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この作品で小説作成は最後です。
更新は遅くなりますがお付き合いしていただけると光栄です。
時は2025年。
日本にはあらゆる方法により入ってきた外来生物が住みつき、近隣国からは今や外来生物のるつぼとまで言われるようになった。
その中でも特に猛威を奮うのはヒアリ。
国内の被害額はざっと20億にまでのぼり、年間死者も3000人と今やスズメバチより恐ろしい種となった。
2017年に海外コンテナの中で発見されて以来、各地でその目撃が相次いでいた。
そして、2021年には日本に定住し、特定外来生物に指定されるまでに至った。
その後、ヒアリは数を増やしていく一方で政府は対策を講ずるも効果は出なかった。
ヒアリの侵攻は止めれないものか。
そう諦めが見えはじめた矢先、一つの光明が見える。
それは、ヒアリの天敵…ゾンビバエを利用した駆除方法である。
しかし、日本に外来生物を入れるということで反対の意見が多かった。
そこで、その研究者はとある提案をした。
遺伝子操作により繁殖が出来なくなった少数のゾンビバエにヒアリを死滅させるウイルスを持たせて感染させるということ。
しかし、この提案が日本を壊滅させる事態になるとは研究者以外理解していなかった。
7月21日。
今日は僕の高校の終業式の日で、夏休みの始まりの日でもあります。
海や山に旅行とワクワクする行事があるわけで、僕とて心を踊らせずにはいられません。
あ、申し遅れました。
僕は才川聖夜と言います。
高校生をやっております。
今、下校のため玄関に来たところです。
「帰るぞ、聖夜。」
僕の背中を力強く叩いてきたこの人物は高岸龍輝と言い、自他ともに認める脳筋バカです。
その一方で人望が厚く人脈が広く、街ではちょっとした有名人です。
空手部に所属しており、全国大会では3位に入るほどの実力者でもあります。
その強さから一部の人からは「龍神様」と崇められている。
「そんなに強く叩かなくてもいいのだよ。全く、これだから脳筋は…」
黒縁メガネをくいっと漫画のキャラみたいに上げたのは中原秀人。
メガネのわりにさほど頭が良くなく、この学校で1番と言っても良いほどのマンガ好きで週に5回、つまり毎日マンガを没収されている常習犯です。
そこからついたあだ名が「ボッシュート」。
しかし、本人曰く「二つ名ってカッコよくね?」とのことです。
そして、よくマンガからセリフを引用したりします。
「でも、元気がいいのは高岸君の良いところだと思うよ。」
長い黒髪に赤いリボンの髪留めが特徴的なこの女子は姫野美琴。
図書委員会に所属している見た目がかわいらしい子です。
おとなしそうなわりに意外と肝が据わっており、本を粗末に扱った不良を図書室から締め出したという話は有名です。
以降、彼女は「図書室のエリザベス」という異名を持つようになりました。
本人曰く「どうせなら小野小町の方が良い」とのことです。
人とは少しズレた感性を持ち、多少天然が入ることもあります。
「まあ、いつもの事ですからね。ところで、明日は山に行くと聞いてますが何をするのですか?」
僕は龍輝の件を軽く流し、明日の用件について尋ねてみました。
秀人が昨日、急に「明後日は山行くぞ!」と言い出しただけで用件はまだ聞いていないのだ。
秀人のことですから、きっとロクでもないことでしょうけど。
「ふふふ……聞いて驚くな。明日は「デュラハン」を捜索しに行くのだよ!」
「明日何します?」
「この前、隣町にラウワンできたってよ。そこに行くのはどうだ?」
「いいね、私行きたい!」
予想以上にロクでもなかった事だったので僕らは秀人がドヤ顔で言い放ったその言葉を水に流し、3人でスタスタ歩きながら明日のことを話し出した。
今日用件聞かなかったらそんなことに付き合わされていたのかと思うと若干腹立たしさが胸の中に湧いてきます。
「いやいやいやいや!!話振っておいてスルーはなしなのだよ!!」
秀人は後ろから歩くのを止めるようにガッと肩を掴んでくる。
その顔に「なんで?」と書いてあるような表情ですが、こちらが「なんで?」って聞きたいですよ。
「だって、それ噂じゃねぇかよ。お前のそういうのに何回振り回されなきゃなんないんだよ。」
龍輝もだりぃなと表情に出し、冷やかな目で秀人を見る。
秀人の噂巡りは今に始まったことではなく、過去に4回ほど付き合わされて、全て不発に終わりなんの回収もなく、休みを無駄にするという散々な結果だったのです。
そのため、僕ら3人はかなりうんざりしているわけです。
「今回はガチなのだよ!!落ちた生首じゃないかって写真もあるのだよ!!」
「どうせ、マネキンとかなんかってオチですよね。」
「前にも似たようなことあったよね。」
秀人が必死に訴えかけてくるが、写真での説得は以前にもされて、結局見間違いだったというオチでした。
あの基本お淑やかで心の広い美琴ですら、哀れみと諦めの目で秀人を見ています。
「信用して欲しけりゃ、実物の証拠持ってこい。実物の証拠を。」
龍輝がしっしっと手を返すと、秀人は俯いてわなわなと震えていた。
これはいつもの癇癪起こすパターンですね。
「ああ、分かったのだよ!明日持ってきてやるから覚悟しておくのだよ!」
そう言って、秀人はダッシュして僕らから去っていく。
少し言い過ぎたかもと思いますがいつも付き合わされていることを考えればこれくらい当然でしょうね。
「でも、最近よく聞くよね。「デュラハン」の話。」
「そうですね。ホントにただの噂だと思うのですが…」
デュラハンとは、最近になって山に首のない人間がさまよっているという話があり、首なし繋がりからそう呼ばれるようになりました。
しかし、大体の人は噂話として、面白がるものの本気で信じている人は殆どいないのが現実です。
僕らもそうですし。
「そんなんがいたら、俺がぶっ飛ばしてやるよ!」
「あくまでいたらの話ですけどね。」
「でも、秀人君行っちゃったけど何も無ければいいけど…」
美琴はそう言いつつも、不安がる様子はなかった。
結局、「ただの噂だった」って笑って帰ってくるのでしょう。
この時は誰も心配していなかった。
そう、この時は誰も。
だからこそ、翌日にまさかあのような事が起こるとは思いもしませんでした。
今この時も破滅への時計の針が刻一刻と0へと近づいていたのでした。
次回は、パンデミックが起こり仲間達と避難場所へ向かうお話です。
前後編になる可能性があります。