17話謁見の間を前に
玉座、即ち謁見の間は三階にある。
有事の際は作戦会議室にもなると言うので、今まさに後者の目的で部屋は使われているだろう。
あちこちから喧騒が聴こえてくる。
剣と剣がぶつかる音、魔法の爆発音。
その全てが遠い出来事のように思える。
ある意味、この戦場で俺は最も俯瞰していた。
この世界の人間ではない俺には、それくらいが丁度良い。
だが、倒すべき悪の判別くらいは分かるつもりだ。
今の帝国は、完全に悪である。
なれば、正義がそれを砕く必要があるのだ。
子供の頃、よく正義の味方になるんだと言っていた。
けど現実を知り、それが存在しないフィクションだと理解するのにそう時間はかからなかった。
「……ここか」
三階、謁見の間。
帝王が客人を迎えるこの間も、今の俺にとっては処刑場でしかなかった。
巨大で豪華絢爛な扉を開けようとするーー瞬間、二つの視線が俺を射抜くように現れる。
バッと振り向くと、二人の男が左右に立っていた。
「ほお、貴方がパワスターを殺った者ですか」
「思ってたより細いな」
一人は、オレンジ髪の細身の男。
一人は、フードを被り剣を持った男。
恐らくどちらも帝国四天王なのだろう。
「私は帝国四天王の一人、魔弾のベルエ」
「俺も帝国四天王の一人、鉄剣のレイドラ」
「……何しに来た?」
仇討ち、という雰囲気ではない。
とすると、この先にいる帝王の護衛か。
「なんで、あんな奴に味方する?」
「それは勿論、金ですよ」
ベルエが当然と言った風に答える。
そうだった、こいつらは雇われ兵のようなものだった。
「ま、俺は強い奴と戦えればそれでいい。そして今まさに、強い奴と戦える……くく、滾るぜえ!」
レイドラは剣を振り回しながら言う。
刃が風を斬る音が生々しい。
相当の使い手だと、俺でも分かる。
「なあ、お前ら」
「何ですか?」
「あん?」
俺はなるべく平静を装い、静かに言った。
「休戦しないか? 俺はこの先にいる奴と、どうしても会わなくちゃいけない。お前らは金が欲しいんだろう、なら、俺が殺した後に幾らでもやる」
「ほう……」
ベルエは顎に手を置き考えふ素振りをする。
だが、レイドラは。
「いや、必要ねーな。俺の目的は今、お前と戦う事以外ねーからなあ!」
「だろうな、お前はそう来ると思ってたよ」
迫り来る刃。
鋼の剣は俺を斬り裂こうと空気を斬りながら進み、俺の首辺りを狙って振り下ろされる。
無論、俺も斬られる訳にはいかない。
数歩下がって剣を避け、何を凌ぐ。
「交渉は決裂、という事か、お前は?」
「ああ、俺には俺の戦う理由があるんでね」
レイドラは微笑を浮かべる。
純粋に戦いを楽しんでるような、そんな感じの。
俺には理解出来ないな。
いや、元より理解など得ようとしてないのか。
「お前もそうだろ、ベルエ!」
「……そうですね、確かに突然雇用主を変えるのは、私の主義に反します。という訳で」
ズガンッ!
ベルエが右手を前に出す。
それと同時に、何かが彼の掌から射出された。
撃ち出されたソレは俺の頬を擦りながら背後の壁へ激突し、壁を粉々に砕く。
「私も戦いに加わります」
「ああ、その方が俺も分かりやすい」
拳を構える。
皆、各々の理由で戦っているのだ。
この国を乗っ取った連中は、何の為にそんな事をしたんだろうな。
「いくぜ!」
レイドラが再び斬りかかってくる。
更にベルエが援護とばかりに、先程と同じ物を三発連続で撃ってきた。
サリー、魔法を借りるぞ!
「障壁展開」
魔力を込めた障壁を張る。
俺の無尽蔵の魔力を注入した半透明の壁は、三発の攻撃を容易く防いだ。
が、続く刃には耐えられず、バキリと割れる。
しかし、時間はそれで十分。
「な、早い⁉︎」
ベルエが驚く。
俺は壁を蹴り、髭面のおっさんが主人公の某アクションゲームの如くジャンプする。
そして、レイドラの後ろにいるベルエの背後へ回る。
「くっ、はあっ!」
射出される魔弾。
俺はそれを拳で打ち消した。
「馬鹿な⁉︎」
「現実だ、受け入れろ」
ベルエを殴り、吹き飛ばず。
それを見たレイドラは。
「はっはあーっ! お前最高だぜーっ!」
笑いながらの特攻。
レイドラは俺の懐に入り込むが直前で剣を掴み、片手で叩き折って破片を投げ捨てる。
武器が無ければ、奴はただの人。
レイドラの僅かな動揺の隙を突き、顎をすくい上げるように拳を打ち上げる。
「がふっ⁉︎」
天井を貫いて吹っ飛ぶレイドラ。
俺はそれを、無表情で眺めていた。




