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理想のヒモ生活  作者: 渡辺 恒彦
一年目
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プロローグ3【発覚した事実、俺は異世界人?】

 善治郎のその反応をある程度予測していたのか、アウラは小さく笑うと、落ち着いた声で説明を続ける。


「話せば長くなるが、まずは聞いて戴きたい。先ほども言ったとおり、我が国は長らく戦乱の世を生き抜いてきた。幸いにして、どうにか我が国はその戦乱における勝者の一人となることができたのだが、代償は大きかった。

 国民は減少し、国土は荒れ、直系の王族は私を除き、皆死に絶えたのだ。

 幸い国土と国民は、その後の国を挙げた努力によってどうにか回復の目処が立ったのだが、問題は王家だ。王族が私一人では、いつ血が絶えてもおかしくはない。

 私の結婚は絶対的な義務と言える。

 しかし、我が『カープァ』王家は、『時空魔法』という特殊魔法をその血に宿す血筋。結婚相手は誰でも良いわけではない。魔法を次代に残すため、同じカープァ王家の血を引く者が伴侶であることが望ましい」


「はあ、なるほど……」


 善治郎は、今一理解していないまま、反射的に相づちを打った。

 王家の血筋を純血に保つため、可能な限り近い血筋から伴侶を取るという風習は、地球でも昔はよく聞かれた話である。

 まして、この世界には血筋によって継承される『特殊魔法』という、目に見える恩恵があるのだ。純血が尊ばれるのも、当然の話である。


「でも、だったら尚更、なぜ私なんでしょう? 私は、魔法の魔の字も知らない地球人ですが」


 善治郎のその疑問に、アウラは意味ありげに笑い、答える。


「その理由は至極簡単。ゼンジロウ殿が、我が『カープァ』王家の血を色濃く受け継いでいるからだよ」


「……はあ? いやいや、なんですか、それ!? ないない、絶対無いですよ!」


 突拍子もないアウラの答えに、驚いた善治郎が顔の前でしきりに手を振るが、アウラはそれに取り合うことなく話を続ける。


「ことは、私の五代前、約百五十年前まで遡る。王家の文献からも抹消されている話なので、はっきりとは分からないが、当時の第一王子が本来結ばれるはずのない女と恋に陥ったのだそうだ。

 相手の女は、ただの平民だったとも、敵国の王族だったとも聞く。とにかく、次期国王として絶対に結ばれることが許されない人間を愛してしまったその王子は、両親である王や王妃の説得にも耳をかさなかった。

 そして、『この世界』では結ばれることを許されない恋人同士が出した結論が、二人で『異世界』へ行き、そこで結ばれるという、なんともロマンチックなモノだったのだそうだ」


 ここまで言われれば、善治郎にもアウラの言いたいことが理解できる。


「まさか……その子孫が私だと言いたいのですか?」


「その通り」


 呆然と問い返す善治郎に、アウラは笑みを崩さずに首肯する。


「私は無造作に今回の召喚魔法を使ったわけではない。一定より濃く、カープァ王家の血を引く男を召喚するように、設定した。その結果、現れたのはゼンジロウ殿、貴方だ。

 よって、ゼンジロウ殿がその二人の子孫であることはまず間違いあるまい」


「そんなまさか。いや、もしそれが本当だとしても、五代前ですよ!? 五代前って事は、私のええと……ひいひいひいじいさんとかでしょ? 私が引いている血なんて、ほんの僅かなのでは?」


「ああ、正直私もそれは覚悟していた。しかし、意外な事に、ゼンジロウ殿はかなり色濃く王家の血を引いている。直系とまでは行かないものの、分家筆頭クラスだ」


「わ、わかるのですか?」


 真面目な顔で断言するアウラに、善治郎はたじろぐように座り位置を後ろにずらしながら、尋ねる。


「分かる。『王家』の血を引いているかどうかは分からないが、訓練した魔術師ならば、人が潜在的に内包している魔力量は視認できる。ゼンジロウ殿の魔力量は明らかに、準王家クラスだ。

 私の召喚魔法に反応したということは、ゼンジロウ殿が『カープァ王家』の血筋であることは間違いなく、その魔力量から判断するに血の濃さも相当なモノであると推測される。こう言うのを嬉しい誤算、と言うのだろうな。

 まるで、そちらの世界に渡った人間が、意図的に近親婚を繰り返して血筋を保っていたかのようだ」


 アウラのその言葉に、善治郎はふとある事実に思いたる。


「あ、そうか! そう考えれば、つじつまは合う、のか?」


「ゼンジロウ殿? なにか、思い当たることがあるのだろうか?」


 小首を傾げて問いかけるアウラに、善治郎は少し考えながら答える。


「あ。はい。実は私の実家は、かなり歴史のある閉鎖的な農村なんです。昔から、外からの嫁入り、婿入りは一世代に一人か二人といった具合の」


 そんな閉鎖的で代わり映えのしない田舎に嫌気がさした善治郎は、関東圏の大学に進学し、そのまま就職を決めて、都会での生活をスタートさせたのだ。

 言われてみれば、少し前に死んだ両親をはじめ、あの村の人間には、日本人にしてはやけに肌の色が濃く、髪の色が赤みがかっている人間が多かった気がする。

 善治郎の言葉に、アウラは口元に手を当て、得心がいった言わんばかりに頷く。


「なるほど、その村の閉鎖性が結果として、異世界に流れた王家の血の拡散を押しとどめたと言うことか」


「はい、そう考えれば、つじつまは合いますね」


(マジ? 実は俺、純粋な日本人じゃなくて、大半は異世界人? 聞いたことねえぞ、そんな話!?)


 そう、つじつまはあう。あってしまう。善治郎は表面上は引きつった笑みを浮かべながら、内心では頭を抱えたくなるくらいのパニックに襲われていた。

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