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湊葵と天音佳奈




   9   湊葵と天音佳奈



 湊葵は、荒井総二への事件捜査依頼を終えると、すぐさま車を走らせ、署に向かった。署内の地下駐車場に入り、天音佳奈に到着を告げる電話をかけようとしたその瞬間、ちょうどそのタイミングを見計らったかのように、天音佳奈が車両玄関から出てきた。

 彼女は湊葵の車を見つけると、遠目から見てもはっきり見えるように口の端を引き、にこりと微笑み、軽く会釈した。その様子を見て、湊葵も少し笑い、天音佳奈の近くで車を停める。

 天音佳奈は軽い足取りで車に近づき、

「いやー、ナイスタイミングですよー、アオイさん。ちょうど署内から出てきた時に遭遇するなんて、待つ時間が節約できてサイコーですよ♪」

 と言い、にっこりと微笑んだ。

「タイミングを合わせたのはアマネ、オマエの方だろう?相変わらずの能力だな。勘の域を超えている。」

 そう言って、湊葵はニヤリと笑った。

「いやいやいやいや。まあ確かにアタシの〈嘘憑き〉としての能力ではあるんですけどね。」

 まあそりゃあアオイさんはお見通しか、といった様子で照れ笑いをしながら続ける。

「まあ、こっちの能力についてはメインのあっちの能力よりも気まぐれでして。今回もたまたま予感がしたんですよ」

「それでも一般人からすればすごい精度さ。頼りにしてるぞ、アマネ。」

「いやいや、人工的〈嘘憑き〉の成功例とは言われているものの、古巣では〈出来損ない〉にカテゴライズされる劣等生ですからね………」

 そう言って、天音佳奈は先ほどとは打って変わって少しさびしい笑顔を見せた。車のボンネットに、つうっと指を這わせながらゆっくりと助手席の方に回り、ドアを開ける。着席し、一呼吸置き、

「………ホント、アオイさんが拾ってくれなければどうなっていたことか………」

 力なく、そう言った。

 普段は、これでもかというほど勢い良く閉める車のドアも、力ない様子でパタンと静かに閉められた。


     ◆

 

 天音佳奈は超能力者である。彼女は、とある超心理学研究機関の実験によって、後天的に超能力を得ることとなった。彼女のような存在は〈嘘憑き〉と呼ばれる。


 〈嘘憑き〉という存在は、文字通り〈嘘に取り憑かれた存在〉である。

 〈嘘憑き〉という呼称は、元々、〈シャーマン〉と呼ばれていた霊媒体質を持つ人間、すなわち巫女や神官といった存在のことを指している。彼らは何らかの霊的存在をその身に憑依させることで、神託を告げ、時には超常現象を起こした。それを現代的な超心理学の見地から定義し直したものが〈嘘憑き〉なのである。

 この場合における〈嘘〉とは、シャーマンがその体に憑依させる〈霊的存在〉のことを指し示している。超心理学研究機関は、その霊的存在を、

〈人々のこうであったらいいという願望がエネルギーを持ち、現実世界に影響を与え得るまでになったもの〉

 と定義した。呪術や宗教に見られる人格神、人格霊といった別次元、高次の存在としてではなく、あくまで、人間の力の一端として霊的存在と言われてきた超常的な事象を定義したのである。

 彼らによれば、超常現象は現実世界のものであるが、一般的で常識的な世界観からすれば〈嘘〉のような出来事であるということから、その呼称をするに至ったとのことだ。

 また、〈嘘〉という言葉は、それ自体にネガティブな面も存在していることを表している。前述した〈人々のこうであったらいいのにという願望〉には、〈その願望はどうあっても現実世界で叶うことはないだろう〉という願望に対する羨望、嫉妬、諦念といったものを含むと考えられる。この〈人々の悪意〉といったものにより焦点を合わせた言葉として〈澱〉という言葉も定義された。

 〈嘘〉を作り上げているエネルギーが、より負の面を持っているものを〈澱〉と呼称すると言い換えても良い。霊的存在を例えに持ってくるのであれば、前者は善意を持った霊であり、後者は悪霊とでも例えられようか?霊的存在の現出の仕方としての善の側面と悪の側面とも言い換えてもよいだろう。

