表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Cat's Whiskers  作者: 七日
36/53

第三十四話:モンテ・クリスト

カミーユとコーエン博士は、汚水の中を、必死に走っていた。

上からは、銃声と、兵士たちの怒号が、くぐもって聞こえてくる。

『カミーユ!ドクター!聞こえる!?』

アヤの声が、ノイズ混じりで、ようやく届いた。『よかった……!でも、追手がすぐそこまで来てる!急いで!』

カミーユは、足を止め、息を切らす博士に、肩を貸した。

10年間、ろくに歩くこともなかったであろう彼の身体は、すでに限界に近かった。

「しっかりしろ、博士。死にたくなければ、歩け」

「分かって、いる」

二人は、アヤが視界に投影する簡易マップだけを頼りに、暗く、悪臭の立ち込める地下水道を進んでいく。

『一番近い、バ=カルティエに繋がる排水口まで、あと500メートル……!でも、そのルート上に……!』

アヤの言葉が、途切れる。

カミーユたちが、腰まで水に浸かる、広い貯水槽のような場所に出た、その時だった。

前方の通路の闇の中から、複数の、赤い光が、一斉にこちらを向いた。

バスティオン社の鎮圧部隊。彼らは、先回りして、ここでカミーユたちを待ち構えていたのだ。

「そこまでだ、侵入者!」

カミーユは、咄嗟に、博士を近くの太い柱の影へと押し込んだ。

そして、自らも身を隠しながら、先ほど手に入れたばかりの、あの黒い試作ハンドガンを構えた。

[ダダダダダッ!]

鎮圧部隊の銃弾が、コンクリートの柱に、火花を散らす。

絶望的な火力差。まともに撃ち合えば、数秒で蜂の巣にされる。

『カミーユ!奴ら、分厚い柱の影に隠れてる!こっちからは、手が出せない!』

アヤが、悲鳴のような声を上げる。

カミーユは、静かに、試作銃のスマートスコープを覗き込んだ。

そして、彼女は、息を呑んだ。

スコープの映像が、ノイズ混じりに切り替わり、柱の向こうにいるはずの兵士たちの姿が、赤い人影として、壁越しに、完璧にマーキングされている。

(……何だ、これは……?)

彼女は、銃口を、目の前の兵士ではなく、彼らが隠れている、分厚いコンクリートの柱そのものに向けた。

そして、トリガーを引いた。

[バシュッ!バシュッ!バシュッ!]

3点バーストで放たれた、超硬度のクリスタル弾が、柱に吸い込まれるように着弾する。

そして、次の瞬間。

柱の向こう側から、兵士たちの、短い断末魔が響き渡った。

弾丸は、分厚いコンクリートを、いともたやすく貫通し、その背後に隠れていた兵士たちの身体を、正確に撃ち抜いていたのだ。

「なっ!?」

「壁を、貫通しただと!?」

残った兵士たちが、信じられない光景に、動揺する。

カミーユは、その隙を逃さなかった。

彼女は、遮蔽物から飛び出すと、動揺する残りの兵士たちを、その圧倒的な貫通力で、次々と無力化していく。

数秒後。

通路には、沈黙した、鋼鉄の亡骸だけが転がっていた。

カミーユは、手の中の、まだ硝煙の匂いがする、黒いハンドガンを見下ろした。

そして、隣で震える男に、尋ねた。

「博士。この銃は、何だ」

「『モンテ・クリスト』……」

博士が、かすれた声で答えた。「壁の向こうの敵に、復讐を届ける……。皮肉な名前だ。……もし、トリガーを長押しすれば、フルチャージモードになる。だが、気をつけたまえ。放った後、数秒間は、完全に、機能停止する」

カミーユは、その口元に、獰猛な笑みを浮かべた。

『カミーユ、出口は、もうすぐだ!でも、その先に、さらに大規模な部隊が集結してる!待ち伏せだ!』

アヤの警告。

「分かっている」

カミーユは、博士に肩を貸すと、再び、暗闇の中を、歩き始めた。

出口の先には、地獄が待っている。

だが、今の彼女の手には、その地獄を、こじ開けるための鍵が、握られていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