インタールード/ユメ
8 インタールード/ユメ
ーーー僕は夢を見ている。
過去の記憶だ。捏造かもしれない。しかし事実でもあるだろう。夢とはそのようなものだ。
実際にそれが起ったことの再現である必要性はなく、今、それを夢として体験していることに意味がある。少なくとも、僕はそう思っている。
僕と友人は二人の秘密基地に着いた。
数年前に廃業した工場跡。
売りに出されているものの、特に買い手も見つからず、放置され続けている場所。
住宅街や商店街から離れた立地は、僕らが秘密基地として遊び場にするのには十分な環境だった。
それは僕の友人が偶然、その廃工場の鍵を手に入れたことから始まった。何気なくひっくり返してみた植木鉢の下に隠されていたその鍵を、彼はいつも肌身離さず持ち歩いていた。
今、その鍵を使って廃工場へ入っていく。
中は工作機械などが既に撤去されていて、がらんどうだ。屋根には何故か大きな穴が開いており、そこから太陽の光が差し込んでいる。
僕と友人は、そのひだまりの中に入っていき、〈燃焼実験〉を始める。
ノートの切れ端から給食のパンのクズ、買ってきた駄菓子やその袋などを虫眼鏡を使ってジリジリと焼いていく。
何度も何度も、僕はその夢を見た。
色々なものを燃やし、その焼け焦げてく様を見る………僕と友人は燃焼させることそのものよりも立ち上がる炎それ自体にどんどん魅力を感じるようになっていった。
ーーー別の日の夢。
僕達の炎に対する憧憬はどんどん高まっていき、やがて、工場内に転がっていた木片を集めて、一斗缶に放り込んで小さな焚き火をするようになった。当然、もはや虫眼鏡で着火するのは難しい。
僕の友人はマッチを持ってくるようになった。一方僕は、父親のライターを持ってくるようになった。ピカピカに光るそれは、彼の友人の気を引いた。
「なあ、それ、いつか俺にくれよ」
「ダメに決まってんじゃんよ」
そんな、いつものやりとり。
僕はそれが誇らしかった。常に自分を引っ張っている友人に、唯一優るものだと、そう思えたからだ。
一斗缶に予め集めてきた木片などを全て放りこみ、着火する。そして、轟々と燃える炎の中に、工場にほったらかしになっていた銅線を入れる。炎色反応によって得られた緑色の炎をうっとりとした目で眺めていた。
通常の、オレンジの炎とは違う、緑色の炎。神秘性を感じる。
特に、僕の友人は緑色が好きだった。虫眼鏡も緑色だ。それもあってか、僕以上にその緑色の炎に魅了されていた。
夢の中のその炎はどんどん大きくなる。その炎は天井にまで届かんばかりになり、その後、八つに別れて蛇のような動きをしながら工場全体を包んだ。その炎は僕や彼の友人を包む。
僕は恐れおののく。しかし、僕の友人は笑っている。いつの間にか、炎は一斗缶からではなくて、僕の友人の両の手から発せられていた。
その炎はより緑色を増して、どんどん大きくなり………。
そこで、僕は目が覚めた。うわあああっと大きな声を上げて。冷や汗でぐっしょりと体中が濡れていた。
つけっぱなしにしていたテレビからは相次ぐ放火・ボヤ事件の報道に熱心なリポーターのけたたましい声が聴こえる。
「アキラ………お前………なのか………?」
僕は旧友のことを思い出していた。炎に魅了された友人。
ーーーアキラのことを。
アキラは、僕にとってヒーローだった。何をするにも僕を引っ張っていってくれるリーダーだった。
とは言っても、僕たちは徒党を組むことはなかった。
たった二人だけの友達。
僕もアキラも爪弾きものだった。
僕は特に学校に溶け込めなくて、浮いていた。
アキラもそうだったのかはわからないけど、アキラは僕の手をとって、一緒に遊ぼうと言ってくれた。
僕とアキラは親友だった。喧嘩もしたけど、すぐ仲直りしていつもどおりの日常に戻っていく。
喧嘩の理由は他愛もないことだ。
一番他愛もないことは〈僕のひょこひょこ歩き〉を、おどけた調子でアキラが真似て僕に見せるところだった。
僕は自分のその癖が嫌いだった。だから怒った。
するとアキラはごめんごめんと言って笑った。
そして、アキラは、いっときはそれをやめるのだけど、時折僕のそれを真似て戯けてみせた。
そのたびに僕はアキラに抗議したものだ。
アキラに言わせると、
「なんか、真似してる内に、自分の癖になっちまったみたいなんだよ。」
そう言って笑った。
実際、そのようで、僕たちが廃工場へ全力疾走するときには、アキラの今までの走るフォームは流麗なものではなく、僕のような〈ひょこひょこ走り〉になっていた。
それでも僕は、アキラの足に追いつけなかったけれども。
そんなアキラも、とある不幸な事件があって、この街を離れてしまった。それ以来僕たちは、連絡先も知らず、ずっと疎遠のままだ。
何故、今になってアキラの夢を見るのだろう?
それも悪夢だ。
ーーーアキラ。
最近、市内で起きた放火死傷事件の犠牲者の名前も〈アキラ〉だ。
それが僕の記憶を呼び起こしたのだろうか?
アキラと言う名前。
そして………炎。
僕の、炎に魅了された友人。
思わず怖くなって逃げ出してしまった僕。
罪悪感が、僕を責め立てているのだろうか?




