朝目覚めるとパンツ、やはり俺のラブコメは始まってすらもいなかった
「起きなさいよ! 起き、なさい!!!」
朝っぱらから喧しい声が俺の脳味噌に響き渡る。何だ、まだ眠いぞ。
「起きなさいっていってるでしょうが!!!」
ドゴーン!
「ぐぼあ」
とんでもない苦痛が俺のおでこに襲いかかった。痛い。誰だよ朝っぱらからすやすやと眠っている男子高校生の安眠を妨げるキチガイは。
まあ当然、そんな頭のおかしい人間は俺の周りにはさほど居る訳ではなく、その上朝っぱらから俺の部屋に押し入ってくるとなると心当たりは一人しかいない。
どうせお前なんだろうなと思い目を開けると怜佳が鬼のような形相で俺の前に立っていた。
のならば良かったのだが目を開けた俺の視界に入ってきたのはしましまの布だった。昨今なんでもかっこよく言えばなんとかなると思っている頭のゆるい奴らならストライプと言い換えてもいい。
ていうか青と白の縞々パンツだった。今どきこんなパンツを履いている女子なんて二次元にもそうそう居ないぞ。
「~~~~~!!」
パンツ越しにでも分かる。怜佳がおそらく顔を真っ赤にして震えている。いや、待てパンツ越しってなんだ初めて聞いたぞそんな表現。はっはっは、朝っぱらからまた新しい表現をこの世に生み出してしまったぞ。凄くないか俺。新しい表現や単語を生み出す事には少し自信があるんだ、コピーライターなどやらせたら案外うまくいくかもしれない。
以上、現実逃避終わり。というかむしろこれから現実から諸手を振って俺は現実から笑顔で去っていくんだろうな、ピカピカ光る輪っかを頭の上に載せて。
「ば、ばば…………」
待て、そんなテンプレートな溜めは要らない。俺の現実逃避タイムは終わってしまってもう話す事はない。強いて言うのならば、いや本当は言いたくないのだが言わせてもらうと幼馴染のパンツはなかなかいい洗剤を使って洗っているようで結構良い匂いがする。いややっぱりこんな事言わなければ良かった、これじゃあまるで朝っぱらから幼馴染のスカートに頭突っ込んでくんかくんかしているおパンツマイスターではないか。不可抗力だっていうのに。おパンツマイスターってなんだ。
「ば……馬鹿あああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
ドゴーン!
ドゴドゴドゴーン!!
数分後、四発ほどの拳を受けてベッドの上を吹っ飛んだ俺の身体はベッドの上で正座させられていた。
つか痛い。マジ痛い。洒落にならないくらい痛い。怜佳さん、少しは手加減っていう素晴らしい単語を覚えたらどうですかね、なんなら英語でAllowanceでもいいですよ。
「アンタってほんとに犬よね。変態。朝っぱらから幼馴染のスカートの中に顔突っ込むなんてどんな変態よ」
どんな変態だと聞かれればおそらくおパンツマイスターに含まれる類の変態だろう。ってこんなことを言っている場合かよ。今のこの状況ならばむしろお前が幼馴染の頭をスカートの中に突っ込ませた変態だろう。こういう時に女は兎角にずるいよな。兎に角はないのだから女はみんなバニーガールの衣装で出歩くことを義務付けようか。そうすればスカートの中に顔を突っ込む哀れな人間が生まれることもないだろうからな。
「アンタ、また変な事考えてるでしょ……呆れるわ」
正解。さすが幼馴染。つかテレパスかよ。以心伝心という言葉から溢れるアットホームな感じに騙されてはいけないが以心伝心って普通にテレパスだよな。思考が読め合えるなんてどう考えても仲悪くなりそうなのに以心伝心って言葉はどうしてあんなに仲が良さそうな雰囲気を漂わせるのだろうか。
んで、怜佳は言葉を繋げる。
ここで「私たち異世界に来ちゃったのに」なんて言ってくれれば少しは俺の人生も面白くはなるのだろうが、当然そんなことになる確率がどれくらいあるかというと多分そんなにない訳で、怜佳は普通に「入学式でしょうが……」なんて事を言いながら俺がこれから着替えなければいけない事を考慮して部屋から出て行った。
「……せっかく、一生懸命勉強して悠と同じ高校入ったのにな……、あんないつも通りじゃ張り合いがないじゃない……」
扉越しに怜佳の声が聞こえる。おい、そこ扉越しに聞こえてるぞ。お前は同じ高校に入ってまで俺を殴りに来たのか、恐ろしい女だ。
張るのは手か、張り手なのか。それに小学生の時からずっと同じ学校に通って、またこれからもお前と同じように学校に通うとなって胸が高まる人間がどこに居るんだ。連れてこいよ。
いけない。流石にそろそろ着替えなければ遅刻してしまう。入学式の初日からジョキングなぞ流石にしたくないから早く着替えよう。