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探偵助手、三上香里の憂鬱

 



   6    探偵助手、三上香里の憂鬱



「はあー………」

 アタシは自分の席に突っ伏して深い溜息をついた。

 通学途中でも、昨日のことを思い出すたびに何度もため息をついていたと思う。

 今、あらためて、自分の深い深—いため息に気づいたのは、机に突っ伏した姿勢でため息をついたから。

 自分の生暖かい息が机に反射して顔にむわっとかかる。木製の机だから、少し木の匂いもまじっていてなんか変な感じだ。梅雨だしなあ………湿度高いわあ………。

「おは〜カオリー。なになに?そんな朝から溜息ついちゃって、どったの?」

 友人の中西仁美だ。みんな、苗字の頭をとって〈ナカ〉って呼んでる。背の高い彼女がアタシを上から眺め、アタシの頭をぐしゃぐしゃとまさぐりながらそう言った。

「わわわ!頭をぐしゃぐしゃしないでよ〜せっかくセットしたのにー………」

「セットも何も、アンタいっつもひっつかみのポニーテールでしょ。そんな変わんないってーの。」

 ううう………まあ確かにそうなんだけども。いや、ひっつかみじゃねえぞ。ちゃんと角度とか気にしてセットしてんだよう………まあ仁美に頭をぐしゃぐしゃされるのは好きなので言葉とは裏腹なんだけど。………マゾか?アタシ………?

「いやー………ちょっとめんどい事がね………」

 と、アタシがナカに事情を話そうとすると、

「ヤッホー!おっはよーう。うえーい、カオリちゃん元気ぃー?」

 と、雨宮夏子が声をかけてきた。通称、なっちゃん。バシンバシンとアタシの背中を叩いてくる。

 あたたたた。元気じゃないです。はい。面倒事をアラッチに押し付けられて困ってますよ………。

「梅雨だけに湿気た顔してんなあー超ウケルんですけどー」

「いや。サムい。ウケねえよ。」

 おう、サムい。同意だ、ナカ。でもなっちゃんはひとりでケラケラ笑ってる。………なっちゃんのツボは相変わらずよくわからない………。

 そんなやり取りをしていると、いつの間にかいつものメンツが集まってきた。

 中西仁美と雨宮夏子。佐々木麻衣に棚町利奈だ。

 まあ、仲良しグループというかなんというか、悪友と言った方がいいかも。アタシがこの高校に来て、同じクラスになってからというものの、びっくりするくらいに急速に仲良くなったメンツだ。

 アタシの心のオアシス………と、言っても、アタシはこの中では弄られ役なんだけどね………。

    まあ、楽しいからいいんだけど。

「あー………その顔はアレか、生理か。カオリちゃん、今回は重いのか?ん?」

「ち・が・い・ま・す・!」

 てか、男子もいるんだからストレートに言わなくても!もーう。変なところであやういなあ利奈ちゃんは………。

「ああー……」

 利奈ちゃんはぐるりと回りを見渡した。ほら、言わんこっちゃない。男子たちがこっちを見てるよ。まあ、通常営業だってみんなわかってるけどねえ。

「あはは………ごめんごめん。」

 利奈ちゃんがそう言った後、麻衣ちゃんが話に入ってきた。

「じゃあなんなんでしょ?………アタシのオカルトセンサーによれば………ムムッ!来ましたッ!そう、カオリちゃんの探偵叔父さんの件ですな?でしょでしょ?」

 おおうッ!さすがオカルト研究部に入っている麻衣ちゃんだッ!勘が鋭いッ!そうそうそうなんよ、それが問題なんよー。

「いやいや、オカ研は関係ねえだろ。」

 と、なっちゃんがつっこんだ。そして、ナカが続けて言う。

「ってかカオリが大体このモードの時には探偵叔父さん関係の悩みで突っ伏してるんだからさあ………それ以外で凹んでいることなんてないんだから予想するのは簡単でしょ………オカルトセンサーなんて嘘っぱちやん?」

「あははー、バレたかー。」

 そう言って麻衣ちゃんはぺろっと舌を出して照れ笑いした。

 ああ、オカルトは関係なかったのか、ってかナカ………なにげにアタシにはほとんど悩みの種がないってディスってないかい?

