第一話「それではまた始めましょう」
どうも、ご無沙汰しております。埼玉文化放送の佐藤雅二です。今は横須賀にいます。転勤からまもなく1年、2012年の4月を迎えました。今年のmoonは、ロンドンオリンピックと連動した活動を行う予定だそうで、忙しくも充実しています。一方の私たちは退屈なものです。大事件なんてそう起こりませんからね。
さて、今日はこの小さなオフィスが騒がし……もとい、賑やかになっております。彼女たちが来ているからです。私の同期である新田葵の机を中心にお菓子を食べています。本馬基奈さんの野球トークは今日も絶好調。残念ながら私があまり野球を知らないのですが、あの人、近代五種とかには興味ありませんかね?
根本葉月さんと新田は幼馴染です。そして新田と私が同期ということは彼女の年齢は……いや、やめておきましょう。しかしもうアラサーなのかあ。 辻燈梨さんの爆笑が、この賑やかさの主な原因です。あはははあははは、とずっと笑っていらっしゃいます。
志村鏡子さんからは生気が感じられませんが、大丈夫かな? 一応トークには参加しているようです。話の内容からして、巨人を応援されているようですね。そしてリーダーの唐魏野海さん。ここだけの話ですが、この前彼女は巨人が嫌いだと独り言を言っていました。テレビ局員としては人気球団のファンでいてくれたほうがありがたかったりするんですがね。
微笑ましい会話を聞くのは楽しいですし、私はドタバタするよりのんびりしたい性分なのですが、仕事がないのは手放しに喜べません。さいたまの局長にわがままを聞いてもらい、誠にありがたく横須賀に栄転させて頂いたのですが、まさか私と新田しか職員がいないとは思っておりませんでした。ああ、暇だ……。
「シュガー、ファックス届いた」
同期のあいつが俺を呼ぶ。俺は犬か。
「俺は犬じゃない。近いんだから取れよ」
「おや、私の塩まみれの手で精密機械を触れと?」
こいつ……。moonのメンバーも笑ってるし。
結局、俺が取るはめに。女性6人で通路を塞がないでください。あるいはそこのお前が手を拭け。ファックスはさいたまからの連絡だった。埼玉県の地方局が横須賀に何の用だ?
そもそも東京の土地代が高すぎるなんて理由で横須賀に支社を作る本社の連中もどうかしてる、とか思いながら機械が吐き出した紙を見る。どうやら横浜国際総合競技場で行われる浦和レッズの試合に合わせて選手にインタビューをしてこい、という内容らしい。レッズのホームゲームまで待てば良いものを。
とにかく、本社の命令を無視するわけにもいかない。moonの活動費の一部も捻出しなければならないのだし。というわけで今日も新田と数少ないテレビ局員の仕事を始める。moonの5人が笑顔で応援してくれた。思えば、彼女たちもほぼ無名ではあるものの、アイドルなのだ。アイドルと同じ場所で仕事をしているというのは結構良い環境なのかもしれない。
そう、本当に、彼女たちは楽しそうな毎日だ。