 ーーー〈嘘〉と〈澱〉。

 このように呼称されるエネルギーが現実世界に影響を持つまでになるためには、条件がある。それは、そのエネルギーが分散してしまわないように収束させる〈何か〉があることが条件とされる。

 超心理学研究機関はその〈何か〉を〈レンズ〉と呼称し、それがもたらす効果を〈レンズ効果〉と名付けた。レンズとなりうるものの代表的なものとして、〈土地〉がある。

 例えば、昔から寺社によって清められ信仰を集めていた霊験あらたかな土地が第一にあげられる。このような土地では、古来よりシャーマンが霊的存在と交信し、その地を清め、治めてきたという歴史がある。例えば、名護屋市周辺においては、荒神家がそのような役割を果たしている家系として挙げられる。

 こういった土地では、〈奇跡〉や〈呪い〉といったものが極当たり前に人々の心の中に存在してきたわけであるから、人々の願望がエネルギーを持ったものと定義される〈嘘〉や〈澱〉といったものが成立しやすいと考えられるからだ。

 事実、天音佳奈を研究していた研究所によれば、そうした〈霊験あらたかな土地〉での〈澱〉の発生率は高いとの調査結果が出ている。また、このような歴史的に霊験あらたかな土地でなくてもレンズ効果を有することもある。それは、過去に悲惨な事件が起きた土地である。あり大抵に言ってしまえば、殺人が起こった土地が代表例として挙げられる。

 いわゆる死者の〈地縛霊〉や〈残留思念〉といったものが強く霊的エネルギーとしてこの世に現存している土地とでも言えようか?このような土地は、先述した〈霊験あらたかな土地〉と違って、その影響力を及ぼすことができる土地の範囲は極めて小さいものであるといえるだろう。例えば、殺人事件が起きた場所とその関連事象が起こった場所といったところだろうか?研究機関によれば、その範囲は現在のところ、最大でも集合住宅が立つ程度の広さであると考えられている。


 〈嘘憑き〉に話を戻そう。

 〈嘘憑き〉の研究は、人工的に後天的に超能力者を作ろうとする研究である。彼らは、古来のシャーマンという存在を先天的な超能力者であると考えた。そして、彼らを超能力者たらしめる存在ーーー霊的存在ーーーを制御可能なものとするために〈嘘〉、〈澱〉といった言葉で再定義し、それを人工的に作成した〈レンズ〉を用いて人間に超能力を後天的に付与しようと考えたのである。

 それは、〈嘘〉と〈澱〉を従来の不動である土地ではなく、人間そのものをレンズへと変化させることにより、可搬可能にし、且つ制御できるように仕立てあげようという研究であった。

 この場合の〈嘘〉や〈澱〉は、それを引き受ける人間にとっては〈呪い〉のようなものである。それによって被験者は超能力を得ることとなる。それは、まるで、古来に悪魔と契約し、死後の魂を捧げる代償に超能力を得た、いわゆる〈悪魔憑き〉のようなものと言える。

 それ故に被験者たちは〈嘘〉に憑かれた者として、〈嘘憑き〉と呼ばれるのだ。

 彼らの研究は未だ発展途中である。色々と超常的な事象を定義したのは良いものの、未だ未知の領域がある研究である。そんな中、人工的に作られた超能力者〈嘘憑き〉の数少ない成功例が天音佳奈という存在なのだ。

 とは言え、完璧な〈嘘憑き〉の生成を目的とする組織からすれば、彼女は成功例と言っても、その能力の発動における不安定さから〈出来損ない〉と言われていたのであるが。

 彼女を輩出した研究所は、〈出来損ない〉の彼女の今後の取扱いに悩みつつも、しばしの間、養育していた。しかしながら、研究所はある時突然、彼女を置いて姿をくらませてしまった。今後、研究所の保護もなしにどうやって生きればよいのか狼狽していた彼女を保護したのが湊葵だった。新しく発足する部署である〈特殊犯罪課〉の基幹要員として目をつけたのだ。

