第四十二話:壊れた兵士
「―――ようこそ、地獄へな!」
薄暗い倉庫に、ダミアンの低い声が響いた。
右腕の砲口がチャージを始め、青白い光が脈動する。
左手のスマートマシンガンが火を噴き、鋭い銃声が狭い空間を切り裂いた。
だがカミーユは撃たれる前に動いていた。
低く、滑るような踏み込み。
弾丸が壁にぶつかる寸前、彼女の影はデスクの影に流れ込んでいた。
「無駄だ!」
ダミアンが引き金を引き続ける。
跳弾が鉄骨を走り、破片が飛び散る。
だが――カミーユはもうそこにいない。
カミーユは反対側の壁を蹴り、ダクトの支柱を踏み台に跳び上がった。
空気を裂くようなスピンキックが、ダミアンの頬を直撃する。
巨体が一瞬たじろぐ。
「なにっ――」
反応するより早く、カミーユはダミアンの義手の肩口を蹴って着地し、
その勢いを利用して再び後方へバク転。
軽い身体が弾むように床を滑る。
ダミアンの反撃。義手の砲台が[ガシャコン!]と展開し、青白い光が閃いた。
チャージ音が倉庫の空気を震わせる。
だがその巨体は――重い。一度照準を振れば、修正には時間がかかる。
カミーユは一気に間合いを詰めた。
右側へフェイント、左へ転回。
スライディングで彼の死角へ滑り込み、膝をついた姿勢のまま肘打ちを叩き込む。
義手の下、動力ケーブルがきしむ音。
「ちょこまかとッ!」
ダミアンの拳が床を砕く。
粉塵が舞い上がる中、カミーユは敵の腕を取って身体ごと回転した。
肘関節を極め、そのまま背後へ回り込み――
ドンッ!
カミーユのヒールキックが、義手と肩の接合部に炸裂する。
火花が散り、ダミアンの腕が制御不能に暴れ出した。
「ぐ……ああああああ!」
ダミアンが砲身を無理やりこちらに向けようとするよりも早く、
カミーユはすぐ脇にあった補強用の鉄骨支柱に目をやった。
片足で跳び上がり――その支柱を蹴り飛ばすように利用して反転。
その勢いをぶつけるようにダミアンの背中に叩きつける。
衝撃で巨体がバランスを崩し、床にひびが走る。
「ぐっ……!」
わずかなよろめき――だが、それで十分だった。
そして――
カミーユは彼の懐に飛び込み、腰を軸に身体を捻る。
圧電ブレード「スティンガー」が、義手の付け根に深々と突き立った。
「終わりだ」
柄頭を押し込む。
[バチバチバチィィィィン!!]
青いスパークが、暗闇を一瞬だけ昼間のように照らす。
ダミアンの体が痙攣し、砲口から不発の光が吹き出す。
巨体が後ろに崩れ落ち、コンクリートの床を揺らした。
倉庫に静寂が戻る。
硝煙と焦げた肉の匂い。
壊れた兵士の息は、もう荒い音も立てなかった。
カミーユは血の滲んだ手を払い、無言でデータケースを拾い上げる。
遠くでサイレンが鳴った。
彼女の足音が、ネオンの夜に溶けていく。




