第三十三話:突破口
[ガガガガガッ!]
閉鎖されたブラストドアの向こうから、プラズマカッターが分厚い鋼鉄を焼き切る、耳障りな音が響き渡る。敵の突入まで、もはや一分とない。
「博士、この部屋から、外に出る他のルートは?」
カミーユは、冷静に、しかし、迅速に問いかけた。
「ない!あるはずがない!」
コーエン博士は、パニック状態で首を振った。「この部屋は、完璧な牢獄として設計されているんだ!もう、終わりだ……」
その時、アヤの声が、カミーユの頭の中に直接響いた。
『カミーユ!聞こえる!?』
「ああ」
『設計図の、さらに下……古い、旧リヨン市の、地下水道網がある!このアーカイブの床の、すぐ下に!』
カミーユの視線が、即座に床へと落ちる。
分厚い、強化コンクリート。だが、突破口は、そこしかない。
「アヤ、床の構造スキャンを。一番、脆い場所はどこだ」
『やってる!……あった!部屋の隅、古いメンテナンス用の配管が通ってる場所!そこなら!』
カミーユは、アヤが視界に表示したターゲットマーカーへと、アルバレッテを構えた。
「な……何を……」
博士が、唖然として、その姿を見ている。
カミーユは、パイルバンカー・ボルトを装填すると、博士に一言だけ、告げた。
「伏せろ」
[プシュッ、ガキン!]
轟音と共に、アルバレッテが火を噴き、ボルトが床の一点に突き刺さる。
凄まじい衝撃が、強化コンクリートを粉砕し、直径1メートルほどの、黒い穴を穿った。
穴の向こうからは、淀んだ、水の匂いがした。
[ドゴォォン!]
ほぼ同時に、背後のブラストドアが、内側へと吹き飛んだ。
そこから、重装備のバスティオン社鎮圧部隊が、一斉になだれ込んでくる。
「博士!何か武器は!」
カミーユが、博士に叫ぶ。
「そ、それを使え!」
博士が指差したのは、ラボの片隅に、実験用に置かれていた、一つの武器ケースだった。
カミーユは、そのケースを破壊し、中から、流線型でありながら、どこか無骨さも感じさせる、黒い試作ハンドガンを取り出した。
その、ずっしりとした重みが、手に馴染む。
先頭の兵士が、カミーユを捉え、ガトリングガンを構えた、その瞬間。
カミーユは、試作銃のトリガーを引いた。
[バシュッ!バシュッ!バシュッ!]
3点バーストで放たれた、超硬度のクリスタル弾が、兵士の分厚い胸部装甲に、吸い込まれるように着弾する。
だが、弾丸は、そこで止まらなかった。
兵士の装甲と、その身体を、まるで紙のように貫通した弾丸は、勢いを失うことなく、彼の真後ろにいた、二人目の兵士の身体をも、寸分違わず撃ち抜いていた。
「なっ!?」
「馬鹿な、装甲が……!?」
先頭の二人が、同時に、火花を散らしながら崩れ落ちる。
鎮圧部隊の兵士たちの間に、ありえない光景を前にした、一瞬の動揺が走った。
カミーユは、その隙を逃さなかった。
彼女は、博士の身体を、床に開いた穴の中へと、半ば強引に押し込んだ。
「行け!」
そして、自らも、穴の中へと飛び込む直前、彼女は、部隊に向かって、一つの小型ディスクを投げつけた。
アヤが作った、即席のEMPグレネードだ。
青白い光が炸裂し、兵士たちの視覚センサーを、数秒間だけ、完全に焼き切った。
カミーユは、その光を背に、地下水道の暗闇へと、その身を躍らせた。
カミーユと博士は、汚水の中を、必死に走っていた。
上からは、銃声と、兵士たちの怒号が、くぐもって聞こえてくる。
『……カミーユ!ドクター!……聞こえる!?』
アヤの声が、ノイズ混じりで、ようやく届いた。『よかった……。でも、ここからが、本当の地獄だよ。ジグラットの地下は、迷宮だ』
カミーユは、足を止め、息を切らす博士に、肩を貸した。
そして、手にしたばかりの、黒いハンドガンを、静かに見下ろす。
その存在が、この、ありえない脱出劇の、唯一の希望の光に思えた。




