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第1話:会社で怒鳴られた中年、異世界で没落貴族の当主になる

中年の男が、夜の街をふらふらと歩いていた。

しわだらけのワイシャツ、緩んだネクタイ。

足取りは明らかに不安定だ。

「……ちくしょう」

男は小さく悪態をついた。

「また怒鳴られた……」

「しかも、社長の息子に、だ」

吐き捨てるように笑う。



「俺が必死に働いてた頃、あいつはまだガキだったくせに」

「今じゃ役員様か。笑えない冗談だ」

頭が重い。

酒のせいか、それとも――人生そのもののせいか。

「なんで人生って、こうもうまくいかねぇんだ……」

その時。

街灯が、ちらついた。

「……ん?」

次の瞬間、足元の地面が消えた。

「おい、待――!」

白い光が視界を覆い尽くす。

そして、世界が途切れた。



「……え?」

男が目を覚ますと、そこは見知らぬ空間だった。

白い石造りの床、淡く光る魔法陣。

「ここは……どこだ?」

首を動かした瞬間、男は凍りついた。

すぐ隣に――

尖った耳を持つ少女が立っていたのだ。

「……エルフ?」

少女の肩が、小さく震える。

「やっと……」

「やっと、成功した……」

震える声。

男が彼女の顔を見る。

透き通るような青い瞳。

白い肌。

長い金髪。



そして、紛れもないエルフの耳。

「君は……誰だ?」

警戒する男に、少女は一歩近づき――

その手を、ぎゅっと握った。

「勇者様……」

「あなたは、私たちの家族の勇者です」

「……は?」

「自己紹介が遅れました」

少女は必死な表情で言った。

「私の名前は――アリシア」

「没落した貴族、オブライエン家の最後の後継者です」

「貴族……?」

男は困惑する。



「いや、俺はただの会社員で――」

「だからこそ、です」

アリシアはきっぱりと言った。

「オブライエン家は、すでに崩壊寸前」

「領地は奪われ、権力は失われ、他の貴族たちは私たちの滅亡を待っています」

男は息をのむ。

「そして……当主は、三日前に亡くなりました」

沈黙。



「私には、家を導く力がありません」

「ですが、この召喚儀式は決して間違えません」

アリシアは真っ直ぐ男を見つめる。

「あなたは、剣の勇者ではありません」

「魔法の勇者でもありません」

そして、静かに――

「あなたは、家を再建するための勇者として呼ばれたのです」

「……おいおい」

男は深くため息をついた。

「社長の息子に怒鳴られてた中年が……」

自分を指さす。

「貴族の当主?」

アリシアは迷いなく、うなずいた。

「はい」

「どうか――

オブライエン家の当主になってください」

その瞬間。



男の前に、光るウィンドウが現れた。

《ユニーククエスト獲得》

【没落貴族家再建】

目的:オブライエン家を率い、その名誉を取り戻せ

報酬:???

失敗条件:完全滅亡

「……はは」

男は乾いた笑いを漏らした。

「とんでもない人生だな」

だが――

胸の奥で、何かが静かに燃え始めていた。

「いいだろう」

男はアリシアを見た。

「働くなら……」

「今度は、一番上の席でだ」

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