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5話黒髪の少女

 

 異世界に来て一週間が経った。

 冒険者ギルドで荷物持ちや犬の散歩、皿洗いなどの雑務をこなして何とか生計を立てている。


 魔物とやらの討伐依頼を受けてみたらと度々誘われるが、エルナもいるし、万が一死んでしまったら大変である。

 この世界は全体的に命の価値が軽いのだ。


「でも、そろそろ安定して稼ぎたいですね」

「そうだなぁ」


 しかし現実問題、収入が少ないのは確かだ。

 殆どその日暮らしで貯金が全く出来ない。

 その事をエルナに話したら。


「貯金……ダイチさん、もう私との将来を……」

「はい?」


 なんて、よく分からない答えを返された。

 将来……この先どう生きていこうかな。

 とにかく自分の住む場所が欲しい。


 そんな訳で、避けていた魔物討伐依頼を探す。

 魔物討伐にはランク……依頼の難易度が設定されており、下・並・上・激・超と五段階に分かれている。

 とりあえず下級の依頼を受けよう。



 ♦︎ウィンドリル討伐♦︎

 難度:下

 報酬:金貨一枚

 草原に出没する魔物を狩ってください。



 金貨一枚ってどのくらい価値があるんだろう。

 元の世界だと、確か十万円は超えていた筈。

 このウィンドリルって魔物、そんなに強いのか?


「これが魔物討伐の最低ランクですよ、ダイチさん」

「そうなのか?」

「はい、金貨一枚だけに注目すれば破格ですが、これは命を賭けた魔物討伐です。死んだらそれまでですから、でもダイチさんなら平気ですよ」


 十万円……パートやアルバイトで一月間働いてギリギリ届くか届かないかくらいの値段。

 それを、自らの命を天秤に乗せ手に入れる。

 随分と殺伐とした世界なんだな、冒険者稼業は。


「よし、これを受けよう」

「はい!」

「エルナも来るのか、危険だぞ?」

「勿論、実はこっそり魔法の練習をしてました」


 彼女はえへんと薄い胸を張る。

 この世界、魔法は別段珍しくもない。

 初級魔法ならば割と誰でも習得出来るそうだ。

 覚える為の魔道書も図書館が無料で貸し出している。


 依頼用紙を受付へ持って行き、正式に受注する。

 武器や防具は……必要ないか。

 殴れば何とかなりそうだ。


 そして数十分後、俺とエルナは町の外壁の外にある草原へ着いていた。

 遮蔽物がほぼ無い平原でもある。


「ウィンドリルってどんな魔物なんだ?」


 図書館から借りてきた魔物図鑑を持つエルナへ聞く。

 図鑑には多種多様な魔物が絵と共に載っていた。


「えーと、銀色の体毛で額に角が生えてるようです」

「狼みたいなもんか?」

「おおかみ?」

「ああ、いや、何でもない」


 こっちの世界に狼は存在してないのか。

 犬や猫はいるのに。

 そんな感じで歩きながら魔物を探しているとーー


「あ、アレじゃないか?」


 銀色の体毛、鋭い角。

 間違いない、ウィンドリルだ。

 だがその数がやけに多い。


「ダイチさん、あの人囲まれてます!」

「ああ、助けに行こう!」

「はい!」


 ウィンドリルは七頭もいる。

 そして一人の冒険者を取り囲んでいた。

 俺は囲まれてる冒険者を見て驚く。

 何故なら、エルナとそう変わらない年頃の少女だったからだ。


「「「グルル……!」」」

「くっ……《障壁展開》!」


 少女の周りに四角いガラス板のような物が現れる。

 ウィンドリルはそれぞれ体当たりしたり、引っ掻いたりして障壁を破ろうとしていた。


「あっ……」


 少女が息を呑む。

 障壁は強力なのだろう、しかし数が違いすぎる。

 所々亀裂が入り、今にも割れそうだ。


「させません、《ゴースト・フレア》!」


 エルナが魔法を唱える。

 紫色の火の玉が現れ、ウィンドリルへ向かっていく。

 何体かのウィンドリルに命中し、彼らの意識が障壁から俺達へと注がれた。


「ダイチさん!」

「任せろ!」


 まず、二体のウィンドリルがやってくる。

 どちらも角で突進してきたが、それを右手と左手で同時に受け止め空高く投げ飛ばす。


「「ギャウッ⁉︎」」

「寝てろ!」


 落下してくるところへ必殺の右ストレート。

 ウィンドリルは命を落とした。

 仲間のそんな姿を見て怖気ついたのか、残りのウィンドリルは一斉に逃げ出していく。


「エルナ、サポートありがとう」

「私は殆ど何もしてませんよ」


 二人して少女へ駆け寄る。


「君、大丈夫?」

「……」


 その子はエルナに負けず劣らずの美少女だった。

 艶のある黒髪に、真っ赤な瞳。

 顔は無表情だがとても綺麗だ。


「助けてもらって、ありがとうございます、では」


 それだけ言って、スッと立ち上がる少女。

 しかし力が抜けてるのか、フラついている。


「無理しない方がいい」

「そ、そうですよ」

「……だい、じょうぶ」


 持っていた杖に体重を預けるように歩く少女。

 見ていられなくなり、ひょいっと無理矢理担いだ。


「な、なあっ⁉︎」

「その体じゃまともに動けない、町まで送るよ」

「ひ、必要ないです! 下ろしてください!」

「断る、行こうエルナ」

「はい……うう、羨ましい……!」


 無表情かと思われた顔を赤く染める少女。

 こうして間近で見ると非常に可愛らしい。

 何故、こんな子が一人で冒険者を?


「君、どうして冒険者を?」

「……」


 少女は無言を貫く。

 まあ、無理に聞くことでもない。

 だけど、これは聞きたかった。


「なんで、あんな状況に?」

「……少し、油断しただけ」

「その少しの油断で、君は死にかけたんだぞ?」

「それは……分かってる」


 この歳で魔法使いなら、そりゃあ慢心の一つや二つしてしまうかもしれない。

 だが、冒険者稼業はそれが死に直結する。


「次からは気をつけるんだな、死ぬぞ?」

「……ふん」


 そのまま町へ辿り着く。

 着いた所で少女を下ろした。


「しまった、ウィンドリルの討伐依頼中だった……」

「っ、ごめん、なさい」

「あ、大丈夫ですよダイチさん」


 エルナはウィンドリルの角を二本持っていた。


「さっき剥ぎ取っておいたんです」

「助かったよエルナ!」

「えへへ……!」


 そんな俺とエルナのやり取りをジッと見つめる少女。

 その目はどこか、空虚だった。

 まるで無いものを求めるかのように。


「じゃあ、さようなら、今日はありがとう」

「あ、まって!」


 エルナが呼び止める。


「貴女、名前は!」

「……サリー」

「私エルナ! よろしくね!」

「俺はダイチだ」

「……覚えとく」


 黒髪の少女サリーは、人混みの中に消えていった。

 その後、冒険者ギルドへ依頼達成の報告をしに行く。

 ついでにサリーの事も話しておいた。

 また今回みたいな事が起きるかもしれないし。


「おかしいですねぇ」

「何がですか?」

「いえ、本来ウィンドリルは群れを作らない魔物なんですよ、なのに一人を集団で襲うなんて」


 魔物には詳しくないが、妙な事らしい。

 サリー、大丈夫かな?

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