9話アーリーナイツの町
馬車を走らせ数時間。
最寄り町『アーリーナイツの町』へ辿り着く。
その名の通り、シェルナの父親が領主のようだ。
「あの、ダイチ達は王都へ行きたいのですよね?」
「そうだけど」
「なら、私が王都までの馬車を用意します。これも助けてくれたお礼です」
シェルナは言う。
少しでも助けてくれたお礼がしたいと。
別にそこまで恩義を感じなくてもよいのだが、本人がそうしたいと言ってるのだからそうさせよう。
「頼む、助かったよ」
「いえ、これも貴族としての誇りです」
その後、馬車から降りてすぐにアーリーナイツ家の屋敷に招待される。
早馬で俺とエルナ、サリーの事は伝えてるようだ。
「おお、ここが」
「大きいですねえ……」
シェルナに案内されながら、屋敷へ着く。
初めての貴族の屋敷に、少しだけ緊張する。
エルナも大きな屋敷を下から見上げていた。
「「「おかえりなさいませ、お嬢様」」」
門を超えると、何人もの使用人が出迎える。
シェルナはそれをいつも通りといった感じで受け答える。
「皆んな、知ってると思うけどお客人が三人いるわ」
「お任せを」
使用人に連れられ屋敷へ入る。
豪華絢爛を絵に描いたような内装だ。
そして大広間へ案内される。
「お父様、只今戻りました」
「シェルナ! 無事だったか⁉︎」
紫髪の男性がシェルナの元へ駆け寄る。
あの人、シェルナの父親か。
結構似ている、美形のお父さんだ。
「早馬で知らせを聞いた時は驚いたぞ……!」
「はい、私も駄目かと思いました、しかしーー」
くるりと俺の方へ向き直るシェルナ。
「彼が颯爽と駆けつけ、助けてくれたのです」
「おお、君が!」
ガシリと両手を掴まれる。
そして満面の笑みでシェルナの父はお礼を言う。
「ありがとう、娘を助けてくれて本当にありがとう」
「いえ、人として当然の事をしたまでです」
「ほお、若いのに謙虚な方だ……私はルドル・アーリーナイツ、アーリーナイツ家の当主を務めている」
それから応接間に移動し、シェルナとサリーの関係を聞く。
「サリーは私の妹のような存在です、そして……国王から国を取り戻すリーリィ派の同志でもあります」
どうやら、アーリーナイツ家はリーリィ派のようだ。
「あの魔物も、恐らくワルダク公爵の手引きです」
「魔物を操ったのか?」
「はい、そのような魔法使いもいるようです」
エルナの方を向く。
彼女は暇を見つけては魔法の勉強をしている。
「いるかいないか言えばいます、ただ……」
「キングオクトのような高位の魔物を使役出来るかどうか分からない……でしょ?」
サリーが言う。
エルナはそれを無言で肯定した。
「ワルダク公爵は、手練の傭兵や冒険者、魔法使いを多くの数抱えています」
「いつでも強行手段を取れるって訳か」
「はい。対してリーリィ派は、戦力という意味では不安要素が大きいです」
リーリィ派……王女リーリィに強力してる貴族家は、最下級の男爵を含めて十にも満たないらしい。
それで反旗を翻すのは、余り得策とは言えないが。
「戦力なら安心してくれ、俺がいる」
「え?」
「魔物でも軍隊でも、勝ってみせるよ」
ポカンと口を開けるシェルナとルドルさん。
理解しているのはエルナとサリーだけだ。
「確かに、ダイチさんなら大丈夫だね!」
「お兄ちゃんは最強」
口々に褒め称える二人。
恥ずかしい……
「あ、あのっ、幾らなんでもそれは無茶というか」
「まあ、普通はそう思いますよね。その時が来たら、俺の力はお見せしますよ」
「はあ……?」
シェルナは納得していないようだが、今ここで最強議論をしても意味は無い。
とりあえず、俺もリーリィ派という事を分かってもらえればそれでいい。
「で、これからどうします?」
「これから、とは?」
「クズル打倒の作戦ですよ、俺たちは元々リーリィ派の人に会おうと思って王都に行こうとしていたんですが、こうして目的は果たされました。なので早速、クーデターの内容をと思いまして」
俺の提案にルドルさんがギョッとする。
「ま、まてまてダイチくん。そんな勢いで事を進めれば、必ずどこかで綻びが出る、そうならないーー」
「た、大変ですルドル様!」
ルドルさんの言葉をかき消すように現れる青年。
そして飛び切りの大声で叫んだ。
「が、外壁の外に魔物と思われる巨大な獅子が現れました!」
「なんだと⁉︎」
全員で窓の外を注視する。
するとそこにはーー
「ガアアアアァァァァッ!」
真っ黒な体躯の、巨大な獅子。
外壁を有に超える巨躯で、瞳は血に飢えている。
この世の終わりの化身……そう思ってしまう程、強烈な威圧感とオーラを放っていた。
「……この町は、終わりだ……」
「お父様……」
ルドルさんが頭を抱えながら膝をつく。
「シェルナ、サリー様、それにダイチくん、エルナさん……皆んな、少しでも遠くへ逃げてくれ」
絞り出すように言うルドルさん。
そんな父親の肩を叩き、微笑むシェルナ。
「お父様、領民を置いて逃げる事なんて、私には出来ません、私もここに残ります」
「ならんっ、早く逃げるんだ!」
「お父様!」
言い争う二人。
しかし、俺は冷静に獅子を見据えてこう言った。
「うん、あれなら五分もあれば片付きそうだ」
「「は?」」
二人の声が重なる。
「流石ダイチさん、あの魔物を五分で倒せるなんて」
「お兄ちゃんなら当然」
「おいおい、持ち上げるのも勘弁してくれ?」
窓を開け身を乗り出す。
ここから向かった方が早そうだ。
幸い、まだ被害は出ていない。
「ルドルさん、俺があの魔物を倒せたら、クーデターの件考えてくださいねー!」
「あ、ダイチくん!」
「ダイチ!」
窓から思い切りジャンプし地上へ降りる。
それから再び大ジャンプ。
民家の屋根に着地し、屋根から屋根へと飛び回る。
まるで忍者になった気分だ。
「さあて、いっちょ派手にやりますか!」
「ガアアァァァァ!」
雄叫びをあげる獅子。
その咆哮を打ち消すように、俺も声を張り上げた。




