10話黒獅子との戦い、そして
現場へ着くと、既に町の兵士が戦っていた。
だが余りの巨体に殆ど攻撃が効いていない。
「くそ、どうなってんだ!」
「剣も槍も、刃が通らねえ!」
「魔法も無効化されちまう!」
絶望の色が兵士達を染め上げる。
黒獅子はそんな事御構い無しに、前足を振り上げて兵士達を薙ぎ払った。
「「「うああああっ⁉︎」」」
風圧で吹き飛ばされる兵士達。
通常の人間には、あの黒獅子に手も足も出ない。
そう、通常ならーー
「おらあっ!」
「ガッ⁉︎」
俺は、黒獅子の右前足を思い切り殴る。
波のように衝撃が広がり、黒獅子は大きく体を揺らす。
「な、なんだ君は⁉︎」
「皆さん、危ないから下がっててください!」
兵士の一人が驚くが構ってられない。
とりあえず兵士は邪魔だ、悪い言い方になってしまうが、足手まといにすらなっていない。
「俺があの黒獅子を倒します、兵士の皆さん市民のは避難誘導でもしててください」
「馬鹿なっ、あの怪物を一人でなど……」
「じゃあ、そういう事で」
「あ、おい!」
ダンッと地面を蹴り上げ飛翔する。
そのまま落下する速度を利用し、黒獅子の頭にかかと落としをくらわせる。
「ガッ、アアアアッ⁉︎」
ズシリと体を土に付ける黒獅子。
恐らく、脳にまでダメージが届いているのだろう。
いくら巨大でも、構造は生物と同じだ。
急所をそれなりの力で攻撃すれば、ダメージは入る。
まあ、それが出来るのは俺くらいだろうが。
「ふっ、は!」
続けざまに拳を撃ち込む。
一発一発、必殺のつもりで。
撃ち込む度に黒獅子の動きが鈍くなっていた。
確実に、ダメージは蓄積されている。
「ガッ……ガッアアアア!」
「おっと」
体毛から魔力の波動が拡散される。
近くを飛んでいた鳥がその波動を浴び、地面へ落ちていく。
普通の生物が浴びたら瞬く間に体力を奪われる波動なのだろうが、俺には何故か効かなかった。
「最期の足掻きか?」
「ガッ……!」
「もう、楽にしてやるよ!」
両手を合わせ、二つ分の拳を作る。
それを頭上に掲げ、力の限り振り下ろした。
「ガッ⁉︎」
ズドン!
海神の波の如きエネルギーが黒獅子の体を駆け回り、外見から内部まで、あらゆる箇所を破壊していく。
そのまま黒獅子は崩れ落ち、死亡した。
「ふぅ……五分も必要無かった」
黒獅子の死骸から降りる。
さて、早く皆んなに報告しないと。
「う、動くな!」
「ん?」
屋敷へ戻ろうとした時、周りを何人かの兵士に囲まれる。
槍を突きつけられているのだが、全員震えているのでちっとも恐怖を感じない。
「お、お前は何者だ!」
「安心してください、俺は皆さんの味方ですよ?」
「く……例えそうだとしても、その力は危険だ!」
彼らも町を守るのに必死なんだろう。
俺という未知の存在に対しても逃げ出さず、その職務を全うする意思が伝わってくる。
いつぞやの町で略奪行為をしていた兵士とはまるで違う。
ルドルさんは正真正銘リーリィ派のようだ。
「とりあえず、またいつか話しましょう」
「なっ⁉︎」
来た時と同じように空高く飛翔する。
うーん、身分を証明する物が欲しいなぁ。
「ただいま」
「ダイチさん、お疲れさまです」
「お兄ちゃん、おかえり」
応接室は変わらぬ様子だった。
ルドルさんとシェルナが震えていた事を除いて。
「ダイチ……貴方は何者ですか?」
「何者って、ただのダイチだよ。あ、今はリーリィ派かな」
「……君が我々の味方で、心底安心したよ」
♦︎
夜、俺は当てがわれた部屋の寝台で横になっていた。
ワルダク公爵側に強力な召喚魔法使いがいるのは確定で、ルドルさんやシェルナの命を狙っている。
なので、明日俺が倒すと宣言した。
ルドルさんは約束通り俺の強さを認め、各地に散らばっているリーリィ派と情報を集め、本格的なクーデターの作戦を立案中との事だ。
俺の役目は王都にある城を攻め落とし、ワルダク公爵とクズルの捕縛又は殺害。
そして囚われの姫、王女リーリィの救出である。
「ふあ……そろそろ寝るか」
これからやる事が盛り沢山だ。
休める時に休んでおこう……と、その時。
控えなノック音が扉から響く。
「誰だ?」
「私です、お兄ちゃん。入っていい?」
「サリーか、構わないぞ」
サリーが部屋に入ってくる。
寝巻きで腕には枕を抱えていた。
「どうした、こんな夜更けに?」
「……お兄ちゃんと、一緒に寝たくて」
顔を赤らめて言うサリー。
まてまて々…それは色々まずいだろう。
「サリー、女の子が簡単にそういう事を言っちゃダメだ」
「私、本気だよ?」
勝手に寝台へ上がりこんでくるサリー。
そのまま枕を置いて横になってしまう。
「お願い、一緒に寝よ?」
「……」
い、いいのか?
でもまあ、俺が何もしなければいいだけだ。
彼女もまだ子供だし、きっと寂しいだけなのだろう。
「しょうがないな……」
「ありがとう、お兄ちゃん」
俺も仰向けになる。
するとサリーが体を密着させてきた。
「お、おい!」
「何?」
「な、何じゃなくて!」
まだ膨らみのない薄い胸が腕にあたる。
しかし胸は胸だ、どうしても意識してしまう。
戸惑う俺の様子を見て、サリーはくすくす笑った。
「お兄ちゃん、こういう事は慣れてないんだ」
「どういう事かな⁉︎」
「……こういう事だよ」
彼女は両手を俺の首へ回し、包み込むように引き寄せてグイッと顔を近づけさせる。
後少し近づくだけで、唇と唇が重なり合いそうだ。
「……お兄ちゃん」
「っ!」
サリーの口が動く度に吐息が漏れる。
この距離の為、それがダイレクトに伝わってくる。
俺の理性があと僅かで消し飛ぶ……そんな時。
「ダイチさん、いますか?」
「エルナ⁉︎」
「っ、その声、サリーなの⁉︎」
扉を蹴破るように入ってくるエルナ。
そして寝台の上にいる俺たちを見て絶句した。
「サリー、抜け駆けしたの⁉︎」
「なんの事?」
「むきー!」
サリーを寝台から引きずり落とすエルナ。
そしてまた言い争いを始めた。
「ダイチさんは私のものなの!」
「違う、お兄ちゃんは私のもの!」
「私の!」
「私の!」
「……」
もう勝手にやっててくれ……疲れた。
俺は一人で眠る。
朝起きたら、両サイドに彼女達がいたのは言うまでもない。
……勿論手は出してないよ?




