11話召喚魔法
「これを身分証明書にして使うと良い」
「ありがとうございます」
ルドルさんから銀色のペンダントを受け取る。
アーリーナイツ家の家紋が刻まれてるらしく、これを見せればアーリーナイツの関係者と分かるらしい。
これで、兵士さん達から誤解を受けず戦える。
今日は召喚魔法使いをあぶり出すのだから。
「それじゃあ、作戦をもう一度確認します」
俺の声に一同が頷く。
「まず、シェルナが囮になって町を歩く。その際サリーとエルナ、護衛の騎士数人も一緒にいる事、そして多分直ぐに魔法使いは魔物を召喚するだろうから、騎士の皆さんはシェルナを守ってください、エルナとサリーは魔法使いを探してくれ」
「うん」
「分かりました」
典型的な囮作戦だ。
魔法使いが見つかり次第、俺が叩く。
実に単純明快だ。
「しかしシェルナ、本当に大丈夫なのか?」
「領主であるお父様に何かあったら、それこそ叛逆の士気が下がってしまいます。これは言うならば、宣戦布告なのですから」
ルドルさんは娘が囮役を買って出たのが心配なようだ。
当然か、父親なのだから。
しかしシェルナの決意も硬く、譲ろうとしない。
「折角訪れた好機、見逃す手はありません。一刻も早くリーリィ王女を助け出さないと」
「……うん、お姉ちゃんは絶対助ける」
シェルナの言葉にサリーも頷く。
聞くにリーリィは、クズルによって酷い目に遭わされてる可能性が高い。
想像したくないが、強姦なども考えられる。
「サリー、シェルナ……リーリィもこの国も、絶対に助け出す。寧ろ二人は、その後を考えてくれ」
「その辺は昨夜しっかりと話し合った、問題ない」
ルドルさんが言う。
玉座を奪還した後の政治関係は、リーリィ派の人達に一任している。
俺は所詮ただの大学生、そんなに賢くない。
難しい話は頭の良い人達に任せよう。
「それじゃあ……作戦開始!」
俺の合図でシェルナが馬車に乗り込む。
そしてすぐさま出発した。
俺は町の高台に潜み、敵襲の知らせを待つ。
「……こうして見ると、平和だな」
圧政が敷かれている雰囲気がまるで無い。
和気藹々と、皆んな笑顔で暮らしている。
しかしワルダクとクズルは自らの欲望の為、その幸せを当然のように壊していく。
改めて、彼らと敵対する覚悟を決める。
この平和を守る為、俺は戦う。
「……ん?」
ふと、民家の屋根を見てみる。
そこには黒いローブを羽織った人物が立っていた。
不自然というより不気味だ。
何をしているんだ……と、その時。
「ーー召喚魔法」
ローブの人物がソレを大声で叫んだ。
次の瞬間。
「……ウ、オオオオオオオッ!」
天空に魔法陣が出現し、そこから魔物が召喚された。
頭から生えた禍々しい角。
爪が異常に発達した両手。
背中から他を圧倒するように伸びる、黒い翼。
紫色の瞳を爛々と輝かせーーデュークデーモンは雄叫びを上げ地上に舞い降りた。
「……デュークデーモン!」
悪魔系の魔物、その最上位に位置する怪物。
大きさこそ成人男性と同じくらいだが、放つ威圧感は黒獅子にも劣らない。
あんなのを呼び出せるなんて、ローブの人物は何者なんだ。
いや、考えてる暇は無い。
とにかくあのローブの人物を捕らえるんだ。
「オオオオオオオッ!」
「ーー魔法起動、障壁展開!」
振り下ろされるデュークデーモンの剛腕。
民家に当たる寸前、サリーの魔法と思われる魔力の障壁が攻撃を防いだ。
「魔法起動……ファントムフレア!」
「魔弾射出!」
「「「エレメント・バースト!」」」
エルナ、サリー、騎士団がそれぞれ魔法を放つ。
顔面を集中狙いしてるようで、倒す事は出来なくても足止めとして十分効いている。
俺はその間に屋根を駆け回り、ローブの人物の元へ向かう。
「おい、お前!」
「……なんだ、貴様?」
ローブの人物がこちらを向く。
全てを憎むような憎悪の感情が、視線に篭っていた。
