第21話 少年を呼ぶ声
「やったじゃねーか、ココ。そんなに気を落とすようなことかよ」
クロッグさんの部屋を後にした俺とココは、それぞれの家を目指し歩いている。
ココはクロッグさんから言われたことを気にしているようで、浮かない表情だ。
「うん……。わかってるんだけどさ。でもなんだか怖くなってきちゃった」
ココの気持ちも解らないではない。
ここ何日かは俺たち3人の夢がもしかしたら叶うかもしれないと浮かれていた。
しかし急に現実に直面するタイミングが訪れたのだ。
ココがこれから歩む道が厳しいということはわかった。
だからと言って一緒に落ち込むのは違う気がした。
冒険者の道を志した時点ですでに道は険しかったのだから。
「俺がいるだろ。なんならソラもいる。お前は一人じゃないんだ。俺たちなら乗り越えられるさ」
俺は極力明るいトーンでそう伝えた。
「レント……。あんた、たまには良い事言うわね」
「なんだよそれ」
――ふふふ、とココが笑ったから、俺もつられて笑った。
「なんかごめんね。私の事なんかより、今は自分のことが気になるでしょ?」
「いや、まぁそうだけど、案外落ち着いてるぜ? お前が凄い戦士になるかもしれないってわかって、ソラもシーフになれて。そりゃ当然諦めてなんてないし、お前たちと一緒に冒険者になりたいっ思ってるけど、もう結構腹一杯にはなってきてるな」
「なによそれ。もし私が天恵前にそんなこと言ったらあんた絶対ブチ切れてるわよ?」
「かもな。でもココは怒らないんだな」
「まぁね。あんたが言ってることは意外とわかるもの。なんだか嘘みたいな日が続いてて、まだ信じられずにいるし、ちょっと私もいっぱいいっぱいになってきちゃった。」
「――はは。なんか俺たち大人だよな」
「どこがよ」
今度は俺が笑うのを見てココが笑った。
――ポツッと水の粒が顔に当たった。
西の空が薄暗い。
何日も晴れの日が続いていたのだが、あの様子だと今夜は雨になるのかもしれない。
「ずっと晴れとはいかないよな……」
俺はそう呟いた。
『……ント……』
「ん? なんか言ったか? ココ」
「え? 何も言ってないわよ」
何か聞こえた気がしたのだが。
『レント……』
――?!
今度ははっきりと聞こえた。
金属と金属を擦り合わせたような嫌な音が、俺の名前を呼んでいる。
次の瞬間、
――キーーン
突然強い耳鳴りが俺を襲う。
立っていられず、その場にしゃがみ込んだ。
「ちょっ! どうしたのよレント! どこか具合悪いの?!」
ココが駆け寄ってきた。
背中に手を当てて声をかけてくれるが、返事ができない。
――キーーン
『レント。レント。ここまで来なさい。レント』
今度は耳鳴りと一緒に先ほどの不快な声が頭の中に鳴り響く。
――ここまで来い? 何を言ってるんだ?!
頭が割れるように痛い。
「ちょっとレント!! 大丈夫なの!? 誰か!」
意識が……、保てそうにない……。
「レント!! レント!!」
――ドサッ
◇◆
気が付くと家のベッドに寝かされていた。
すぐ近くに母さんの顔が見えた。
「気が付いた?」
「うん。母さん俺――」
「レントが急に道端で倒れたって。ココちゃんが青い顔して運んできてくれたんだよ」
「そっか。ココは?」
「もう帰ったわ。もうずいぶん夜が更けてるのよ」
確かに辺りは暗くなっていた。
強くなった雨が屋根を叩く音が聞こえる。
「まだ起きるには早いけど、また眠れそう? お腹すいたりしてない?」
母さんがそう聞いてくれたので、自分の体を確かめてみる。
どこにも痛いところや不調なところはない。
ただ少しお腹はすいたような気がする。
「なんか食べるものある?」
「ふふ、ちょっと安心したわ。待っててパンを持って来るから」
母さんはそう言って席を立った。
しかしいったい、あれは何だったのか。
今は声も耳鳴りも止んでいる。
天恵と何か関係があるのだろうか。
いよいよ明日か。
この変な耳鳴りが、俺の天恵に変なケチをつけないことを祈るばかりだ。
投稿遅くなってすみません!!
次話は明日(2017/2/28)投稿予定です!!