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創造の女神と子供たち  作者: オクトパス
第1章 女神の天恵
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第17話 月と太陽


 レントとココと別れたのが少し前。

 空が少し暗くなり始めたころ。

 別れ際にレントが何か言葉を飲み込む様子が見えた。

 きっとココに天恵前の人との接し方を強く諫められたのだろう。

 

 ココの天恵の結果が分かってから3日が経った。

 ココの周りはようやく祝福のムードが薄れてきた様子で、本人も久しぶりに学校に来て、落ち着いた表情を見せてくれた。

 ココは戦士の能力を得た。

 一般的な暮らしからは遠ざかる運命にある。

 少し気になってこれからどうするのか尋ねると、

 ――ソラたちの結果が出ないと、どうにも動けないわよ。

 と、帰ってきた。

 それもそうかと納得しながらも僕は小さくため息をついた。

 そう簡単にジョブは授からない。


 簡単と言えば、穴の空いた結界だ。

 クロッグさんの手によって、いとも容易く修復された。

 村にやってきてから3日後には元通り以上の結界モノができあがったそうだ。

 

 ――やっぱり冒険者ってかっこいいな。

 そんな感想が心の真ん中に座っている。 

 我ながら幼稚だが。


「もう少し待っててねソラ! もうすぐご馳走出来上がるから!」

「うん。わかった……」


 母さんが声をかけてきた。

 今夜僕を祝うための料理は、まだ陽が高いうちから準備をしたものだ。

 だが本当なら楽しみで仕方ないはずの特別な夕飯も、今は関心が持てない。

 

 今日は僕の12歳の誕生日だ。


 まるで判で捺されたように僕は冒険者への憧れを抱き、また判で捺されたように天恵を受ける。

 この世界であまりにありふれた夜を僕はこれから迎える。


「ソラ。さぁ座って。用意ができたわよ」


 僕は促されるまま席についた。

 そして父さんと母さんも同じ食卓を囲んだ。


「ソラ。お誕生日おめでとう」

「ありがとう父さん」

「大きくなったわね、ソラ。素敵に育ってくれて本当に――うれしいわ」

「母さん。泣いたらせっかくの料理の味が変わっちゃうよ?」

「ふふ。そうね。優しいソラ。本当にお誕生日おめでとう」

「ありがとう母さん」

「よし、じゃあいただくとしよう」


 父さんはそう切り出し、食前の祈りを捧げる。

 僕も顔の前で両手を組んだ。


「――いただきます」


 目の前に並ぶ料理はとても豪勢だった。

 まさに腕によりをかけたのだろう。

 僕が好きなものでテーブルは埋め尽くされている。

 

 ただ、どれも見たことのあるものばかり。

 どの味も僕は知っている。

 

 嫌いなのではない。

 むしろ好きだ。

 でも僕は――。


「どうしたの? 早く食べて。冷めないうちに」


 母さんに急かされ、ふと我に返る。

 そういえば、お祈りの後しばらく固まってしまっていたかもしれない。

 考える事が尽きない。


 僕は一番近くにあったスープに口をつける。



 

「……おいしい」




 なんの変哲もない、いつもの味だった。



「ソラ? あなた泣いてるの?」



 隣に座る母さんが、僕の頭を抱きしめる。

 気が付いたら、頬に涙が流れていた。


 母さんがいて、父さんがいて、小さい頃から親しんだ料理があって。

 そんな毎日がとても素晴らしく思えた。

 それに気づかせてくれる優しい味だった。


 どんな天恵を授っても、僕は幸せなんだ。

 そう心から思えた。


 緊張から一気に解放されるのを感じる。

 自分が思う以上に気持ちが張り詰めていたのだろう。

 あとからあとから涙が溢れた。


 ◆◇


 最後の一口を口に運ぶ。

 食べ過ぎてすこし苦しい。

 

 「ごちそうさまでした」


 僕は丁寧に手を合わせた。

 全身が暖かい何かに満たされているのを感じる。

 そして、今まで感じたことがないほどに眠い。


 「――じゃあ僕、寝るね」

 「あぁ。おやすみソラ」

 「おやすみなさいソラ」


 僕は寝室に入ると、すぐさまベッドに横たわる。

 普段はなかなか体勢が決まらないが今日は違う。

 寝返りも打てないまま意識が薄れていく――。


 

 ――。


 

 どちらを向いても深い群青色の空間に、小さな光がたくさん散りばめられている。

 そのひとつひとつは、赤や黄色の様々な色で輝いていてとても綺麗だ。


 でも他には何も無い。

 僕はそんな夜空にも似た空間に――ふわりと浮かんでいる。


 頬を撫でるのは、冷たい不思議な感触。

 流れる水のようでありながら、そよぐ風のようにも感じる。


 ふと自分が移動し始めたことに気付く。

 どこかを目指すように、ゆっくりと、まっすぐに。

 意図的ではない分「移動」と言うよりは「運ばれている」に近いが。


 この状況に僕は恐怖も不安も感じていない。

 それはこれが初めての経験ではないからだ。

 もうすぐ終わることもなんとなく知っている。

 

「見えてきた……」


 進む先に光が見えた。

 何度も見たこの夢の終わりはいつもこうだ。

 近づくにつれて大きく膨らんでいく暖かい光に僕は吸い込まれていった……。


 

 ――すとん


 足が着地した。


「ん?」


 僕は突如訪れた違和感に思考を奪われた。

 あたりを見渡すと、果ての見えない真っ白な世界が広がっている。


 僕の知っている終わり方ではない。

 いつもなら光に包まれたところで夢から覚める。


『ソラ=ウェールズですね』


 柔らかな印象の女性の声がした。

 同時に目の前が強く発光する。

 光が止むとそこには純白のローブを纏った美しい女性が立っていた。

 創造の女神だ。

 あまりの気高さに言葉を無くし、何も返すことができずにいると彼女は続けた。


『これをあなたに』


 そう言って、軽く握った掌をこちらに差し出してきた。

 僕はその手の中のものを受け取る。


『これからも月と太陽は常にあなたの行く先を照らすでしょう。迷うことなくあなたの信じる道を進みなさい』


 二度目の目覚めが訪れる事を予感した僕は畏れながら尋ねた。


「女神さま。僕がいつも見る夢は何なのですか?」


 すると微笑みながらゆっくりと姿を消していく女神様の口元が


『いずれわかります』


 そう動いたように見えた。

 僕は薄れゆく意識の中で女神から授かったものを見た。


 手には古びた木枠のレンズが握られていた。

 

 

次話は明日(2017/2/21)投稿します(^-^)/

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