プロローグ
マスターキーには抗えない のリライト版です。
プロローグ/ユメ
ーーー夢を見た。
まるっきり空想の出来事でなく、実際にあったことを元にした夢を。
空想に満ちた荒唐無稽な夢ならば、どんなに良かっただろうか?僕は夢にうなされながらそう思った。
過去に、現実に起きた出来事。
それを反芻し、反復し、何度も襲ってくる夢。
思い出したくもない出来事。
僕は走っていた。僕は誰かを追いかけている。いや、自分に先行している友人の背中についていっている。
友達だ。かつての友。今は疎遠になって連絡先も知らない友人だ。
景色が流れる。原色のマーブリング。歪み、うねる。
はっはっと息を切らしながら僕と友人は町中を駆けていく。歪んだ世界の住宅街を走りぬけ、商店街に出る。
僕と友人は駄菓子屋に寄って、しこたま駄菓子を仕入れる。クジも引いた。ちゃちな拳銃の玩具とスーパーボールが当たった。そしてそれをポケットに詰め込んで再び走り出していた。
僕の友人の足は速い。僕はなんとか追いつこうと必死だ。ひょこひょこと、過剰に体を上下しながら追いかけていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ!もう少し緩めてよ!ペース!」
息をぜいぜいと切らしながら僕は友人に話しかける。友人は少しペースを落とし、足踏みをしながら僕が追いつくのを待ち、
「だって!早く行かないと日が暮れっちまうじゃんよ!〈アレ〉をやるには早くなくっちゃ!」
そう言って、息も切れ切れな僕をまくしたて、ズボンの後ろポケットに突っ込んである虫眼鏡をさすった。プラスチックでできた緑色の握り手がのぞいている。
僕らの言う〈アレ〉とは、二人だけの秘密の遊びだ。
虫眼鏡を使って光を収束させることで、色々なものを燃やす遊び。
親に知られたら、危険であると注意され、虫眼鏡を没収されるかもしれない。だから、二人だけの秘密にしてきた。日が暮れてからでは炎が目立つ。故に、彼は急いでいる。
僕達は〈危険な遊び〉や〈燃焼実験〉などとそれを呼び、自分たちの秘密基地でそれを行った。
まるで何かの儀式めいたその遊びは僕らをときめかせた。色々なものが虫眼鏡によって収束された光によって焦げ、燃えていくさまをうっとりとした目で見つめる………。
それが、僕らの極上の楽しみだったのだ。
ある種の中毒のように、その行為に僕以上に魅了された友人は、早くその儀式を行いたくて仕方がない。だから常にフルスピードで行動する。
全力で行動すること。
そのことが儀式の意味を高めると思っているかのように。
「さあ、行こうぜ!十分休憩になったろ?秘密基地で早速儀式だ!」
そう言って走りだす友人の背中を、僕はひいひい言いながらひょこひょこと上体を振り、追っていった。
ーーーそんな、夢だった。