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1話 地獄

ちなみに視点は基本的に聖夜で話を進めます。

変わる時もありますがその都度お知らせします。

それでは、Dullahan's carnival 第1話「地獄」です。

かなり飛んだ推理が混じります。

不快な方はブラウザバックを推奨します。


「ただいま。」


あれから龍輝達と別れてバイトに行ってきました。

そして、バイトが終わり帰ってきたのは夜の8時。

誰もいない自分のアパート部屋に虚しく僕の声が響く。

僕は独り暮らしをしており、バイトなどで生計を保っています。

学校側が僕を特待生として、学費やその他諸々の費用を免除してくれて助かっています。

そして、何となくTVを付けてみる。

ちょうどニュースが流れており、報道されていますのは殺人事件や火事、芸能人のスキャンダルなど内容は違えどいつも通りのジャンルです。

大体の人は「またか」や「こんなのばっか」と飽き飽きするでしょう。

しかし、僕はこんな事を言うのは不謹慎かもしれませんが安心します。

別に殺人事件や火事など人の不幸を喜ぶわけではありません。

どう言えばいいのでしょうか。

どこか、いつもの日常の光景で安心するのです。

いつものニュース、いつものランニング、いつもの食事…

「普通」という事が非常にホッとします。

今日も例外になく、ご飯を食べて、ランニングをし、課題を進めて寝床に着きました。

ただ、その日はいつもよりすぐに深い睡眠に入れた気がしました。
















「また、お前はこんな下手な絵を描いて…。気分が悪くなるから捨てなさい。」


これは………………昔の思い出ですか?

思い出と言っても嫌な思い出みたいですね。


「お前みたいな出来損ないがよく家に居れるよな。」


まあ、あの人達とはろくな思い出もありませんが……

いつも出来ることを強要されてましたからね。

楽しかったこと、嬉しかったことは何も教えてもらえなかった。


「全教科満点か……。才川家の者なら当然の結果だな。」


全教科満点が当然ですか…

よくもまあ、簡単に言ってくれますよね。

でも、あそこまでしないと家には居れないですから。


「もう、お前は才川家の人間じゃない、出ていけ。もう2度と私達の前に姿を見せるな。」


僕はあんな人間になりたくありません。

人を道具のように扱い、簡単に使い捨てる人間には…。

僕は…………………
















目が覚めて、時計を見てみると8時を指していた。

いつもなら7時に起きるはずですが、随分ぐっすりだったようですね。

僕は脳が目覚めきっていない中、身体を起こして洗面台に行く。

そこで鏡越しに見た自分の顔が昔みたいに誰かを恨むような人殺しの犯罪者のような顔をしていました。

その顔を擦りとるようにして、何度も水で顔を強く洗いました。

昨日の夢と言い、今日の寝起きと言い、色々酷いですね。

まるで思い出したくもないものを無理やり引っ張りあげられた気分です。

そんなことを考えながら、洗面と歯磨きを済ませるといつものようにTVを付けようとします。

ここで異変が起きました。

TVがうんともすんとも言わず、付かないのです。

何度もリモコンの電源ボタンを押しますが反応はありません。

おかしいなと思いつつ、新聞を取りに玄関へ向かう。

しかし、いつもの新聞が玄関になかったのです。

TVといい、新聞といい、小さな異変だが僕には大変大きな違和感に襲われました。

そう考えていると、玄関からドンドンと急に強く叩く音がしてビクッとしてしまいました。


「聖夜君!聖夜君!」


声の主は美琴でした。

しかし、いつものような話し方ではなく、訴えかけるような叫び声でした。

まるで何かに追われて逃げ込んできたような…

すぐにドアを開けると、美琴が倒れるようにして部屋に入ってきました。

その華奢な身体をそっと包み込むようにして支えました。


「美琴、何があったのですか!?」


美琴からの焦りを感じとった僕はすぐに尋ねます。

しかし、彼女が答えずともふと外を見たことで解決しました。

外にはいつものようなのどかな雰囲気などなく、あらゆる所から火の手が上がり、空はその煙で黒く染め上げられており、誰かの叫び声や拳銃の発砲音などがそこら中からけたましく鳴り響いています。