 天音佳奈はこの湊葵のスカウトに感謝している。研究所に居たままでは、ずっと〈出来損ない〉として扱われていただろう。一応の成功例として、優遇され、教育も受けさせてもらえてはいたが、〈出来損ない〉であることは、彼女にとっては耐えられないこととしてずっと抱え込んでいた問題だったからだ。


     ◆


「本当に………本当にアオイさんには感謝してもしきれないんです。〈出来損ない〉のアタシが誰かのお役に立てるなんて思ってもいませんでしたから………」

 俯き、固く組んだ手をじっと見つめながら、天音佳奈は一言一言、噛み締めるように言った。普段は陽気な振る舞いをしている彼女がこういった面を見せるのは、湊葵の前だけだ。数少ない心を許せる存在なのだ。

 そんな彼女を見て、湊葵はまっすぐ天音佳奈の目を見て言う。

「〈出来損ない〉だなんて、私は思っちゃあいないよ。アマネ、オマエはとても有能な人間だ。他の普通の人間ではできないことができる。あの研究所の連中がオマエをどのように思っていたか、お前自身がどう自分のことを思っていたのかは、私には言及できる事柄ではない。ただ、一つだけ確かなことは、今現在、私はアマネを必要としているということだ。特殊犯罪に対処するためにはオマエの能力が不可欠だ。〈出来損ない〉だなんて言わずに自信を持て。」

「そう………ですね。はい。すみません、ちょっとネガティブモードに入っちゃいました………アタシにしかできないことがあるんですよね。アオイさんのやりたいこと………特殊犯罪に対処するために。」

 天音佳奈はそう言いながら湊葵の目をじっと見た。湊葵もじっと見つめ返す。

(でも………)

 天音佳奈は思う。

(アオイさんがアタシを必要としてくれているのは特殊犯罪を解決するための端緒として〈アタシの能力〉が必要なだけであって、アタシ自身のことは必要としてくれてないのかもなあ………)

 湊葵が天音佳奈のことをどう思っているのかはわからない。天音佳奈が思うように、ただ単に彼女の能力のみを必要としているだけなのかもしれない。決して、湊葵は自分の目標を達成したいがために他人を道具として利用する心の持ち主ではないことを天音佳奈は短い付き合いではあるがわかっている。

 だからこそ、今でも一緒にいるのであるが………それでも、〈もしかしたら〉という不安はなかなか拭えない。しかし………それでも………。

(例え、うまく利用されているだけであったとしても、それでもアタシはこの人を信じてついて行こう。アタシに新しい居場所を与えてくれたことには変わりはないのだから、アタシはこの人に尽くそう。)

 天音佳奈はそう決意した。何があっても、どう思われていたとしても、この人について行こうと。そう、思った。


     ◆


 天音佳奈の出自の子細は不明である。

 幼少時に、孤児院から研究所が引き取ったという事しかわからない。そもそも、今、彼女が名乗っている名前も研究所が彼女に与えたものだ。本当の名前は戸籍ごとどこかに消え去ってしまった。〈嘘憑き〉研究の被験者の多くも彼女と同じような境遇である。

     どこからともなく連れてこられ、過去を抹消された存在。

 容易に被験者の過去の痕跡を消してしまえるという事実は、研究所の仄暗い側面を表している。また、同時に、その研究の成果を心待ちにしている者たちの権力の強さを表している。それは、被験者たちが〈用済み〉であると判断されれば、いとも簡単にこの世から生きた痕跡を消すことができるということも同時に表していた。

 そんな状況の中、天音佳奈は生きて行かなければならなかった。

 彼女は努力した。生きるために。研究所の者に〈用済み〉だと思われないように。

 様々な人体実験を受けた。その中には苦痛を強いられるものもあった。だが彼女は耐えた。生きるために。研究所の期待に応えることで自らの身の安全を確保した。

 能力を得るまでは、周りが期待してくれた。だから頑張ることができた。周りの期待に応えること。それが彼女の生きる意味だったのだ。

 しかし、不安定な能力を得てしまった途端に彼女を取り巻く状況は一変してしまった。


 彼女が得た超能力は二つある。

 ひとつは、〈後行事象感知能力〉と命名されたものである。

 超能力を扱う学問である超心理学の見地からすれば、その能力は予知能力プレコグニションに近いものと言えるだろうか。彼女の場合は、完全に未来が予知できるわけでもなく、未来に起きる事象をビジョンとして見ることができるというわけではない。

