第三話「志村さんは前科アリです」
入り組んだ道で辻さんが志村さんを見つけた。
「あーいた!」
「待って鏡子!」
「志村さん、左は行き止まりです!」
志村さんは俺のハッタリに引っかかり、本当の行き止まりである右の道に入った。
それは今朝のことだった。暇を持て余したあいつが志村さんの履歴書を見ていると、突然驚きの声を上げた。近隣のレストランで短期アルバイトをするために書かれたものだ。奴はこう言った。
「鏡子、前科あるの⁉︎」
なんですと?
つい履歴書を覗いてみようと思ったが、moonの壁によって塞がれた。志村さんは早くも質問攻めにあっている。
「あの……ちょっと……」
「うわっ、マジやん」
「軽犯罪法違反だって!」
「具体的に何したんですか?」
「えっと……」
「どうなの鏡子?」
畳み掛けられるように言われ、志村さんはとうとう逃げ出してしまった。やれやれ、追うか。若干涙目になってたみたいだし。俺の他に辻さんも追跡に協力していただけるようだ。あと、こうなった張本人も連れて行く。他の皆さんは全員で走ると往来の迷惑になりそうなので留守番していてもらう。
で、冒頭のシーンに戻る訳だが、とうとう志村さんを追い詰めた。
「いきなり走り出してどうしたんですか」
「もしかして前科あるのばれたのが嫌だった?」
どう考えてもそうだろ。
「いえ……海にはもう話していたと言うか……」
「鏡子は、アイドル始める前、家が、なかったんです」
背後から唐魏野さんの声。振り返ると確かにそこに息を切らして汗だくの唐魏野さんがいる。
「この声は海ちゃん! どこにいるの!?」
辻さん、後ろ後ろ。
唐魏野さんによると、志村さんはデビュー前に実家を飛び出し、あてもなく彷徨っていた時期があったらしい。そのうちさいたま市郊外の無人の住居に住み着き、それが発覚して逮捕。釈放後に大宮駅前で行き倒れていたところを唐魏野さんにスカウトされた、ということだそうな。確かにあまり人に聞かれたくない経歴かもしれない。
「だ、大丈夫ですよ。ちゃんと償ったんですから。問題ありません」
志村さんの性格からして、何かフォローしないと本気で自殺でもしてしまいそうだ。
「別に捕まったことはもう良いんです……。私が悪かったんですから……。でも……でもおお……」
結局何が嫌だったのかは言ってもらえなかった。何となく嫌だ、ということにしておこうと思う。誰にだって知られたくないことはあるはずだ。根掘り葉掘り聞くべきではないだろう。とにかく、もう昼になろうとしている。事務所に戻って、みんなで何か食べようではないか。と言おうとしたのだが、全部あいつに言われてしまった。
「そうだな。戻りましょう」
「ええ。ところでだいぶ息上がってますね」
唐魏野さんが俺を見て仰った。俺は元来運動神経が悪い。これだけの距離でも正直かなりシンドバッド……いやしんどかった。あれ? もう尺がない。今週はこれがオチかよ。




