しておるわけじゃし」
「イグシル・ツレウルドは天才だよ。彼の技術や戦闘センスは一級品だ。あれに勝ててこそ、ようやく我は身も心も悪魔となれる」
「そういうもんかのう」
ダンタリオンは納得したようなしてないような、そんな声で相槌を打って、念押しする。
「して、レラージェ。どうかソロモンに協力しておくれよ」
「……ああ、分かっている。イグシルを見つけられたのはかの者のおかげだ」
「……なら、よい」
言って、どこかへと消えていくダンタリオン。あれもわからない御仁だ、とレラージェは思って、そのまま睡魔に身を任せた。




