第8話 想像の女神の天恵
場面は放課後の学校。前話の続きです。
「天恵っていうのはソラ君が言ったとおり、12歳の誕生日の夜に女神さまが夢の中でくれるプレゼントのことを言うんだけど、そのプレゼントっていうのはリンゴだったり宝石だったり、人によって違うの。ちなみに先生は地図だったわ」
セレナは話が少し長くなってきたのを感じ、3人に座るように進め、自分は机に浅く腰掛けた。
「でね。そのプレゼントを受け取ると夢から覚めて小さな魔法が使えるようになってるの。こんなふうにね」
――シュボッ
セレナは指先に小さな火をつけて見せた。
子供たちに驚きはない。
人が生活の中で魔術を使う姿は日常にありふれているからだ。
ココが訊く。
「へー。じゃあ大人はみんな女神さまに会ったことがあるの?」
「えぇそうよ。私も、ココちゃんのパパもママも大人はみーんな女神さまから魔術を使えるようにしてもらったの」
人の体には大気中の魔力を蓄える機能が備わっていて、天恵を境にその存在を体感できるようになり、感覚的に使用できるようになる。
12歳を迎える前の人の体にも魔力が蓄えられていることは確認されているが、天恵を授かる前に魔術が使えるようになった前例はない。
「そーなんだ。セレナ先生、女神さまはキレイだった?」
女の子らしい質問だ。
「えっとね、どんな見た目だったかは覚えてないの。でもとっても暖かくて優しい雰囲気だったような気がするわ」
「へー、そうなんだー」
「――あのさぁ、女神様の見た目とかどうでもいいから冒険者の話を聞かせてよ」
レントが、羽ペンを片手に口をとがらせている。いつの間にか手に紙まで用意していた。
「はいはいわかってます。じゃあ続きね」
セレナはそう一言区切るとまた話し始めた。
「天恵を授かっても、ほとんどの人は、私みたいに簡単な生活魔術が使えるようになるだけなの、でも中にはそんな簡単な魔術とは比べ物にならないぐらいにすごい力を手に入れる人がいるの」
3人が食い入るようにセレナを見つめ、次の言葉を待っている。
「例えば魔導士って聞いたことある?」
「うんあるよ! おっきな火を飛ばしたり、なんでも凍らせたりする人だよね!」
と、ソラ。
「うん。正解。そんな特別な魔術を扱える魔道士っていうのは、天恵の時に女神様から特別なものをもらった選ばれた人なの」
「魔道士は何をもらったらなれるの?」
「確か杖だったと思うんだけど……。そのあたりは先生詳しくないから図書館で調べてみて。みんなが読める本にも詳しく書いてあるから」
ここでセレナは嘘をついた。
本当はある程度【何をもらったら何になれるか】を知っている。
天恵と同じく冒険者への憧れもまた誰もが通る道なのだ。
つまり大人はだいだい【天恵】と【授かる能力】の因果関係に明るい。
口頭での説明以上に本の方がわかりやすいというのも事実としてあるが、普段あまり勉強に熱心ではない彼らに本を読む機会を提供したかったのだ。
「そうなんだ! じゃあ後でみんなで行ってみよ!」
「うん!」
ココがセレナの意のままに反応し、ソラがそれに応える。
セレナがしてやったりの表情をしていると、
「つまり冒険者になるには、女神様にその特別な何かを貰わなきゃだめってこと?」
と、レントが質問を投げかけた。
「んー、惜しい! けどちょっと違う。冒険者になることそのものはそんなに難しい事じゃないのよレントくん」
「え? どういう事?」
「街に行くと【ギルド】っていう、冒険者の集まる会社みたいなものがあって、そこでなりますって言えばなれるの」
それを聞いたソラが言った。
「なーんだー。じゃあ冒険者になりますって言う練習しとこーっと」
「……そうね。ソラ君の言うとおり。それで充分冒険者にはなれる。でももうわかってるんじゃない? 仮に普通の人が冒険者になったらどうなるか」
「普通の人では……モンスターと戦えないわ……」
手をぎゅっと握ったココが答えた。
「そうね。冒険者の仕事にモンスターは付き物だから、普通の人には難しいってことになるわね。」
セレナはそう言って冒険者になるための課外授業を締めくくる。
「普通の人……か……」
羽ペンを置いたレントがそう呟いた。
ソラ、ココ、レントの3人はこの日を境に天恵についての知識を深めていく。
しかしそれと同時に、女神の力の偉大さと抗うことの出来ない運命の無常さを痛感していくのだった。
次話は明日(2017/2/11)に投稿したいと思います。
レントがメインキャストです。
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