1話ボーイ・ミーツ・ガール
「危ない!」
「死ねええええええ!」
ナイフを持って暴れ回る狂人から女の子を守る為、俺は決死の覚悟で前へ出る。
だが、喧嘩もまともにやった事ない俺に、刃物を所持した暴漢の相手は些か無理があったようだ。
「うっ!」
ブスリと熱い感覚が腹を突き破る。
溢れるように流れる血を見て、俺は地面に膝をつく。
くそ……やっちまった。
やっぱ、慣れない事はするもんじゃないな……
「あ……」
そして、俺ーー星野大地の人生は終わりを迎えた。
♦︎
「……あれ?」
気づけば、五体満足で立っていた。
痛みは無く違和感も無い。
血が流れた痕跡も消えていた。
さっきのは、夢?
いやそんな事は無い。
コンビニへ行ったら偶々強盗と出会して、レジ担当が知り合いの女の子で……その子が殺されたそうになったのを見て、思わず身を投げ出し庇ってしまった。
「あの子、無事なのかな」
俺の人生、最初で最後の大一番。
あれであの子も死んでいたら、流石に報われない。
気にしても仕方ない、それよりも。
「……ここは、何処だ?」
見渡す限り人、人、人。
それならば東京に行けば幾らでも見られる。
問題なのは、彼らの外見だ。
全員、西洋ファンタジックな格好をしている。
まるでゲーム世界の住人だ。
しかも、髪色は赤や紫と遺伝子を馬鹿にしたような彩色のモノばかり。
黒髪が珍しい、とさえ思えてくるくらいに。
そして、町の風景も少々異質だった。
中世ヨーロッパ風の世界観、とでも言おうか。
煉瓦造りの家ばかりだ。
車の代わりに馬が堂々も荷台を運んでいる。
こんなの現代日本では滅多に見られない光景だ。
ていうか、ここは日本なのか?
いや、地球ですらないのかもしれない。
とにかく情報収集を始めよう。
「ん?」
その時、人混みの中から悲鳴が聞こえてきた。
まだ幼い少女の声音……あの女の子を思い出す。
目の前で恐怖が迫って来ている性質の声だ、これは。
心配になってきたので行ってみる、すると。
「助けて! お願いします! 誰か助けて!」
「おら、さっさと歩け!」
なんだ、アレは。
まだ幼い、見た目小学生くらいの女の子を無理矢理刃物で脅し歩かせている。
こんなの犯罪じゃないか、何故誰も通報しない?
「嫌っ、やめて!」
「恨むなら自分の親を恨むんだな! お前の両親は俺にお前を売ったんだからな!」
「やだ、嫌あああああっ!」
人身売買……?
そんなの違法に決まってるじゃないか。
それに、子は小谷野物じゃないぞ。
しかし周りの人達は素通りし、関わりたくないといった感じで去っていく。
「う、ううっ!」
女の子は涙を流し泣いていた。
その涙を見た瞬間、俺は無意識で駆け出していた。
「その子を解放しろ!」
「ああ?」
男の前に立つ。
俺の行動に野次馬が騒つき始める。
「たっ、助けてください!」
藁にもすがる思いなのか、女の子は俺に向かって必死に助けを求めてくる。
それを見て男は舌打ちし。
「おいテメエ、こいつは俺が買ったんだ。ヒーローごっこなら他所でやってろ」
「ふざけるな、その子の意思じゃないだろう」
「ウゼエな、さっさと退け!」
男は刃物ーー剣を俺へ突きつける。
おいおい、そんなの初めて見たぞ。
ここは本当に日本ではない別世界のようだ。
だからと言って、こんな悪事は見過ごせない。
強盗に刺された記憶が蘇るが、仕方ない。
一度も二度もそう変わらないだろう。
「大丈夫、今すぐ助けるから安心してくれ」
「お兄さん……」
笑いながら女の子を励ます。
それを見た男はますます顔を怒りに染め、自分の物に手を出すなと喚きながら剣を振り回す。
「死ね!」
「うおおおおおおっ!」
瞬間、不思議な力が全身を駆け巡った。
身体中の細胞が発達し、神経がビリビリと痙攣する。
男の動きがやたらスローモーションに見えた。
だから、剣を避けて拳を握る。
そしてあっさりと右ストレートが男の顔に叩き込まれた。
「ぶはあああああっ⁉︎」
「……え?」
男は吹き飛び遥か彼方へ飛んでいった。
やな感じーと叫びそうな勢いで。
たった数秒で姿が見えなくなってしまった。
……俺ってこんなに強かったかな?
「す、すげーぜ兄ちゃん!」
「何だよ今の一撃!」
「本物のヒーローかよ!」
野次馬が一斉に騒ぎ出す。
なんか、こういうのって慣れないな。
とりあえず女の子を様子を見よう。
「君、大丈夫だった?」
「……あ……は、はい、大丈夫です」
女の子を間近で見ると、凄い美少女だと判明した。
腰くらいまであるウェーブがかった金髪に、宝石のように綺麗な青目。
肌は白く、全体的に華奢で儚そうな雰囲気だ。
こんな子を売るなんて、この子の親はどうかしてる。
「あ、ありがとうございます!」
「気にしなくていい、人として当然の事をやったまでさ」
「……っ、か、かっこいい……!」
女の子は白い肌を赤く染める。
熱でもあるのかな。
「あの、お名前を聞いても?」
「いいよ。星野大地、ダイチと呼んでくれ」
「はい……ダイチさんですね、覚えました。私はエルナっていいます」
「よろしく、エルナ」
「はい!」
元気よく返事をするエルナ。
さて、これからこの子をどうするか。
親に売られたのが本当なら、今彼女の居場所は何処にも無い事になる。
この歳でそれは、少々酷だ。
あ、俺も行くところ無いや。
「うーん、どうしようか」
「あ、あの!」
「ん?」
エルナが勢いよく声を上げる。
相変わらず顔は赤く、息も切らしていた。
本当に大丈夫なんだろうか。
「私、身を寄せる所も頼れる人も無いんです……ですから少しの間、ダイチさんのお供をさせてもらえないでしょうか!」
「俺の?」
それは構わないが、いいのだろうか。
こんな、身元不明の怪しい男と一緒にいて。
その事をエルナに伝えると。
「そんな、ダイチさんは私を助けてくれたヒーローです、疑う事なんて出来ません」
瞳をキラキラと輝かせながら言われてしまった。
これは間違っても邪な事は考えちゃいけないな、彼女の信頼を裏切る事になる。
「実は俺も行く所が無いんだ、だから一緒に頑張ろう」
「はい!」
エルナの笑顔が、とても眩しかった。
6時、7時に2話と3話投下予定。




