第12話 藤棚
結界の穴が発見されたのが一週間前。
村の活動範囲が狭まった事以外はいつもどおりの日常が戻っていた。
それもマイアが毎日村の周辺を見回り、住人たちの安全を確保してくれているおかげだ。
結界の穴からは、モンスターの侵入が相次いでいたが、マイアはそれらをなんなく駆除していた。
さらには委託していた魔導師もそろそろ到着の予定とあって、村人たちの心もすっかり落ち着いていた。
「平和だねー」
「だな。なんかちょっと退屈だぜ」
ソラのぼやきにレントが呼応する。
「何言ってんのよ。何か起こってたらとんでもない事になってるわよ今ごろ」
ココは至極真っ当な意見を述べた。
「まぁそうなんだけどさ」
と、ソラ。
3人がいるのは、学校の敷地の一角にある藤棚の下だ。
日差しは遮られ、心地よい風が抜ける。
今はちょうど季節という事もあり、紫色の小さな花を豊かに咲かせていた。
「で、ココは心の準備できたのか?」
「ん? 天恵の話?」
「そりゃそうだろ。もう明日なんだぜ」
「うーん。心の準備も何も、待つしかないわけだしさ……」
レントの問いかけにココは曖昧に答えた。
明日に迫ったココの誕生日。
彼女は3人の中で最も早く天恵を授かる事になる。
「あぁもう、ぱっとしねぇ応えだなぁ! もっとこう気合を入れとかないでどうすんだよ! なんとか言ってやれよソラ!」
「いや……、うん……」
「なんだよお前まで! お前ら約束忘れたのか!」
レントが言っているのは、冒険者になって3人で一緒にパーティを組むという約束。
初めはレントが言い出した夢のような話であったが、日を重ねるごとにそれぞれの想いは募っていた。
「忘れてなんかないわよ。忘れるわけないじゃない……。だからって何が出来るって言うのよ。」
「何か出来なくたって気持ちはしっかり持っとかねーとダメだろ!」
「何が気持ちよ……。適当な気休め言わないで!」
「なにぃ?!」
ココは今にも掴みかからんばかりの勢いだ。
レントも負けじと彼女を睨みつけている。
「気合いって何?! 具体的には何やるのよ?!! ねぇ!!!」
「……!」
レントは言葉を返せない。
「レントはいいわよね! 私たちの結果見終わってから悠々と寝て起きたらそれで終わりじゃない!」
女神から強い力を得るケースは本当に稀だ。
ましてや「3人が3人とも」となると、悲観的にならざるを得ない。
「私がダメだったら私のせいで3人の夢が終わるの! 明日! 私の夢と! レントの夢と! ソラの夢を! 私が終わらせるかもしれないの!」
ココはストンッとその場にへたりこんだ。
「何も出来ないくせに勝手なこと言わないで!!」
そして、声を上げて泣いた。
まるで子供のように。
レントはココを激励するつもりだった。
それはココも理解していた。
が、それを受け入れるだけの余裕は残されていなかったのだ。
泣き喚くココの傍らの藤の木は、大きく複雑な曲線を描いて伸びていた。
自らが咲かせた満開の花の空に向かって。
次話、ついにココの天恵です!
明日(2017/2/15)アップします。
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