第十一話「moonの根本さんがこんな形で振られるわけがない」
傍観者として高みの見物しかしなさそうだが、一応女性の同僚なので相談してみる。
「今日断ろうと思ってんだけど、どうすればできるだけ傷つけずに済むと思う?」
「あんたがSCB辞めてプロポーズする」
「期待するべきじゃなかった」
「わかったわかった。恋愛感情が全然ないってアピールするしかないんじゃない?」
他人事だと思って笑っていやがる。誰とも結ばれない呪いでもかけてやろうか。冗談はさて置き、俺は意を決して根本さんを呼び出した。
駅近くの公園。隣の高校が部活の練習に使うこともあるが、さすがに平日昼間には誰も……いや、いた。
「何やってんですか」
「だって気になるよ!」
「見世物じゃないんですよ」
「シュガー、ハウス」
「犬じゃないって」
5人ともトンネルの遊具に隠れていた。何となくそんな気はしていた。来てしまったものは仕方がない。
「絶対出て来るなよ」
「振り?」
「振りじゃない!」
真っ先に出てきそうな奴に釘を刺し、その遊具から距離をとる。もうすぐ根本さんが来る。
俺と同じように、根本さんはいつも通りの私服で来た。特別なことを一切していないということは、やはりスタッフの俺とアイドルの根本さんでは結ばれないことを理解しているようだ。今日も振られる覚悟で来たのだろう。それでも彼女は、俺がまだNGを出していないという僅かな希望を持っている。
その希望すら打ち砕くというのはしたくないが、やらなければならない。
「根本さんは」
俺を好いて、いや図々しすぎる。俺のことどう思って、いやまだ根本さんが俺を好きだという決定的な証拠がない。ここからどう切り出せばいいんだ。正直、さいたまを出るときより緊張している。
根本さんから話し始めてくれることを願ったが、何も言わない。しかも無表情。どうしようもないじゃないか。我ながら情けないことに、完全に黙ってしまった。
「今日は、どうしてここに呼んだんですか?」
願いが通じたのか、あるいは沈黙に耐えられなかったのか、根本さんが口を開いた。
「はい。何と言うか……」
「私を振るためじゃないんですか?」
意表を突かれた。常日頃からポーカーフェイスを保とうとしている俺だが、驚きを隠せない。
「どうしてわかったんですか?」
「そりゃ、これだけアピールしてて気付かれないほうがおかしいでしょう?」
「まあそうですね」
「交際が許されない規則なのは理解しているつもりです。でももしかしたら大丈夫かもしれないって、ずっと思ってたんです。佐藤さんの口から、ちゃんと断ってください」
お膳立てを全部根本さんにやらせてしまった。本当に情けない男だ。
「わかりました」
「あなたのことが好きです。私と付き合ってください」
「……ごめんなさい。仕事上の規則で禁止されていますし、根本さんには恋愛というほど強い感情は抱いていません。ですから、付き合えません」
最後まで言い切った。
「……ありがとうございます。なんか吹っ切れました」
涙声でもなく、いつもの爽やかな声で言われた。彼女はトンネルの遊具のほうを振り向いた。
「もーとーなー! どっか遊びに行こっかー!」
「気付いてたんですか?」
「だって基奈とか燈梨がこんなイベント見逃すわけないでしょ?」
その口調はあいつに似ていた。友達なんだな、と再確認した。
「いつからわかってたん?」
「いま基奈が出てきたところから」
「ハッタリやったんかい」
俺の前では涙を見せなかった。「また明日から、仕事仲間としてよろしくお願いします」と言い残して、彼女は去っていった。