そして、何より驚いたのは道路にいた人間です。

いや、あれを人間と言っていいのか分かりません。

何故なら、彼らには普通ならあるはずのもの…首がありません。

そう、秀人が昨日言っていたデュラハンを彷彿とさせるものでした。

まるで、地獄の中に放り出されたかのような光景が広がっていたのです。


「なん……………ですか…………これは………」


あまりの出来事に言葉を失ってしまいました。

僕の部屋は防音が聞いているため、外が騒がしくても大して聞こえません。

その結果、気づくのが遅くなったのでしょう。

美琴が来てくれなければ、どうなっていたことか…

想像するだけでもゾッとしました。

とりあえずドアを閉めて、鍵とチェーンの二重ロックをかけて、早急の対策を講じました。


「美琴、大丈夫ですか?」


尋ねるものの彼女の身体は腕で必死に抑えようとしてますが隠せる筈もなくガタガタ震えています。

そこで、僕は彼女の震えている肩を抱き、優しく語りかけるように耳元で囁きました。

よほど怖かったでしょうね。

あのような得体の知れない化け物が急に襲ってきて、逃げ出してここに来たって感じでしょう。

そうなると、美琴の家族はもう………

もしかしたら、目の前で……

そんな恐怖に耐えて、よく来れましたね。

僕は、彼女を落ち着かせるようにして頭を撫でてあげました。

すると、美琴は僕の背中に手を回し抱きつく形になります。


「もう少し…………このままでいさせて………お願い…」


そう弱々しく言う彼女の目には涙がポロポロと零れていました。

おそらく、記憶がフラッシュバックしているのでしょう。

本当に辛かったのだと思うと僕も胸が苦しくなります。


「大丈夫ですよ。ゆっくりでいいですから、落ち着きましょう。」


僕は笑顔で彼女に語りかけました。

そして、彼女の背中に手を回して、子どもをあやすようにして撫でてあげました。

彼女の震えが落ち着くまでずっとそれを続けました。


「おい、聖夜!大丈夫か!?」


ドアがバキャッという音をたて開けられると同時に姿を現したのは脳筋バカの龍輝でした。

開けるなり、僕ら2人を見るやいなや申し訳なさそうな顔をし、そっと壊れたドアを閉じようとしています。

そのドアを閉まらないように手で抑えて、その隙間から龍輝を見る。


「人のアパートのドア壊して入って、今更申し訳なさそうにするのはやめましょう。」


「お、おう、そうか。悪かったな。悪かったからその目が笑ってない笑顔をやめてくれ……」


















「なんだ、そうだったのか。てっきりそこまで発展したのかと……」


「こんな状況にそんなことするはずないでしょ!!」


とりあえず、僕と美琴への誤解は解けたようです。

声を荒らげて叫ぶ美琴の顔が先程から赤い気がします。

きっと、気温が高いことが原因だと考えられます。

あくまで夏なので仕方ないでしょう。


「御二方に質問します。あれは何ですか?」


僕の言う「あれ」とは、首のない人間のことです。

もはや、人間と言うより化け物でしょうけど。

この2人が知っているはずはないでしょうけど確認のために尋ねてみました。

結果、2人から帰ってきた答えは僕の予想通りのものでした。


「分かんねぇ。朝起きてから走りに街へ出たらこんな感じだった。街にはあんなのがたくさんいたぞ。」


「私も分からない。起きて台所行ったらお母さんが首なしになっていて……。逃げている時に襲われている人もいたわ……」


2人はどうやらそれぞれの形で今の状況に出くわしたみたいですね。

龍輝の家は町から歩いて30分外れの所にあり、日課として街にランニングで毎日顔を出しているとは聞いている。

美琴は三世代同居の家のはずです。

母親が首のない人間になっていたってことは他の方の安否も危ういですね。


「それぞれ何時ぐらいですか?」


「確か家を出たのが7時15分くらいだから街に出たのが7時半ぐらいだった気がする。」


「私も7時半に目が覚めたからそのぐらい。」


2人の話からすると7時半には既にこうなっていたと………

つまり、もっと早い時間から事態は起こっていたということですね。

ここまで多くの人が首なしになるには普通なら多くの時間がいる筈です。

しかし、昨日の段階では変化がなかったのは僕が1番知ってます。

昨日帰ってきたのは夜8時。

こうなっていたのは今朝の7時30分頃。

もし、夜8時以降の時間帯でこうなっているなら僕は既に火にのまれているか、首なしの仲間入りでしょう。

街から上がる火はさほど大きくはなかった。

つまり、ついさきっき起こった火事の可能性がある。

時間帯、火の大きさ、そして街全体に影響を及ぼす首なしの数…


「15分ですね。いや、多くても30分が妥当でしょうか。」


この事態に至るまでの時間の推測を行い、原因の推測も同時に行います。

この手の原因には、主にバクテリアや真菌などといった感染の可能性が高いと考えられます。

そうでないなら、魔法使いなどの魔術を操る者の使い魔も考えものですが現実的ではないです。

最も、この事態が既に現実離れしてますが…。

それぞれの感染源の特徴を頭の中で1度整理してみました。

そこから、1つの推測が浮き上がってきました。


「もしかしたら、ウイルスによるものかもしれませんね。」


あくまで推測の域なので外れの可能性もありますが仮説を立ててみました。

こういう分野には多少なりと知識を持っているため、他の人では出てこないような推測でしょう。

