第23話 池にうごめくモノ
荒れ狂う雨風の中、二頭の馬が駆ける。
一頭には僕、一頭にはクロッグさんとココが乗っていた。
「ソラ! 一度止まって方向を確認しよう!」
「はい!」
馬を止めた僕は目を閉じレントの行方を探った。
今度はさっきよりも強い光が確認できる。
歩く人のような形に輪郭が浮き出ていた。
「あっちです! 形がはっきりしてきました」
「きっとレントに違いない! ナイスだ、ソラ!」
この方向を行くとカエル池だ。
カエル池……。
「――あっ!!」
「どうしたの?! ソラ!」
「ほらココ、あの日! 釣りに行った日! 僕の竿の餌が不自然になくなってたよね!!」
「うん、そうだったわね。それがどうかしたの?」
「カエル池は内側の結界のさらに内側なんだ!」
「だからそれがどうしたって言うのよ?!」
「おい、なんだふたりとも! なんの話をしてるんだ?!」
「もしも僕の餌をとったのが、結界に穴を開けて弱ってたモンスターだったとしたら?!」
「「――!!!」」
「内側の結界のさらに内側にそいつがずっと潜んでたって事になる」
「ソラ、ココ、急ぐぞ!!」
クロッグさんが声を張り上げる。
僕はカエル池に向かって発進した。
全速力で馬を走らせる。
「クロッグさん! モンスターが直接頭に話しかけてくるってことってありますか?!」
「あぁ! ある! もしチャームっていうモンスターのスキルだとしたらやばい! レベルに差があったり、受け手の精神が不安定だと効果が抜群に高い!」
「もしかしたらレントの様子がおかしかったのは――」
「あぁ! おれも同じ事を考えてた! 可能性は十分にある!」
池にいる何かにレントがチャームをかけられたのだとしたら、レントが言っていたうわ言の辻褄も合ってしまう。
とにかく早くレントを見つけ出さないと。
◇◆
村の柵はとっくに飛び出し、しばらく走った。
そろそろ池が見えてくるかというところで、視界に人影を捕らえる。
池の傍で立ったまま水面を見つめているレントがそこにいた。
「レント!!」
僕が叫ぶとレントは、――はっとしてこちらを向いた。
「あれ? ソラ……?」
よかった。
無事だった。
朦朧としているレントに近づこうとしたその時、
――ザバアアアアアン
水面が丸く持ち上がったあと、すぐさま高く水飛沫が上がる。
そこに現れたのはゆうに1mは超えるであろう大きさの蛇の頭だった。
全体的に白っぽいが深い青色のまだら模様が見える。
目の前のレントを睨みつけ、先の割れた細長い舌を不気味に出し入れしている。
「まずい! レント! 逃げろ!」
クロッグさんがそう叫んだのも束の間、レントは――バシャッと音を立てて水浸しの地面に倒れた。
その肢体は白く光っている。
天恵の兆候だ。
僕たちはクロッグさんのの指示で蛇から距離をとった位置で馬を降りた。
「クソ! こんな時に! おいソラ、ココ、止まれ! これ以上近づな! あとはプロの仕事だ!」
レントを助けに走り出そうとした僕とココをクロッグさんが引き止める。
「イヤだ! 行きます!」
「ダメだ! 無視して行くならお前を攻撃してでも止める!」
「クロッグさんひとりに行かせるわけにはいかない!」
「大丈夫だ! 俺たちに任せろ!」
「俺たち?!」
そう僕が聞き返すと同時に、後方から大きな火の球が蛇に目がけて飛んでいく。
命中したものの瞬時に掻き消えた。
「やはり水属性か……。私は相性が悪いな……」
「ああ! だが俺に考えがある! 時間を稼いでくれ!」
「わかった!! あとは任せる!」
マイアさんだ。
火を放ったのはどうやら彼女のようだ。
クロッグさんと短く言葉を交わし馬から飛び降りたマイアさんは、長剣と小楯を手に標的に向かって走る。
蛇はマイアさんを敵と見なしたのだろう。
ゆっくりと池から上がりレントを背にしながらマイアさんに相対した。
――ヌっと池から出てきた蛇の全身が露わになる。
頭の10倍はあるであろう長さの胴体は、僕が創造していた以上に太く力強い。
「らああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
マイアさんが蛇に切りかかる。
猛攻を見せるが、相手も口から打ち出す水の玉や尻尾による打撃などを駆使し、その太刀を受け流している。
暫くは張り合っていたが、蛇から感じられる余裕とは裏腹にマイアさんの息が上がっていた。
その時、蛇が放った水の弾が直撃し、マイアさんの体がふっとんだ。
さらに追撃をかけようと、蛇がマイアさんの影を追う。
「マイアさん!!!」
すると僕の横から――えい! という掛け声が聞こえ、大きな水の玉が蛇に向かって飛んだ。
それは蛇に命中する。
ダメージはなさそうだが、多少ひるんでいる様子だ。
それはそうと、僕は驚いてココに訊いた。
「コ、ココが撃ったのか??」
「う、うん。ご、ごめん、説明は今度するね」
ココはそう言って、二発三発と水の弾を離れたところから打ち込んでいく。
まもなく体制を整えたマイアさんが前線に復帰した。
「ありがとう! ココちゃん、でもそれ……。あとで私も詳しく教えてもらうわよ!」
「はい!!」
「よし、できたぞ! マイア、すぐそっちにいく! お前らはここを動くなよ」
木の板に魔法陣を刻んでいたクロッグさんがようやく顔を上げた。
そして素早くマイアさんのもとに駆け寄ると、なにやら耳打ちをした。
それにマイアさんがうなづいて応えたと同時に二人は――サッと蛇から距離をとった。
その場に並んだ両者がクロッグさんの持った魔法陣に手を乗せ、魔力を込める。
「こいつは効くぜ! 行くぞにょろにょろ野郎!」
クロッグさんがそう言うや否や、魔法陣から火の玉と半透明の空気の玉が出現した。
お互いに絡み合いながら、それぞれが螺旋状に軌道を描きながら飛んだ。
次の瞬間、
――ッッドーーーーーーン!!!
二つの玉が合わさり大爆発を起こした。
下あごに間近で衝撃を受けた蛇の頭が大きく上に跳ね上がる。
するとそこに、
――バリバリバリバリ!!!!!
青白い稲妻が落ちた。
強い光が辺りを包む。
――ビターーーン!!
蛇は巨体を硬直させたまま仰向けに池に叩きつけられ沈んだ。
「やったか?!」
クロッグさんが池に近づき水面を見渡す。
しかしまだ終わりではなかったようだ。
クロッグさんがその場から素早く後ろに飛び退いた。
そこへ――ずるずると蛇が上がって来る。
凝りもせずレントを背に僕たちをにらむ。
体力をかろうじて残しているようだが、確実に弱っていた。
さっきに比べ明らかに動きが鈍い。
「私が止めを差す。クロッグはもしもの時のためココちゃんたちを――」
「わかった」
マイアさんが距離を詰める。
お互いの間合いはある程度把握し合っている。
――ゴロゴロゴロ
空で雷鳴が響いた瞬間、蛇の体が――ビクッと反応した。
マイアさんはそのタイミングを逃さない。
ぬかるんだ地面を軽快に蹴り、手に持った剣を振りかぶりながら一気に距離を縮めた。
蛇の表情が観念したように見えた。
「ま、待ってください!!!」
――突然だった。
まさに切りかからんとするマイアと蛇の間に意識を取り戻したレントが割って入ってきた。
更新遅くなりました。
次話についても2~3日かかると思います。
気長にお待ちください(^^)/