 そのため、あくまで予知能力に近いものとしか形容できない。彼女によると、

「なんとなく、ぼんやりとした感覚ではあるのだけど、自分が強く心に思っている事柄に対して関連する事象を感知できたり、その事象が将来的に起こる時間がわかることもある」

能力なのだそうだ。

 より簡単に言ってしまえば人並み外れた的中率を誇る〈勘〉だとも彼女は言っている。

 この能力は発動がマチマチであり、先述した予知能力〈プレコグニション〉にはるかに劣るものとだと研究所は判断した。しかし、先ほどのように、湊葵の到着時間を当ててみせたり、捜査している事件が特殊犯罪に関わるものであるかを判断することができる。

 特に、後者の能力は、今回、担当することとなった放火死傷事件と頻発する放火事件(未遂も含む)が関連しており、尚且つ、〈特殊犯罪〉が関わる可能性を見出したという点で、特殊犯罪課にとって有益な結果を出している。

 もうひとつの能力は〈サイコメトリー能力〉である。物体に触れることで、そこに残る強く焼き付けられた記憶   〈残留思念〉   を読み取ることができる能力である。犯罪現場において、その能力は、ともすれば、犯人の姿を捉えることができうるのであるが、彼女の能力の場合は、それも難しい。彼女のサイコメトリー能力は犯罪現場においては必ずと言っていいほど犯人目線の残留思念しか読み取れないのである。

 〈殺意〉という残留思念の読み取りに特化したサイコメトリー能力とも言えないことはないのだが、犯人の目線でしか記憶を読み取れない都合上、何が起きたのかを知ることはできるが、肝心の犯人の顔はわからずじまいといった体である。

 勿論、サイコメトリー能力によって得られた情報は裁判において証拠にならないのではあるが。

 しかしながら、彼女はこの半端なサイコメトリー能力と後行事象感知能力を組み合わせて使用することで、単独の完成された予知能力とサイコメトリー能力とは違う独自の能力を生み出した。

 それは、物体に触れることで、そこで起きた出来事に関連する情報を読み取るという能力である。通常のサイコメトリー能力は、その現場に残った残留思念、すなわちその場で起きた事象しか読み取ることができない。しかし、彼女は、後行事象感知能力と併用することで、その場で起こっていないことではあるが、その場で起こったことに今後関係するであろう事象を読み取れるというものである。

 加えて、その読み取った残留思念に関わりの深い事象をキーワードと言う形で読み取れるといった能力も備えていることから、通常の犯罪のように線を辿っていけない特殊犯罪の捜査において、役に立つこととなった。彼女はそれを〈未来の記憶〜アンスタビライズド・シード〜〉と名づけた。


 研究所での実験により、このような能力を得た彼女は(とはいえ、二つの能力を併用した能力が開花したのは湊葵に引きぬかれたあとであるのだが)一応の成功例ではあるため、〈用済み〉として〈処分〉されることはなかったが、彼女は誰かに〈期待〉されることがなくなってしまった。

    誰にも〈期待〉されることのない〈出来損ない〉の彼女。

 研究所の中で、〈処分〉から逃れるために、生き残るために努力をしてきた彼女は、いつの間にか、研究所から〈期待〉をされるということが生きがいとなっていた。それが、中途半端な能力を得てしまった結果、なくなってしまった。

 〈出来損ない〉ではあったが、成功例ではあるため、人並みの生活はさせてもらっていた。学校にも通わせてもらっていた。用済みとしてどこかへ〈処分〉されてしまった者達と比べれば、かなりの好待遇であった。

 しかし、それによって彼女は一般世界では決して満たされることのない心を抱えることとなった。友人ができても、研究所での出来事を話すことは当然できない。そして、〈出来損ない〉にすらなれず、どこかに〈処分〉されてしまった仲間たちへの罪悪感………。それが彼女を常に悩ませていた。