案の定、2人は驚愕し、僕に質問を浴びせてきました。


「どうして分かるの!?」


「俺らは走ったり起きたりした時間しか話してないぞ!?」


「あくまで現時点では推測で外れる可能性が高いです。それを前提にして聞いて下さい。」


2人が頷いて同意をとれたことを確認すると、僕の推理を話し始めました。


「2人の話から共通していたのは7時半という時間。その時にはこのような事態になっていた。間違いないですね?」


もう一度、2人に同意を求めて確認出来てから話を続けました。


「つまり、この事態になるにはそれ以前からその兆候があったはずです。そのため、7時半以前になります。」


「昨日、私達が学校から帰る時にはまだこんな事になってなかったから昨日の夜から今日の7時半の間にってこと?」


美琴が僕の少ない話から自分なりの推測を立てます。

そう、昨日の昼間までは普通通りだったので昨日の夜から今日の朝にかけての可能性もある。

僕がまさに言おうとしていたことです。

流石と言うべきでしょうか。


「そうです。これだけ急速に広まったとなれば、真菌やバクテリアの可能性よりウイルスの可能性の方が大きいでしょう。」


「何が違うんだそれ?」


脳筋の龍輝には、真菌やバクテリア、ウイルスの違いがいまいち分からないようです。

彼に混乱してもらっても困りますので説明しておきましょうか。


「簡単に説明しますね。真菌は胞子によって感染症を引き起こすもので、バクテリアは何かを仲介して人体に入ることで感染症が引き起こります。2つとも爆発的な効果はありません。ましてや、12時間でここまでにするのは不可能です。対してウイルスなら、爆発的な効果が充分出せます。」


「なるほど!要はウイルスの方が強いってことだな!」


うーんと唸っていたもののなんとか彼なりに解決したようで安心しました。

発言が小学生と同じレベルなのはこの際言わないでおきましょう。


「話を戻します。ウイルスと言っても自然界のウイルスではなく、人工のウイルスだと推測します。いくらウイルスに強い感染力があっても昨日今日とでこの街の人々に感染させるのは不可能です。ならば、何故ここまで広がったのでしょうか?」


「うーんと………強いウイルスを空気感染するようにすれば…」


美琴の目のつけ所はやはり光るものがあります。

非常に鋭いです。

しかし、そうではないと思います。

何故なら………


「それでしたら、龍輝と美琴は既に首なしになってますよ?」


「あ………」


そこが空気感染でない根拠です。

空気感染なら2人はここに来る前に首なしの仲間入りになっていることでしょう。

もしかしたら、僕もそうなっているかもしれません。

つまり、感染経路は空気以外の他にあるはずです。

とは言っても………


「まあ、感染経路はまだ明確に分からないんですけどね。しかし、人の手によって数ヶ所にまけばどうでしょう。このようなパンデミックを起こすのは可能でしょう。その時に扱いづらい自然のウイルスを使うとは考えにくいとなれば人の手が加わったウイルスの可能性が強いでしょう。」


「ウイルスを扱いやすくしてばらまいたってことか?」


龍輝にしてはちゃんと解釈出来てますね。

何時もならこの手の話はちんぷんかんぷんなんですけどね。

少し感心を覚えました。

龍輝が正しい解釈出来ているってことは美琴も大丈夫でしょう。

彼女の方を見ても、何となく分かっている感じでした。

さて、そろそろここも離れなきゃいけませんね。


「そろそろ避難しましょうか。首なしが入ってきた際、ベランダから降りる為のロープを用意してましたが……」


かなり滞在していた筈なので首なしが来てもおかしくないと思いました。

しかし、僕らが長時間留まっているのに対して首なしは来る気配がありません。

彼らの認知能力に影響しているのでしょうか。

そもそも、彼らは僕らをどう認知するのでしょうか?

ここでそんなことを考えてても仕方ありませんね。


「2人とも、少し待ってて下さい。」


僕はそう言うと、押入れの奥から刀を取り出す。

僕が小さい頃から一緒に居る友達みたいなものです。

そのため、この刀には大きな愛着と思入れがあります。

あと、少しクセが強い奴らでもあります。

そして、避難用のリュックサックと水を取り出して龍輝に渡す。


「俺がこれを持てばいいんだな。」


この中で1番力のある龍輝に避難用のリュックサックを持たせ、僕と美琴で警戒しながら進みます。

美琴とアイコンタクトで意志疎通を図り、ドアノブに手をかけます。


「そうでは…………………いいですか?」


2人がうなづいたのを確認するとドアノブを回し、ドアを開けました。

朝の8時15分。

僕らは目の前の地獄へと足を踏み入れていきました。


次回、第2話「風」

聖夜の刀の秘密が明らかになるよ。





〈キャラ紹介〉

·姫野美琴


「図書室のエリザベス」という学校の図書室の女王的な存在。

性格は基本的に大人しくお淑やかな女性の模範的とも言える存在だが物や命を大切にしない人には一変して鬼のような形相で怒鳴りつけることもある。

平安時代から続く式神を主に扱う陰陽師の家系で美琴自身も何種類も式神や術を使うことができる。

しかし、彼女自身の力量の関係で同時に出せるのは式神、術を含め2つまで。

彼女の祖父曰く「戦後最高の逸材」であるとのこと。

密かに聖夜の事を想ってはいるものの彼自身は気づかれていない。

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