く、負けてられるか。
「あの魔物を今すぐ止めろ!」
「ああ、お前か。黒獅子を倒したイレギュラーは」
ローブの人物は楽しげな声を漏らす。
「まさか、貴様のような男と会えるとは」
「お前こそ、何者だ?」
「私か、私はただの雇われ魔法使いさ」
「……やはり、お前が」
ローブの人物を睨む。
すると奴は、ローブのフード部分を脱いで素顔を晒した。
「……女?」
「それがどうした、私を捕まえるんだろう?」
妖艶な女だった。
濃い茶髪の髪をどこまでも伸ばしており、ストレートで真っ直ぐな髪は浮いているようにも見える。
瞳は赤く、猛禽類のように獰猛だ。
「そうだな、その通りだ!」
一瞬で女との距離を詰める。
が、しかし。
「そう焦るな、早い男は嫌われるぞ?」
「ぐっ!」
いつの間にか、女の足元に植物系魔物ーーデモンプラントが無数に召喚されていた。
「ふふ、この程度の魔物に、詠唱など必要無い」
「ああ、そうかよ!」
「何⁉︎」
力任せにデモンプラントを引きちぎる。
その様子を見て、女は初めて動揺の色を浮かばせた。
「……そのデモンプラントは私独自に品種改良した魔物、耐久力だけなら黒獅子をも上回る、それを……」
「今度は、こっちの番だ!」
「っ、召喚!」
女だからと油断は出来ない。
必殺の右ストレートを放つが、亀のような魔物の甲羅に当たり威力を殺される。
が、御構い無しに突き通す。
「うおおおおっ!」
「馬鹿な、こんなの……く、逆流召喚!」
魔物を突き抜け拳が女へと届く瞬間、女の姿が煙のように消えて無くなった。
瞬間移動の魔法も使えるのか?
「オオオオオオオオオオオオオオ!」
「……まだアイツが残ってたか」
デュークデーモンは力の限り暴れている。
それを騎士団と兵士が何とか食い止めている状態だ。
召喚魔法使いの女は逃走したが、デュークデーモンはそのままで放置されている。
「障壁多重展開……!」
「オオオオオオオ!」
「きゃっ……⁉︎」
デュークデーモンが口から黒い火を噴く。
障壁がバリンバリンと音を立てながら割れ、サリーの元へ炎が迫る。
させてたまるか!
「その口とじてろ!」
「ガフッ⁉︎」
顎を思い切り殴打する。
デュークデーモンは人型サイズな為、黒獅子よりもずっと戦いやすい。
「お兄ちゃん!」
「サリー、後は任せろ」
「うん!」
サリーが騎士団や兵士を下がらせる。
昨日俺の戦闘を見ていた兵士は納得していたが、それ以外の騎士や兵士は俺を疑問視し納得していなかった。
仕方ない、今ここで俺の実力を分かってもらおう。
「どおらっ!」
「オオオオオオオ!」
技術もクソも無い単純な突きと蹴り。
しかし圧倒的な力の前に、技術が入る余地は無い。
ただの拳はデュークデーモンの腹を貫き、ただの足はデーモンの翼を蹴り穿つ。
「「「うおおおおおっ!」」」
「お兄ちゃん、凄い!」
「ダイチさん、いつ見ても強くてカッコいい……!」
俺の猛攻に皆が歓声を上げる。
こっちは恥ずかしさで悲鳴をあげたい……だがサリーやエルナの前でそんな情けない姿を晒す訳にはいかない。
「オオオオオオオ、ウオオオオオオオ!」
デュークデーモンの瞳が光る。
最後の力を振り絞った黒い火炎が口から放射され、焼くというより壊すといった性質の炎が迫り来る。
「関係ねえ、ぶっ壊す!」
黒き炎へ自ら突っ込む。
その行動に周囲の人達は息を飲む、デーモンですらニヤリと笑っていた気がした。
おいおい、勝負はこれからだぜ!
「はああああっ!」
「オオオオオッ⁉︎」
「「「嘘だろ⁉︎」」」
黒炎の壁を乗り越えデーモンへ近づく。
この程度の炎、俺には効かないのさ。
そのままデーモンの心臓を狙って拳を叩き込む。
「オ、オオオオオオオ……」
グシャリと鈍い音が響き、デーモンは崩れ落ちて塵になる。
「俺の勝ちだ」
風に舞って消えていくデーモンの塵へ、俺は静かに告げた。