「まあまあ兎に角、また捜査の話なんでしょ?ねえ?聞かせて聞かせてー?」

 むう………まあいいや。聞いてもらおうじゃあないの。

 というわけで、アタシは皆にアラッチから捜査依頼をされたことを話した。かくかくしかじか………。

「ふむふむ。なるほどー。カオリちゃんの探偵叔父さんは最近頻発している放火事件について捜査しているのねー。しかも、事件認定されていない謎の事件もあると。」

「炎の目撃証言があったのにも関わらず、調べてみたら何も燃えてなかったってどういうこと?カオリちゃんの持ってくる話はいっつも不思議だねえ………」

 おお!意外となっちゃんが食いついている。普段、人のことなんかどこ吹く風と言った感じの天然お姉さまなのに意外だ………。利奈ちゃんもなっちゃんに続いて興味を示してくれてるー。 

「またオカルト事件ですかっ?高まるー!」

「いや、マイ………ホント好きね………」

 テンション高めの麻衣ちゃんとテンション低めのナカも相変わらずだ。まあ、麻衣ちゃんはともかくとして、テンションがいっつも低いナカもなんのかんので毎回手伝ってくれるのでとてもありがたいわあ………。

    アノ、催促がなければなッ!

「で?カオリ?」

 ひいっ!早速ナカが切り出してきたッ!

「調査を手伝ってあげるのはやぶさかではないんだけど………アタシたちも暇じゃあないし、タダ働きってのもね。これはいかほどかなぁ〜?探偵叔父さんからバイト代が入るんでしょう?探偵助手だもんねぇ?」

 そう言ってナカは親指と人差指で円を作ってアタシに付き出してきた。

 そう、マニーです。お金です。報酬を要求されてます、アタシ。

 ナカがお金の指サインを出すと他のメンバーもこぞってアタシにお金の指サインをアタシに突き出してきた。ずずいずいずい!迫ってきよるで!

 ううっ!そんないじめるような目で見るなあ〜!ニヤニヤして、楽しんでいるだろーお前らー!

 ううっ、毎度のことながら辛い………。いや、まあ報酬は当然あってしかるべきだし、いいんだけど………。

「………えーっと………まあ、その………すんません、基本タダでお願いしやす………そのかわり、報告会を兼ねてカラオケに行くときは費用をアタシが全部持ちするからさあ………このとーりッ!お願いしまっす!」

 パンッ!っと両手を勢い良くあわせてアタシは頭を下げ、頼み込んだ。お願いしまっす!調査費を出したいのは山々なんだけど、ない袖は振れんのやあ!

「まったくもー。しょうがないなあ………何?まだ探偵叔父さんからの借金を返しきってないわけ?」

 あい。全くその通りです、ナカさん。

 アタシはアラッチに借りがある。そう、それは、アラッチの事務所兼住居のビルの一部屋に身を寄せて、すぐ起こしてしまった事件だ。


 何を隠そうアタシ、物を壊すのには定評がある。

 仕事の都合で、両親が二人共海外に行く事になったので、アタシはアラッチの元に身を寄せることになったんだけど(戸籍上、正確には叔父さんじゃあないんだけど、皆にはそういうことにしている。その辺はめんどくさいので割愛。とりあえず親戚ではあるし。アタシも細かいことは知らないし、ママもパパもアラッチもその辺は話してくれないしね)初めての一人暮らしってことでテンパってたのね、アタシ。その日は珍しくアラッチが仕事で忙しくて外出していたのもあって………。

 お風呂に入ってた時にね、なんか温度調整がうまくいかないなあって思ったの。

 それでね、アタシ、アラッチが帰って来るのを待って、アラッチに点検を頼めばよかったのに独りで勝手に外にある給湯器の本体の調子を見に行ったのね。

 入居した時に、アラッチから色々部屋の設備について説明を受けてたし………だから自分で何とかできるかなーって思ったんだけど………まったく何が悪いのか検討もつかなかった。そりゃー当たり前なんだけどさあ………専門家じゃないしー………。

 今思えば何をやってるんだ?って当時の自分にツッコミを入れたいくらいなんだけど、アタシ、ずーーーーーーっと給湯器の前でにらめっこしてたの………結構な長い時間そうしてたのね。でも全然わっかんないの。ボタンもいっぱいあってさ、メーターもなにがなんだかわかんなくってさ。