    自分は〈出来損ない〉なのにこんなに恵まれた生活をさせてもらっている。出来損ないなのに、出来損ないなのに………。他の〈処分〉された仲間はどこへ?行き先さえわからない。わかるはずもない。   人生のすべてを研究所に支配されているのだから。

 彼女は研究所を憎んでいた。自らを縛る存在を。いつか自由になるんだ。〈出来損ない〉の自分だけど、今ここで生きている。そして、人にはない能力がある。いつかそれを使って研究所に復讐してやる。そう思って生きていた。研究所から〈期待〉されなくなった今、それが彼女の新たな生きる目的となっていた。

 しかし、研究所は突然、姿を消した。忽然と、彼女の前から居なくなってしまった。何が起きたのかはわからない。自分を縛っていた、憎むべき研究所があっけなく、彼女の前からいなくなってしまったのだ。

 彼女は動揺した。自分の、このやり場のない気持ちはどこにぶつけたらいいのだろうか?そう思った瞬間、同時にあることに気づいて彼女は戦慄した。研究所に対する憎しみと同時に、研究所への帰属意識があることに気づいたのだ。彼女は研究所を憎んでいる。しかし、同時にそこへの帰属意識も持っていたのだ。研究所は自らを縛る存在であると同時に彼女を庇護してくれる唯一の寄る辺だったのだ。

 彼女はまだ、研究所に〈期待〉されようと心のどこかで思っていたのだ。研究所が忽然と姿を消したことで、彼女は自分自身の中にあるその矛盾した心の持ち様に気づいたのだ。彼女は震えた。手の震えが止まらない。あんなに憎んでいたのに、〈出来損ない〉と烙印を押されたのに。まだ私は、研究所に期待される存在になれないかと心のどこかで思っていたなんて!

 結局、彼女の生きがいになりうるものは、研究所にしかなかったのだ。その研究所の〈期待〉に応え続けること。たったそれだけしかなかったのだ。

 それがなくなってしまった。誰にも期待されなくなった。それを自覚した瞬間、彼女は恐ろしくなってさらに震えた。自分の生きる意味がなくなってしまったのだ。

 そんな中、彼女の前に現れ、彼女に〈期待〉をし、必要としてくれる人間が現れた。

 これから先、どうやって生きていけばよいのかわからないまま、ただ、アパートの一室で震えていた所にその人間は現れた。

 ーーーそれが、湊葵だった。

 湊葵は、彼女を保護し、落ち着くまでずっとそばに居てくれた。ようやく彼女が落ち着くと、湊葵は、研究所が研究していた内容に関する犯罪について色々と調査をしていると話し始めた。その捜査過程で、彼女が住んでいる研究所名義のアパートを見つけたのだという。何か研究所について知っていることはないか?と湊葵は聞いた。

 彼女は思った。自分自身の能力を生かす場所はここにしかないと。湊葵が指揮する特殊犯罪課に属すれば、いずれ、その警察力を利用して、〈処分〉された仲間の行方や、研究所の行方も調べることができるかもしれない。彼女はそう思い、研究所について知っていることを全て話し、そして、自身の特殊能力を湊葵に見せ、利用して欲しいと願い出た。


    そして、今に至る。


(いつか必ず………仲間と研究所の行方を見つけるんだ。今アタシにできる最善のこと。それはこの特殊犯罪課で自らの能力を最大限に発揮し、認めてもらうことなんだ………絶対に、仲間と奴らの行方は探し出す。絶対に、絶対に。)

 車を運転する湊葵の横顔を見ながら、天音佳奈はそう思い、より一層、その気持ちを意識した。

 新しい生きる目的と生きる場所を見つけた彼女は、湊葵には感謝してもしきれないと思っている。例え、利用されているだけだとしても。どんなことがあろうとも湊葵に尽くそうと。

 それ故に彼女はそう決意したのだった。


 湊葵は、天音佳奈が落ち着き払ったのを見やると、シフトレバーを一速に入れ、車を発進させた。



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