ザンシ
エピローグ ザンシ
記憶が無い。今の今まで自分がしてきたことが。
今の今まで、自分は何をしてきたのだろうか?
僕は、相次ぐ火災に苛まされて不眠となり、近所を徘徊していた。
そこを警察に保護された。焼けた住宅に居た。何故そこに居たのか思い出せなかった。
僕は、住居侵入のかどにより、任意取調を受け、微罪処分となった。
僕は警察署を後にする。ポケットに手を入れる。コツンと当たるものがあった。
取り出してみると、それは僕の父親のライターだった。
僕はタバコを吸わない。なのに何故持ち歩いているのだろう?
僕自身、それを不思議に思った。
キン、となにかが脳裏によぎる。が、何も思い出せない。
何かを忘れている気が。それも大切な、何かを。
カキン、とライターの上蓋を開け、フリントを擦る。
ジッジッジッ。
何度も繰り返す。
ジッジッジッ。
ジッジッジッ、ジッジッジッ。
ジッジッジッ、ジッジッジッ、ジッジッジッ。
と、そんな僕の前に人が現れた。僕と同じ年の頃だろうか?
その人には見覚えがなかった。だけども彼は僕の名前を呼んだ。
人違いじゃないか?と僕が言うと、彼は苦笑いをして「そうかもしれない」と言った。
彼は、煙草の火を貸してくれと言った。
僕は、手で弄んでいたライターを着火し、火をわけてあげた。
彼は、満足そうに煙草を吸い、煙を肺から吐くと、ポケットから虫眼鏡を取り出した。
お礼だといい、僕にそれを渡した。
古びた、緑色の枠の虫眼鏡だ。ところどころプラスチックは白化し、レンズも曇っている。
こんなもの、いらないと僕は思ったけれども、何故か受け取ってしまった。
そして、何故だかわからないけれども、僕はライターを彼にあげることにした。
その提案に、彼はびっくりした様子だったけれども、受け取ってくれた。
とても、嬉しそうだった。
そして、彼は去った。
僕は、彼からもらった虫眼鏡を手で弄んだ。
手のひらにレンズの焦点があうと、ちりちりと熱を感じた
ーーー何故だか、涙がついと頬を伝った。
〈Case:X パイロキネシスの残滓〉
了