 で、だ。アタシ、ついに我慢ならなくなって………給湯器を叩いた。

 ーーーええ、叩きました。

 叩けば直ると思ったんです、すいません。

 アタシ、物を壊すには定評があるっていったけど、まあその、結構必死な状況というかパニックになると自分でもびっくりするくらいの馬鹿力がでるのね。

 それでまあ………

 結果、給 湯 器 は 壊 れ ま し た 。

 アタシ、それでまたパニックになっちゃってワーッワーッ!ってなってたら下から、

「なんじゃこりゃああああああああああああああッ!」

 って、声がしたの。アラッチの声。

 何故悲鳴なのか?ってことには全然頭が回らなくて。兎に角アタシは、アラッチが帰ってきた!これで助かる!泣きつける!って思って急いで階段を降りてアラッチの部屋に行ったの。で、玄関を開けたら………。

 ーーー水浸し。

 フロア一面水浸しです、はい………。

 雨漏り?天井が濡れているよ?あれ?アラッチの部屋の上って三階のアタシの部屋だよね?あれ………?

 そうです。不肖、三上香里。お風呂の蛇口を閉め忘れたまま給湯器を見に行ってました。

 わなわなと震えるアラッチ、壊れた給湯器、そして水浸しになったアタシの部屋とアラッチの部屋………そしてボー然と立ちすくむ戦犯のアタシ………。

「カーオーリー………」

 ギ・ギ・ギとコマ送りのようにこちらを振り向くアラッチ。相当怒ってる。すっごく我慢してるけど相当怒ってる………。

「あ、あはははー。いやー、おっかしいなあ?何が起きたんでしょうね?あはははー………」

「………白を切るな………こんのやろう………ああ、どんだけ修繕費が………はあ………」

「いやー、うっかりうっかり。ごめんね!アラッチ!」

「ごめんで済んだらケーサツもタンテーもいらねえー!」

 デスヨネー。でも警察は関係ないんじゃあないかな?探偵は、うん。アラッチだね。民事は基本探偵ですよね。はい………。

「うがあ!預かりモンのアンティークの本棚が!本もヤバイかも知れねえ!どやされる!ちゃちゃっと直してもらわねば!んがー!被害甚大!臨時出費大莫大!んがー!」

 そう言ってアラッチは頭を抱えて壊れちゃった。やべ、アンティークの本棚とか。たっかいんじゃね?部屋の修繕費より高く付くんじゃね………?

「ううう………部屋の被害はともかく、こいつは………ううう………」

 おうふ。やっぱり相当高いのか………やっちまった………

「あは、あは、あはははははははは………」

 アタシはもうただただ、あは、あはははってヘナヘナと笑うしかなかったよね………。

「………らけ………」

 はい?なんかぼそぼそアラッチが言ってるよ?

「………働け………働いて金を捻出しろ………きっちり弁済しろ………」

「えっ?あー………いやいやいや。悪いとは思ってますけど、その、アタシの行く高校はバイトには厳しいんで無理かと………?」

 若干嘘ついた。そこまで厳しくはないはず。ってかバイトするつもりだったし。お小遣い欲しいもん。パパとママからもらってる生活費はアラッチが管理してるから、あんまり自由に使えないしね。

「ああん?じゃあどうすんだ?オメエの保護者であるミサトさんに言って弁済してもらう手もあるっちゃああるが………」

 ひいっ!いや、アラッチさん。それだけは勘弁を!ママは普段はすっごく優しいんだけど、怒るととすっごく怖いんだよぅ!

「それだけは!それだけはご勘弁を!ママには言わないで下さいお願いしますまじでまじでまじで!」

 もうアタシは両の手をパンっと合わせてひたすらお願い!それだけは!それだけは!アタシの不始末とはいえ怒られるのこわいよー!うわーん!

