プロローグ
世界は魔力に満ちている。
魔力は水を生み、炎を生み、風を生み、雷を生み出す。
いつしか世界は魔力を行使する事が当たり前のように移り変わっていた。
この世に生を受けたものが分け隔てなく持ち、それが呼吸するかの如く、動作の一部となっている魔術。
人は魔術を操り、強大な力を持って世界に平和と安寧を築き上げた。
永劫続くと思われた長き平和。
幾千もの月日を重ねて築き上げた希望と幸福に満ちた世界は、一塊の闇に瞬く間に飲み込まれた。
『エクリプス』―――蝕む者。
多くの犠牲を払ってまで得た情報ですら、彼らの目的は明確にされていない。
どこから生まれたのか。何故人を襲うのか。すべてが彼らの容姿に共通するように、闇に包まれている。
唯一判明している事実は、彼らは地下世界から現れると言う事。
闇を、負の感情を喰らい、無尽蔵に成長する事。
そして何よりも重要な事は―――魔力が通じない事。
彼らは魔力を極限まで霧散させ、無力化する特性を持つ。
言わば人類の、世界の天敵。
これは、人類の存在を賭けた長い長い記録である。
光が世界を照らすのか、闇が世界を塗りつぶすのか。
物語が、今―――幕を開ける。
それは目を疑う光景だった。あり得ない。あってはならない現象。
人は誰しも魔力を持つ。それは例外なく、この世に生を受けたものが必ず持って生まれてくるものだ。
唯一魔力を持たない者がいるとすれば―――それは、敵。
白を黒に塗り潰す、何の感情も持たぬ異形の怪物。
『エクリプス』―――それは、人類の敵。人と似付かぬ風貌。まるで通じない意思。
まるでそれが生まれてきた意味だ、と語るように奴らは命を蝕む。
奴らに魔術は通じない。だがそれは、奴らの持つ特殊な力……『穢気』を下回る場合のみ。
穢気を上回る魔力の前では、光を蝕む闇と言えど忽ち灰燼に帰す。
奴らを屈服させる程の力を持てばいい。
そう信じて私は今日まで戦い抜いた。
―――だが、それはいとも簡単に打ち砕かれた。
「お前じゃ勝てねぇよ。少なくとも、作られたせめぇ『庭』の中で自惚れているようじゃな」
ふざけるな。私の何がわかると言うのだ。私の何を見てきたと言うのだ。
「じゃあお前に持たざる者の痛みが理解出来るのか? 世界の常識から爪弾きにされた、望んでもいない運命に放り込まれた孤独が理解出来るのか?」
何を言っている。何が言いたい。そんなものわかるはずが―――。
「そうだよな、それが世界だ。持つ者と持たざる者には、絶対に越えられない壁がある。その囲いを作ったのは誰だ? エクリプスか? 世界か?」
何を―――言って―――。
「良く見ておけ。これがお前ら人間が作った―――世界が生み出した歪み。お前ら人間を写す影なんだよ!」