表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Cat's Whiskers  作者: 七日
53/53

第五十一話:道標

静寂。

三人は、破壊し尽くされた指令室の、入り口で、ただ、荒い息をついていた。

長い、長い、夜が、ようやく、終わったのだ。


カミーユは、痛む身体に鞭打ち、立ち上がった。

「行くぞ。ここも、じきに、ヴァロワの増援が来る」


彼女は、ミシェル市長に肩を貸し、サシャもまた、コンソールから離れ、二人を援護する。

要塞の、崩れかけた通路を、三人は、脱出を急いだ。


---


数日後。

リヨンの、ウェイが用意した隠れ家のアパート。

ようやく、束の間の、平穏が訪れていた。

カミーユは、武器の手入れを、サシャは、自らのサイバーウェアのメンテナンスを、そして、コーエン博士は、ミシェル市長と、チェスを指していた。


その、静寂を破ったのは、アヤだった。

ミメシス・ドローンのスピーカーから、彼女の、思い詰めたような声が、響いた。


『……あの……』

彼女は、おそるおそる、といった様子で、ミシェル市長に、尋ねた。

『……市長。あなたは、ブラックアウト以前、政府の、かなり、上の立場にいたんですよね?』

「ああ。内務省の、しがない官僚だったがね」と、ミシェルは、チェスの駒から目を離さずに、答えた。


『……何か、心当たりは、ありませんか?』

アヤは、祈るように、続けた。

博士から、企業の設備では、『ラザロ』の起動に必要な「電力」が、絶望的に足りない、という事実を聞かされて以来、彼女たちの計画は、完全に、手詰まりの状態に陥っていた。

『……国家レベルの、巨大な発電施設と、そして、高度な、汎用の生体インターフェイスが、同じ場所にあるような、そんな場所……。どんな、些細な噂でも、構いません』


ミシェル市長は、腕を組み、深く、考え込んでいた。

彼の脳裏に、ブラックアウト以前の、膨大な記憶が、蘇る。

閉鎖された施設。凍結されたプロジェクト。地図の上から、消された、数々の、国家機密。


やがて、彼は、一つの、ほとんど忘れかけていた、計画の名を、思い出した。


「……一つだけ、あるかもしれん」

彼は、ゆっくりと、顔を上げた。

「……もう、何十年も前に、計画が凍結され、今は、使われていないはずの……宇宙基地は、どうだろうか?」


「宇宙基地……?」

博士が、驚きの声を上げる。


「ああ」と、ミシェルは頷いた。「トゥールーズにあった、旧国立宇宙研究センターだ。あそこには、ロケットを打ち上げるための、独立した、巨大な発電施設があったはずだ。そして……」

彼は、何かを、思い出すように、続けた。

「あそこは、フランスで、最も、高度な科学技術が集まる場所だった。宇宙飛行士たちの、健康を、完璧に、管理するために、当時、最高性能の、医療ポッドが、いくつも、導入されていた、という話を、聞いたことがある」


その言葉を聞いた、コーエン博士の顔色が変わった。

彼は、信じられない、という顔で、叫んだ。

「……最高性能の医療ポッド……。」


彼は、カミーユとアヤへと、向き直った。その目は、科学者としての、興奮に、輝いていた。

「……それだ!それだよ!カミーユ君!アヤ君!」

「それほどの性能のハードウェアがあれば……私が、私が、その場で、アヤ君用に、『ラザロ』を、完璧に、組み込んでみせる!」


部屋は、興奮の坩堝と化した。

絶望的な手詰まりの中に、たった一つの、細く、しかし、確かな光が、差し込んだ瞬間だった。


カミーユは、その、歓喜の輪から、一人、静かに離れると、窓の外の、廃都の夜景を見つめていた。

彼女の視線は、遥か、南西。

トゥールーズの、方角を、真っ直ぐに、見据えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