「………まあ、ミサトさんに余計な負担をかけるのは、身元保証人を引き受けた俺としても避けたいところだ。で、お前には弁済の意思はあると見受ける………なくても弁済させるけどな………」

 あい。弁済の意思はあるです、はい。でもいいバイトがすぐに見つかるかわかんないんだよねえ………すぐにってわけには中々………。

「………仕方ねえ。今日から俺がお前を雇う。〈探偵助手〉としてこき使ってやる。学校にもミサトさんにもそういう体裁にしといてやる。そうすりゃ万事問題解決だ。」

「たっ、探偵助手ですか!?ええー!?無理っすよ!ムリムリムリ!」

 アラッチの仕事って刑事事件もあるんでしょー?それくらいは聞いてるよ!危険じゃーん!あっ、でもちょっとワクワクしたのは内緒。

「無理でもなんでも〈やれ〉。お前に拒否権はない。ちゃんと雇用契約も交わしてやる。この件がなくてもどうせ遊ぶ金ほしさにバイトするつもりだったんだろ?探偵の眼はごまかせねえぞ。」

 うぐっ!心の内を読まれてた!探偵の名は伊達じゃあないのか………。

「俺は優しい人間だからな。全額取り上げたりもしねえよ。ちびちび差っ引く形にしといてやる。多少の自由になる金はやるよ。青春を楽しめ少女よ。その権利は取り上げないでおいてやる。」

 えっ、あっ、お金、全部返済に充てなくていいの?なんか、意外と好待遇なバイトゲット?いやいやいやいや。そもそもアタシがヘマしなければー!あああー!

「あと、ミサトさんの娘であることに感謝しろ。それがなかったら馬車馬のごとく使う所存だったぞ。」

「ううっ………はい。わかりました。探偵助手として働いて弁済するです、はい………。」

 そんなわけで、アタシは入居早々アラッチの下で探偵助手として働くことで、諸々の損害にかかったお金を返すことになったのでした………。


 いや、もうなんというか………なんなんだろうね、アタシ………。ビショビショになった自分の部屋のフローリングを雑巾でふきふきしつつ、はあ、と溜息ついたよ………。

 前略、外国のパパ、ママ。色々あったけどアタシは元気です………。借金返済のために探偵の真似事をしたり友達に弄られまくったりしてますが………。ってか、アラッチ。「俺は優しい人間だ」って言ってたけど、それよっか、ただ単にウチのママに嫌われたくない一心というか、迷惑を掛けたくない一心というかソッチのほうが大きかったんじゃあ………?

 ああっ!まだウチのママを狙ってるのかー!気持ち悪いぞ!諦めろ!んもう!なんでアタシのママを未だに諦められず、ズルズルズルズル引きずってる男の下で働かないといけないんじゃー!なんか腹立ってきた!んがー!アタシ不幸じゃん!なんかいいように使われてるんじゃね?探偵業務の補佐もそうだけど、ママに近づく口実というかラインとして扱われてるんじゃねー?アタシの身元引受人を引き受けたのもその下心があったからじゃねえのかー!今気づいたー!遅いわー!ああー!


「ああ、アタシってば、なんて薄幸少女!」

 思わずアタシは声に出して頭を抱えて机に突っ伏した。いやあ、自業自得とはわかってはいるんだけど………うあーん!

 机に突っ伏すアタシを見る皆の目線が生暖かいぜ。見えなくても背中で感じるぜ………。楽しんでやがるな、この悪友共め!

「薄幸少女て。カオリちん、やっぱおもしろいわー」

 なっちゃんが一人ケラケラ笑ってる。うう、笑うがいいさ!あふん。

 そんなこんなでワイワイやってると、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。少し遅れて、ガラッと扉を開いて、担任の松来先生が入ってきた。通称、マッキーだ。

「はぁ〜い。皆席についてぇ〜。ホームルームを始めますよぉ〜」

 柔らかだけどよく通る丸い声が教室に響いた。

「おー、今日はあんま遅れなかったな、マッキー。んじゃあ、カオリ。また後でねー。」

 そう言って、ナカ達は自分の机に戻っていった。

 マッキーが名前を読み上げて、出席をとる中、アタシは考える。

 噂を集めるってのは、毎度アラッチから言われることだけど、ホントにこんなのが役に立ってるのかねえ?しかもオカルトじみたものほど欲しいってなんだそれ………まあ、麻衣ちゃんが言うようにオカルトじみた事件だし、アオイさんもなんか〈ケースエックス〉とかよくわからないこと言ってたし………てか、アオイさん。警察なのに何でオカルト事件を捜査してるんだろう………いや、そんな変な事件だからこそアラッチに仕事振ってるのかなあ?専属契約してるし、形だけでもなんか仕事を振るとか大人の事情?アオイさんからアラッチへの施し?いや、アラッチがアオイさんの弱みを握っていて、仕事を振らせているとか?アラッチが気まぐれに適当な仕事っぽいものをでっち上げさせてるとか?

