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 彼女に出逢ったのは、四月の晴れた日。

この高校のシンボルである古い桜の大木の下で 彼女は語り掛ける様に幹を抱き締めていた。


都立桜木高校


僕が教師になって始めて勤めた高校だ。大学を卒業して、二年講師を勤めた。 採用試験に合格したのが七年前。 それからズッとこの高校で、物理の教師をしている。





この春の異動で五人の教師が動いた。英語の教師が二人。 社会が一人。体育が一人。そして、校長。


彼女は、英語の教師、真藤優奈だ。四月始めの職員会議で自己紹介があった。

・・ 三十八歳。独身か既婚か?・・判らない。

が 左手の薬指には、指輪が光っている・・・ということは・・既婚者


「葛 先生? 宜しくお願いしますね。」

彼女が、隣の席に着き右手を差し出した。真藤先生は二年三組の副担になったのだ。

 因みに、僕が二年三組の担任だ。


「こちらこそ 宜しくお願いします。」

細い華奢な指だ。 爪が綺麗に整えられている。

「真藤先生は、前は瑞穂高校でしたよね?」

「ええ。そうです。 三年いました。その前は長野の私立です。この高校で三校目ですね。」

「そうなんですか?僕はまだ、ここしか知らないので、他の学校はどうなんでしょうね?」

「一緒ですよ。どこも。」

なんだか、あしらわれているみたいだ・・・口調が冷たい・・・


 




  新学期は何かと忙しく、慌しい。

 が・・忙しい間を縫って、新しくきた先生の歓迎会が、創作和食の「美園」で執り行われた。


校長の長い話が終わり、教頭の乾杯の挨拶の後は 無礼講だ。

「では、真藤先生一杯どうぞ」

僕は、ビール瓶をもって優奈先生に注いでいた。

「ありがとうございます。 葛先生もどうぞ」

「葛先生は、独身なんですか?」

「あはは。去年結婚したんです。」

「あら。おめでとうございます。 新婚さんなんですね?」

「はい。もうすぐ、子供が生まれるんですよ。」

「あらあら。おめでとうございます。子供はいいですよね? 本当に癒されます。」

「真藤先生は お子さんはいらっしゃるのですか?」

ふっと 優奈の顔が曇ったような気がした。

「ええ。一人。男の子です。」

やっぱり、結婚しているんだな・・・・

 こんな奥さんが家にいたら、何処も寄らずにすぐに帰っちゃうな〜・・・

「真藤先生みたいな奥さんなら、旦那さん自慢でしょうね?」

「・・・・・・・・・」

・・・おい。。おい。。地雷か? まさか バツ1?・・・

「そうかしらね?そんなこと言ってくれたこと無いから・・・

 ・・・まあ、いつも一緒にいるみたいなかんじですけど・・ね・・」

優奈は幸せそうな、切なそうな表情を浮かべた。

 

・・きっと・・・愛されているんだろうな・・・


僕の胸の奥が キュと痛くなった・・・


 

 

「先生。帰りは電車ですか?」僕は、真藤先生に尋ねていた。


「いいえ。車で迎えに来てくれるので・・・

  あっ  来ました。 じゃあ お先に きょうはありがとうございました。」

シルバーのラウンドクルーザーが、少し先で止まっている。

 

 ・・・いいな・・お迎えか・・愛だよな・・・・



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