男たちの焼きそばパン
勢いで書いたものです。よかったらどうぞ。
昼休みのチャイムが鳴る。
一部の男たちは一斉に廊下に飛び出した。目指すは昼食である焼きそばパン。すぐに売り切れるので早く買わなければいけない。タイムリミットはせまっていた。
「うおおおおおっ! どけどけ!」
陸上部エースが猛然と廊下を走っていく。それに負けじとサッカー部、バスケ部の足の速い連中がそれに続いていた。と、それを冷ややかな目で見つめる男が一人。それが俺である。机の上で母の手作り弁当を食べていた。正面には友人がいる。スポーツ刈りをした体格のいい男だ。
「なあ? なんであいつらって、意味もなくあんな一生懸命なんだ?」
「意味もなくって、意味はあるだろ? パンを確保するためだ」
「いや。弁当買ってくればいいじゃん。コンビニあるし」
「まあ、一キロぐらい離れてるからな。面倒なんだろう」
「いやいや。だからさ。ここに来る前に買ってこいよって話じゃん」
「冷めるから嫌なんだろう」
「わかんねーな。それこそ、あんな廊下をダッシュで走り抜けられたら、迷惑であり、危険だろ。ついでにバカっぽいし」
「レースだよ。あれは」
「え? なんだって?」
「男たちの熱き戦い。あれはバトルレースだ。昼飯のパンなんておまけだよ。ああやって奴らは競い合ってるんだ。カッコいいじゃねーか。熱いじゃねーか。しびれるじゃねーか」
「ごめん。なにいってるのかわからない」
「お前はまだ高校生だからわからないんだ」
「お前は誰だよ。神か? 仏か?」
「意味のないことに一生懸命になる。それが人生ってもんだろ?」
「……どうしたお前? 何か変な本でも読んで影響を受けたのか?」
「違うわい! わからんならいいよ。まだ高校生だからな。無理かあ、若輩者のお前には」
「だからお前は何なんだよ。年一緒だろ。悟るのは十年早いだろ」
「男たちのヤマトって映画があってな」
「やっぱりな」
「聞けよ。ヤマト。知ってるか? 大きな船だよ。えーと、第二次世界大戦で連合軍と戦ったあの」
「お前もよく知らねーんじゃん!」
「とにかく! 大きな船があって、あれだ。負けるとわかってるけど、戦いに出なきゃいけなかったんだ。わかるか? 乗組員がどういう気持ちだったか。でも彼らは勇敢に戦って散った。彼らの死を無駄だというのか?」
「いや、俺、その映画知らんし、ヤマトもあんまり知らんし」
「違うだろ? つまり、そういうことだよ」
「そういうことなのか」
「わかってくれたか」
「お前がバカだということにな」
「やはり、お前にはまだ早かったか。俺が悪かったよ」
「そうだな。お前は大きなお友達とでも仲良くなってろよ」
「はあ~! ほんっとうにお前って、バカ、だよな」
「盛大なため息からいわれると結構傷つくな。殴っていいか?」
「わっかんね~? まじでわっかんね~の?」
「うん。まったく」
「お前、無駄なことで意地になったこと、ないの?」
「え? ……ないと思うけど」
「じゃあさ。お前ってここまで自転車で来てんじゃん」
「おう」
「で、同じ高校のやつの自転車に後ろから抜かれたりするじゃん」
「おう」
「抜き返してやろうとか、思わねーの?」
「いや、思わん」
「は? マジで?」
「うん。マジ」
「お前、男じゃねーな。金玉ついてんのか? もしかして女か? つきあってください」
「ついとらボケ。ていうか告白すんな気持ち悪い。腐女子歓喜の流れに発展するだろうが」
「今度の修学旅行のお風呂で確認な」
「金玉の話はいい!」
「おいおい。でけー声出すなよ。俺まで仲間だと思われるだろ?」
「いや、仲間だろ」
「金玉見せ合い仲間か」
「もうその話いいから」
「じゃあこれどうよ? ポテトチップスの袋あるよな。あれ、手で開けるよな。もちろん」
「いや、ハサミを使うけど」
「ハ・サ・ミ!?」
「うわっ。お前、おっきい声だすなよ。ほら、傍の女子が俺たちのことを汚いゴミ虫を見る目で……」
「ハサミってお前、乙女か!?」
「なんでだよ!」
「ポテトチップスは普通、手で開けるだろ! なに? ハサミ? お行儀いいのか!?」
「なんだよそのツッコミ!?」
「机の上の消しゴムのカスは払わずに手で集めてゴミ箱に捨てるのか!?」
「意味わかんねーよ!」
「いや~。まじでないわ。ハサミ使うとか、俺の中では高貴なお嬢様だけだわ~。男でハサミとか、ちょっと気持ち悪ぅ」
「全国のハサミを使っている人に謝れ。そして死ね」
「実はお前ってお嬢様? 結婚してください」
「お嬢様好きなのかよ」
「ああ。ですわ口調と、偉そうで、上から目線なところが何ともな」
「……ところで、どういう話だったっけ?」
「ああ? ああ、ポテトチップスの袋だよ。今度から手で開けろ。命令だ。わかったな」
「やだよ。ハサミを使う」
「ちっ。まあ、一度は手で開けてみろ。なかなか開かないから」
「だからハサミを使えって」
「わっかんね~? そこで諦めてハサミ使ったら負けだろ!」
「なにに?」
「袋に」
「……いや、負けてもいいんじゃね?」
「お前、袋ごときに負けて悔しくねーの!?」
「いや、だから俺は最初からハサミ使ってるから関係ないし」
「はあ~。なんでも道具か?道具がないと何もできないってか?」
「なんかお前、さっきからコロコロ趣旨変わってるな」
「気のせいだ。とにかく! 俺がいいたいのはだなあ。無駄なことに一生懸命になる、それが人生ってもんだよ。誰に褒められなくていい。自分だけ満足すればそれでいいんだ!」
「がんばれ。応援してる」
「応援? 具体的にはどういう応援だ?」
「は? いや、だから心の中で応援してるって。がんばれって」
「違うだろ。応援は応援してるやつに伝わらないと意味ないだろ。目に見える形じゃないといけないだろ」
「チアガールみたいに踊れってか?」
「違う。こう。胸のところに両手の握りこぶしを持ってきてだな。心を込めて、ガンバ、っていってみろ」
「え? 俺がやんの? 今?」
「そうだ。それが応援ってもんだ」
「ガ、ガンバ」
「……つきあってください」
「やっぱりお前のほうがバカだわ」