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苦悩

・・・・・・・・・

 母さんは今の俺より若い頃から、俺を育てるために苦労をしてきた。

シングルマザーとしてたった独りで俺を育ててくれたんだ。産まれた時から父親はいなかったが母さんは溢れる愛情を俺に注いでくれた。


  何も知らない幼い頃、

「どうして僕ん家には他のお家の様にパパが居ないの?」そんなことを聞いたこともある。


母さんは、少し淋しそうに微笑んで、

「匠はパパが欲しいよね。でもね。パパはもう遠くに行っちゃって会えないんだ。

 ママだけじゃ駄目かな?ママだけじゃ頼りない?」

ギューっと抱き締めてくれた母さんの身体が心なしか震えているような気がして、パパの事を言っちゃママが悲しむ・・・・・幼心にそう感じた・・



「パパに会いに行こう!」

そう言ってアパートの裏山に登った。

街の灯りが遠くに見えるが、星空が美しく輝いている。


その中の一つの星を指して

「匠のパパ。彼処に匠吾さん居るわ。

いつも私達を見守ってくれてるのよ。いつも同じ場所からいつも同じ光で照らしてくれてる。」


俺を抱き上げ頬ずりしながら、母さんは愛しそうに遠くを見ていた。




 長野県松本市。

俺が高校まで住んでいた街。

 母さんは大学を卒業後、一年間高校の講師をし教諭になった。

幼い時から母さんは厳しかった。けれど父さんが居ないという寂しさは感じなかった。


 母さんは友達や教師仲間との付き合いを捨てて、俺といる時間を大切にしてくれたんだ。



中学時代には、息子だけの為に生きている母のことが煩く感じて反発したこともあった。

しかし、そんな時期はあっという間に過ぎ去り、高校の口の悪い友人達は俺をマザコンだと囃し立てたりもしたもんだ。


そのだび、俺は

「マザコンの何処が悪い。母親を大事に出来ない奴は最低だ。そんな奴に限って女を馬鹿にするんだ。」と反論した。


 

 

 大学を決めるに当たって地元の国立を目指すつもりだったが、母さんが都立の採用試験に受かった事で事情が変わってきた。其ならば俺も一緒に東京の大学を受けよう。そうすれば母さんを独りにしなくて済む。


そうして 俺はあの大学に合格し、母さんと一緒に東京に越してきた。


母さんにとって良い思い出ばかりがある街ではないはずだ。 けれど、母さんは決断したんだ。

多分、それは俺の為だと思う。



 俺の友人達は、殆んどが東京の大学に進んだ。俺は検事を目指していたから、別にどの大学の法学部でも良かったんだけど、いつか家で友達と話しているとき、うっかり口を滑らせたことがあったんだ。


「あー良いよな。俺も東京 行きてえな〜」


早稲田を目指している友達にそんなことを言ったらしい。



其を 母さんは知っていた。




だから、母さんは東京に戻ったんだ。




父さんの事は、俺も 殆んど解らない。 母さんと高校の同級生で 俺が生まれる前に死んだってことぐらいしか 知らない。



俺を産んでから、母さんは大学に進んだ。

その時に力になってくれた母さんの友達が 以前 少しだけ話してくれた事がある。

俺の父さんは、大きな会社の一人息子で 母さんとの交際を反対されていたらしい。


二人の間にどんな事があったのか、判らないが俺は望まれて産まれてきたんだと、その人は言ってくれた。

俺の存在が 母さんに生きる力を与えたんだと・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





そこまで一気に話した匠は 涙を溜めた目元を掌で隠した。

キッと 今まで我慢していたんだろう。 彼の高飛車な態度は、精一杯の強がりだったのだ。


 

彼自身 強くならなければ、早く大人にならなければとの強迫観念に縛られているのかも知れない。




「匠君。 俺は 優奈さんに幸せになってもらいたい。勿論 君にもだ・・・

 けれど、彼女が匠吾さんを吹っ切れる為には、まだ 何かが足りないんだ。

 彼女が、君にも本当のことを話せていないだろう。

 長野に居た間、止まっていた彼女の時間は、ようやくここに戻って動きはじめたんだ。


 だから、もう少し・・・時間が欲しい。」


葉月が言った言葉に 匠は頷いてくれた。


葉月の苦悩に気付いてくれたのだろう。・・・本当に・・若いのに気をまわしすぎだ・・・


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