伝説の始まり、その名はジル
「じいちゃん死ぬな! 死なないでよ!」
血だらけのじいちゃんが倒れている。
「ごめんよジル、こんな最期になってしまって。お前ならもう大丈夫だ、必ず成し遂げられる」
白い天井が視界に入ると同時に、夢であったことを理解した。またあの夢か、もうじいちゃんが死んで3ヶ月、同じ夢を何度も見る。だがあの夢はおかしい、おかしすぎる……何故なら、じいちゃんの最期は病死だ。この悪夢のおかげで寝ている間ですら体力を奪われる。
「なぁじいちゃん……俺どうしたらいいんだよ……昔からスキルも使えず、鍛錬しても何も身につかない。おかげで落ちこぼれの烙印を押され、学校にも通えないしどうしたらいいんだよ……」
首元のペンダントへと呟く。このペンダントは3歳の誕生日にじいちゃんから貰った、大切な宝物だ。
まぁ答えてくれるはずが無いか。
ごめんなじいちゃん、こんな子供で……。
これじゃ安心して休めないよな。
……そろそろしっかりしなければ行けない。分かってる分かってるけど……。
「考えてもしょうがないか、取り敢えず朝ごはんを食べよう」
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自分で準備した飯を一人で食べる。
これ程寂しいものは無い。少し前まではじいちゃんの、美味しい手料理を2人で食べていた。
……だからか余計に虚しい。
今日はこの後山を下り、買い物をしなければならない……。
もう慣れたがゴミを見るような、蔑んだ目で見られることを考えると憂鬱……。
落ちこぼれだって、辛いという感情ぐらい持ち合わせているんだがけどな……。
──またザーク辺りにいじめられるんだろうな、こればかりはどうにも出来ない。
落ちこぼれの宿命と言ったところか。
じいちゃんの生前、俺は虎の威を借る狐だったから、皮肉にもいじめの程度はそこまで激しくはなかった……。
何故ならじいちゃんは辺り一帯では、有名なスキル使いだったからだ。
それが一転、じいちゃんが居なくなった途端、会う度会う度ボロボロにされ、挙句の果てに少ない稼ぎを、盗られる始末。
最近は命があるだけマシと思ってる。
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俺が街へ来たら最初にやることは、1週間分の食糧の買い出しだ。
「こんにちはおばさん、いつも通り1週間分の食材を頼むよ」
「いらっしゃいジル、もう用意してあるよ」
「流石だね、助かるよ。はいじゃあ5000G」
俺は金を渡しリュックに食糧を詰める
「毎度あり、そうだジル。君の住んでる山にある山菜を持ってきて欲しいんだけど頼めるかい?値は張るよ」
「いつもので良いの? おばさんには世話になってるからね、明日には持ってくるよ」
「助かるよ、あなたのおかげで仕入れが楽よ」
「持ちつ持たれつってやつだね、じゃあまた明日」
ここの店主のおばさんはこの街で、唯一俺に対して優しい人だ。関係性としては互いに物を、売り買いさせてくれると言ったところか。俺の収入はここからきている。
おばさんの店を後にし俺が次に行ったのは書店だ。
いつもであれば生活雑貨を、買いに行くのだが、家にまだまだあるため今日は寄らない。
その代わりにたまにしか行かない書店に寄ることにした。
書店に入ると最初に目に付いたのは堂々と飾られている天界についての本だ。
魔界についての本は持っているから、少々天界についても気になる。
だが15000Gか少し高い。
現在の持ち金を全て突っ込めば……買えないこともない悩みどころだ……。
──結局俺は悩んだ末に買ってしまった。
明日金は入るし……多分大丈夫だろう。多分。
今日はもう用はない帰ろう。早く家に帰りこの本を読みたい。そう思い俺は書店を後にする。
「あらジル君じゃぁ無いですかー」
「ザークか何の用だ」
店を出た直後聞き覚えのある嫌な声を聞いた。
俺は反射的に身構える。
こいつが俺をいじめている主犯格「ザーク」
学校を首席で卒業し、今は騎士団養成所に入り過ごしているそうだ。
なんでもそこでも、トップクラスの実力だそう。産まれながらにしての天才と言うやつだろう。
俺とは鏡写しだな。羨ましいよまったく。
「今さー俺金なくてよぉ後はわかるな?」
ザークは悪そうに微笑む、
「残念ながら今日は俺も持ち合わせてないんだ」
俺は冷静にザークに対して反論する。
嘘はついてないし大丈夫……なはず。
「んだとごらぁ!!」
やっぱり引かないよね……。
ザークはそう叫ぶと視線を少し下へと下げた。
こいつどこを見てるんだ!?
「そうか持ってないのか……」
ザークの視線が俺の胸元で、止まっていることに気づく。
まさか……。
「ならその高そうなペンダントで、勘弁してやるよ」
やばい……。
このままでは大切な形見を奪われてしまう……。
それぐらいなら少し痛いけどこの本を……。
「これだけは絶対にダメだ、天界についての少し高い本があるからそれならやるよ」
背に腹は変えられない。宝物を渡すぐらいなら本ぐらいくれてやるよ。頼むこれでどうにかなってるくれ……。
「俺はペンダントが欲しいんだよ、てめぇに拒否権はねぇんだよ!」
そういいザークは俺に向け、膝蹴りを鳩尾へと放つ。もろに食らってしまい、その場へと膝を着く。
くそ! 立てねぇ……。
「それだけはそれだけはダメなんだ、じいちゃんとの思い出の品なんだ。勘弁してくれ」
俺は痛みに悶えながら、必死に頼み込む。
だがやはりザークには、俺の話を聞くことなど、もう当頭にない。
「お前の事情なんか知ったこっちゃねぇよ、落ちこぼれはそれぐらいが丁度いい」
そういいザークは俺からペンダントを奪い取る。
それだけは……!! 「それだけはダメなんだ! 」俺は必死の思いで、ザークの足にしがみつく。
「邪魔くせぇんだよ、雑魚は消え失せろ
水魔法水龍の号砲」
ザークの背後から、水で形成された龍が現れる。
直後、目が合ったと思えば俺に噛みつき、そのまま俺は山まで吹っ飛ばされた。
「クソが!…… 速く取り返さないと!…… あれだけは!」
地面を殴りながら叫ぶ。
酷く息が荒い。
大分ダメージを受けてしまっようだた。
「やぁジル君、あの子が憎い?」
謎の声に振り向き顔を上げると禍々しい漆黒の衣を纏った、腰ぐらいまである白髪の女が居た。年は20程に見える。誰だこいつは。
「当たり前だ、殺したいほどに憎い。」
「やっぱりそうだよね、じゃあ行っておいで」
そう言って彼女は指を鳴らす。俺の視界はそれと同時に、真っ暗になった。
「今の君なら大丈夫」
「どんな奴にだって負けないよ」
「やっと面と向かって話せたよ……」
1G=一円とお考えくださいm(_ _)m