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創造の女神と子供たち  作者: オクトパス
第1章 女神の天恵
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第20話 秘密


 放課後、私はレントとふたりでクロッグさんの家を訪ねていた。

 私の手から水の玉が出たことについて相談するためだ。


 ――こんこんこん。


「クロッグさーん。いるのは分かってるんですよー」

「ちょっとレント、変な言い方するのやめてよ」

「冗談だよ」

「わかったから、代わって。クロッグさーん、ココ=ルマリアです。いらっしゃいませんか?」


 ……。


 返事はない。

 どうやら留守のようだ。


「マイアさんと見回りに行ってんじゃねーか?」

「うーん。でもパパはこのぐらいには家に帰ってきてるって言ってたんだけど――」


「何か御用かな? お二人さん」


 不意に後ろから声を掛けられ振り返ると、そこにはクロッグさんがいた。 


「あ。こ、こんにちは」

「こんにちはー。お嬢ちゃんは確か――」

「は、はい! ココです。ココ=ルマリア。父がいつもお世話になってます」

「あー! やっぱり! オートンさんとこのちっちゃな戦士だね! どうしたの俺に御用かな?」

「あの……、実は……」


 午前中にあった出来事をそのまま話すと、クロッグさんの表情がみるみる高揚していった。


「――それ……。ホントなのか……?」

「う、うそじゃ『嘘じゃないです!!』」


 否定を口にする私にレントが割って入った。


「俺もその場にいたんだ! ってか俺が試しにやってみろって言ったらココが試しにやってみてそしたら――」

「わかったわかった。わかったから落ち着いて。まぁまず二人ともウチに入りな。まぁウチっつっても仮住まいだけど」


 クロッグさんは私たちをかわすと玄関の鍵を開けて中に入っていく。

 中から「どうぞ――」と手で合図してくれたのを見て私たちも後に続いた。


「「うわぁ……」」


 クロッグさんの部屋かりずまいに入ると、驚くべき光景が広がっていた。

 部屋のあちこちに無造作に置かれた、紙や木の板が目に入る。

 そのひとつひとつに魔法陣が描かれたり、掘られたりしていた。


「お。なかなかいいリアクションするなぁ。魔道士の部屋にようこそ。ってか」


 クロッグさんはおどけて見せたが、私たちは興奮して返事ができなかった。


「まぁ、そのうち嫌ってほど見ることになるさ。さぁふたりともこっちこっち」


 部屋の奥からクロッグさんが手招きする。

 奥の扉から裏庭に案内してくれるようだ。


 ――キィ


 木戸を押して外に出ると、綺麗に草の刈り取られた庭が広がっていた。

 何人か座れそうな木のベンチに広い畑と魔術式の井戸。 

 村の設備としては最上級のもてなしが為されていることがよく分かる庭だった。


「さて、諸君。先ほどの話の続きだけど、ココちゃん。ってかココって呼ぶよ。ココは魔術が思わず出ちゃったって言ってたけど、もう一回それ見せてくれる?」

「はい。やってみます。えっと……」

「一応あっちの畑に向かって、そんなに力入れなくていいからね」

「はい」


 私は初めてのときのように、広げた手のひらを頭の上から体の前に軽く振り下ろした。

 

「えいっ!!」


 すると、突き出した手の先からほんの少し離れたところにぐるぐると回転する水の玉が現れ、同時に畑のほうに向かってゆるい放物線を描きながら飛んで落ちた。


 ――バシャン。


 横で見守っていたクロッグさんの顔をおそるおそる見やると、口を開けたままの彼が私の顔を覗きこんでいた。


「ね! 俺の言ったとおりでしょ?!」

「あぁ。これは……。完全な無詠唱だな……」

「「むえいしょう?」」

「あぁ。無詠唱。ココ。これはとんでもなく優れた才能だ。こんなことができるホルダーを俺は見たことがないし、たぶんいない……」

「そ、そんなに? すごい……ことなの?」

「あぁ。ちょっと、頭を整理させてくれ。一旦そこに座ろう」


 クロッグさんはそばにあったベンチを示した。

 3人はそこに座る。

 クロッグさんは目を伏せ、わずかに口を動かしながら何やら考えこんでいる。

 

 ――そしてしばらくすると、重々しく口を開いた。


「うん。これも何かの縁だしな。少し魔術の勉強をしようか」

「は、はい」

「君は――」


 クロッグさんはレントに目線を向ける。


「レントです。レント=マーティグスク」

「そっか。レントはどうする? このまま聞いて行くのか?」

「い、いいんですか? 俺はまだ天恵も迎えてなくて――」

「いいわよ。あんた、明後日から魔術使うんだから聞いときなさいよ」


 不安そうに聞き返すレントを一喝した。

 ――いいんですか? じゃない。

 聞きたいに決まってるし、きっと必要になる話だ。


「お。おう。クロッグさん、俺もお願いします」

「そうか、わかった。じゃあいくつか確認するとこからはじめよう」

「「はい!」」


 クロッグさんはそう言うと、私たちと向かい合うベンチに座り直した。


「まず、二人はホルダーが魔術を使うときの方法については知っているか?」

「はい。本で読んだだけですけど。詠唱と魔法陣と魔道具のうちどれかの方法でしか魔術が使えないんですよね?」


 私は応えた。

 

「そのとおりだ。ちなみに俺は知っての通り魔法陣を使う。つまり、詠唱してもなんも出ないし、魔道具に魔力を流しても何も起きない。」

「えっと……私の場合は――」

「うーん。俺たちの間では【無詠唱】って呼んでる。呼んでるというか、ついさっきまでは空想上の幻みたいなもんだったけどな。実際に目の当たりにしてもなお信じられないくらいだ。なにしろ魔道具のスピードと、詠唱の便利さを併せ持ったそれはそれは特別な方法だ。どの冒険者にとってもため息が出るほどうらやましい能力だよそれは」


「すごいじゃないかココ!!」

「そんな能力が私に……」


「あぁ。確かにすごい。けどよく聞いてくれ。このことは暫く誰にも言わない方がいい」

「え……。なんで……?」

「まだピンとはこないかもしれないけど、それだけ特別な能力があると、妬みとか、行き過ぎた興味の対象になると思うんだ。ココはまだ悪意を持って近寄ってくる輩に対処するだけの経験がないから、下手に振れ回ると、とても危険な状態になると思う」

「そ、そんな……。わ、わかりました。誰にも言わないでいます……」

「もちろんレントも内緒にしててくれ」

「はい……。わかりました……」


 私に、そこまですごい力が――。

 なんだかとんでもないことになってきた。


次の話は明日(2017/2/25)投稿予定です。

ぜひまた読んで下さい!!

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