第五話「本馬さんの妹さんが芸人ってほんまですか?」
先週は風邪で休んでしまい、大変申し訳ありません。主に根本さんがお見舞いに来てくださったおかげですぐに快復できました。同僚のあいつは1回しか来なかったことも報告しておきます。しかも来たと思ったら「仕事溜まってて大変」とか愚痴るし。何をしに来たんだ。その上先週の記録を危うく消しかけたらしい。
で、現在はユナイテッドテレビ本社で『経済最前線』収録に向けてユナテレのスタッフと打ち合わせ中なのだが、一旦休憩に入った。
「あれ、ねーちゃん?」
21階の食堂から見える景色を見ていた我々は一斉に振り向いた。本馬さんによく似たえらい美人がそこにいた。
「快奈やん。あれ、うちの妹」
本馬さんは衝撃の事実を発表した。俺が姉妹を区別する手がかりは髪飾りだけだ。妹さんだけが向かって右寄りの前髪に星型の飾りを付けていらっしゃる。
「あれ、って言い方ないだろ」
「ええやん妹やし」
「妹いたんだ、基奈」
moonのメンバーには周知の事実だったらしく、冷静な対応をしている。
さらに廊下の向こうから本馬さんの妹さんと同年代らしき青年が来た。
「勝手に行かないでよ本馬さん。あ、もしかしてお姉さん?」
「せやで」
「初めまして。相方の聖沢洋介です」
「ああ、初めまして。快奈のお姉ちゃんやで」
相方?
「相方とは?」
思ったことがそのまま口に出ていた。
「僕と本馬さんはお笑いコンビなんです。『東中の光と影』って名前なんですけど、存じ上げない感じですか?」
残念だが知らない。それより本馬さんの妹さんが芸能界にいたことのほうが驚きだ。『本馬さんの妹さん』っていちいち面倒だな。『本馬妹さん』で良いか。
「中学生なの?」
あいつが聞く。2人はどこからどう見ても中学生に見えないが。
「そーだよ。姉ちゃんと7つ違いなんだ」
マジか。言わなくてよかった。最近の中学生って身長高いんだな。そう言えば、妹さんは方言じゃない。
「おまはん、いつから東京におるん?」
お姉さんの本馬さんがそう言いながらポケットから何か取り出した。
「今朝から。『エンタメチャンピオンシップ』の収録だったんだ」
「カイーナ出てたんだ!」
「おう」
辻さんと本馬妹さんは楽しそうに会話しておられる。
さて、ただいま聞き流しならない台詞を聞いた。『エンタメチャンピオンシップ』。それはユナイテッドテレビで毎年行われるお笑いの日本一決定戦。毎週土曜夜11時に放送されている『エンタメレギュラー』の出演者のうち、年間獲得ポイントの1位から12位までが出演し、その技能を競う。内容は漫才、コント、モノマネ、その他何でも良い。ピンでも大人数でも良い。真のお笑い日本一を決める戦いだ。
俺は主にアイドル関係を担当するテレビスタッフなのでお笑いはよくわからないが、系列の人気番組くらいは知っている。『エンタメチャンピオンシップ』が出演することすら難しい大会であることも。彼女たちはそんなに有名なコンビだったのか。……はっ! ぼおっとしてた。
「もう3時です。そろそろ戻りましょう」
5人いるか確認する。唐魏野さん、辻さん、志村さん、根本さん。4人。本馬さんどこだ?
「あの、お姉さんどこ行きました?」
「あはは。やっぱりまちごおてるわ」
方言。本馬さんだった。
よく見れば髪飾りを付けた頭が2つある。いつの間に付けたんだ。てか同じやつ持ってたんだ。
「何やってんですか。早く行きますよ」
「はいはい。じゃお姉ちゃんはこれでな」
「おう。またな」