「………さ~ん?」

 ーーー怪しい。アラッチならやりかねない。なんかそんな気がする。二人は幼馴染だっけな………弱み握ってそうだ。以下、アタシの推測。小さい頃にアオイさんの弱みを握ったアラッチは大人になって冴えない探偵となって困っていた。そんなところにかつての幼馴染のアオイさんが警察キャリアというエリートとしてやってきた。冴えない探偵のアラッチは、ここぞとばかりに、アオイさんを強請って専属契約を結ばせてタカっているって構図。

 ………あくどいな、アラッチ。推測があたってたらだけども………いや、そういえば、アタシ、ママからアラッチに渡されてる生活費の額は知らない。つか知らされてない。意図的に?もしかして、アタシのバイト代もあたしのママから預かった生活費から出してるんじゃね?んで、アタシにこんなことさせてるのは厄介払いのためなんじゃね?実際、アタシ、好奇心が強いほうだからグイグイツッコむタイプだし。トラブルメーカーなのは自覚してるし(水浸し事件以外にも………ゲフンゲフン………)アラッチもソレわかってて、変にアタシに事態をかき回されまいとして適当な仕事をアタシに………。

「………ミカミさ~ん?」

 うわあ!ありうる!ありうるぞ!つかアタシ、そこまで大人の事情につっこもうなんて思ってないですし!探偵助手に任命したのはアラッチですし!アタシ!不承不承やってるだけですし!はっ!また気づいた!バイト代と別途調査費を貰うことで、アタシ、共犯関係にさせられてる!なんてこと!あくどい!アラッチ!あくどい!最初から探偵助手にするつもりだったんだろう。共犯関係にしちゃうために!うう!くそう!やっぱりアタシ、薄幸少女なんじゃね?そりゃ、思わず心の声も外に出ちゃうわけですよ!ああなんか腹立ってきてテンションマックス臨界点突破しそうだ!

「ミカミさ~ん?ミカミカオリさ〜ん?」

「はいっ!」

 テンションマックス時に、不意に名前を呼ばれて、アタシは勢い良く返事をした。普段の点呼の数十倍の音量で。しかも、ガタッと音を立てて席を立ちながら。うあーい、やっちまったーい………。

「ミカミさ〜ん?元気がいいのはとってもいいことだけどぉ、お返事だけで席は立たなくてもいいですからねぇ〜?」

 首を傾げ、ニッコリと、マッキーが微笑みを返してきた。ああ、呆れられてる。目が笑ってねえー………。後でなんか言われそうだ……あはは………周りの子もクスクス言ってる。ナカはニヤニヤしてるし、なっちゃんは腹パンしながら笑いをこらえてる………。

 うう、恥ずかしい………。アタシは顔面から火が出そうだよ………。放火事件だけに。いや、うまくねえ………。つか、でも放火事件の捜査を押し付けたアラッチが悪い。うん。そうに違いない。やっぱアタシ、薄幸少女………。

 ………いや、自業自得か。てへぺろ☆。なんつって。

 ーーーいや、すまねえか。はあ………。

 アタシは深い溜息をついて、着席し、ガックシうなだれた。まあ、アラッチの陰謀云々はアタシの妄想の行き過ぎだろう………反省。アオイさんとの様子も変なところはないし、何より、アタシのママに不義理なことはしないでしょうしね………。ふう、荒ぶりすぎた。しかし、なんか厄介払いされてる感は否めない。探偵助手なのに変な噂集めるだけの仕事なんて………。

 うん、決めた。アタシは自分自身に対し、静かに、決意表明をする。

(この事件にとことんツッコんでやる。厄介だなんて思わせないんだから。有能な探偵助手だって証明してやる。もう意地だね。女子高生ネットワーク舐めんなよー。アラッチ見てろよー。アタシ、事件解決の為に大成果あげちゃうんだから!)

 転んでもただじゃあ起きないぞ、アタシは。大成果上げて、アラッチの鼻を明かして、生活費の詳細や、アタシの助手としての仕事の意味とか、色々今まで気になってたこと聞いちゃうんだからね!あと昇給と特別ボーナスも要求だッ!そのために頑張っちゃうんだからッ!


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